はじめに

企業経営者にとって、雇用契約書の作成や管理は、労務トラブルを防ぐために欠かせない重要な業務です。適切な雇用契約書が整備されていない場合、後々のトラブルが発生する可能性が高まります。しかし、どのように雇用契約書を作成すべきか、またどのような内容を盛り込むべきかについては、経営者の間でも疑問が多いのではないでしょうか。本稿では、一般的な企業経営者の質問に答える形で、雇用契約書の基本的な作成方法や注意点について、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説いたします。

Q&A

Q1: 雇用契約書は必ず作成する必要があるのでしょうか?

A1: 雇用契約書の作成は法的に義務付けられているわけではありませんが、労働条件の明示は労働基準法により義務とされています(労働基準法第15条)。そのため、契約内容を明確にし、トラブルを未然に防ぐためには、雇用契約書の作成が強く推奨されます。雇用契約書がない場合でも、労働条件通知書を用いることで最低限の情報を労働者に伝えることが可能ですが、契約内容を両者が確認し合意するためにも、書面での契約を整備することが望ましいです。

Q2: 雇用契約書にはどのような項目を含めるべきでしょうか?

A2: 雇用契約書に記載すべき事項は、労働基準法や関連法令に基づき「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」に分類されます。それぞれの項目を整理して解説いたします。

絶対的記載事項

絶対的記載事項とは、雇用契約書に必ず記載しなければならない事項を指します。これらは労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条に基づいています。

労働契約の期間

無期契約か有期契約かを明確にする必要があります。有期契約の場合、その契約期間を具体的に記載します。

就業の場所および従事すべき業務の内容

労働者が働く場所と、従事する業務内容を明示します。特に、勤務場所や業務内容の変更があり得る場合、その範囲も記載することが求められます。

始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務の際の就業時転換に関する事項

勤務時間、休憩時間、休日・休暇の詳細を記載します。変形労働時間制やフレックスタイム制を導入している場合、その詳細も明示が必要です。

賃金の決定、計算および支払いの方法、締切日および支払日

基本給や手当、残業代の計算方法、賃金の締切日および支払日を明示します。特に、最低賃金法を下回らないよう注意が必要です。

退職に関する事項(解雇の事由を含む)

退職の手続き、自己都合退職の場合の届出期間、解雇の理由や手続きについて記載します。特に解雇については、就業規則に従って具体的な手続きを明示します。

相対的記載事項

相対的記載事項とは、特定の条件に該当する場合や、企業が定める場合に記載が求められる事項を指します。

昇給に関する事項

昇給がある場合、その有無や条件、時期などを明記します。昇給がない場合でも、その旨を明示することが望ましいです。

賞与および退職金に関する事項

賞与や退職金の支給がある場合、その条件や計算方法、支給時期を記載します。支給しない場合でも、契約書にその旨を明記することがトラブル防止に役立ちます。

労働者に負担させる費用に関する事項

制服代や作業用品費用など、労働者が負担する費用がある場合、その内容を具体的に記載します。

安全衛生に関する事項

労働者の安全や健康を確保するための措置や、事業場内での安全規則に従う義務などについて記載します。

職業訓練に関する事項

労働者に対する教育訓練やスキルアップの機会がある場合、その内容や実施条件について明示します。

災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項

労働者が業務中の事故や災害で負傷した場合の補償や、業務外での傷病に対する補助について記載します。

表彰および制裁に関する事項

労働者に対する表彰や制裁の基準と手続きを記載します。特に懲戒処分については、具体的な内容を明示することが求められます。

休職に関する事項

病気や介護などの理由で休職が必要な場合、その手続きや条件、期間について記載します。

Q3: 雇用契約書の内容を変更する場合の注意点はありますか?

A3: 雇用契約書の内容を変更する際には、労働者の同意を得ることが必要です(労働契約法第8条)。特に労働条件の不利益変更に該当する場合、労働者が変更を拒否する権利があります。また、変更内容が労働基準法や就業規則に違反していないか、十分に確認することが重要です。

例えば、賃金の引き下げや勤務時間の変更を行う場合には、労働者に対する十分な説明と同意が求められます。また、就業規則が改訂される場合でも、労働者への周知徹底を図り、同意を得た上で実施することが求められます。契約内容の変更に際しては、書面による記録を残すことがトラブル回避に役立ちます。

Q4: 雇用契約書に記載する際に、特に注意すべき法律や規則は何ですか?

A4: 雇用契約書を作成する際には、労働基準法や労働契約法、また労働組合法や就業規則など、関連する法令や規則に注意を払う必要があります。具体的には、以下のような点に注意が必要です。

  1. 労働基準法の遵守: 労働条件が労働基準法で定められた最低基準を下回ってはならず、例えば最低賃金や労働時間、休憩時間、休日などについては、法律で定められた基準に従う必要があります(労働基準法第13条、第32条、第34条など)。
  2. 就業規則との整合性: 雇用契約書の内容は、就業規則と一致させる必要があります。特に、就業規則が定める条件よりも労働者にとって不利益な内容が記載されている場合、当該部分は無効となり、就業規則の内容に修正されます(労働契約法第12条)。
  3. 労働協約の影響: 労働組合と締結された労働協約がある場合、個別の雇用契約書が労働協約の内容に反する場合には、その部分は無効となり、労働協約の内容に修正されます(労働組合法第16条)。
  4. 労働契約法の適用: 労働契約法は、労働者と使用者の契約内容に影響を与える重要な法律です。特に、解雇や雇い止めに関する規定や、労働条件の不利益変更に関する規定に注意が必要です(労働契約法第19条など)。

弁護士に相談するメリット

雇用契約書の作成や見直しを進める際に、弁護士に相談することで得られるメリットは多岐にわたります。

  1. 法的リスクの軽減: 弁護士は、労働法に精通しており、企業が法的リスクを最小限に抑えながら、適切な雇用契約書を作成する手助けをします。特に、企業独自の複雑な労働条件や、労働法の最新の改正に対応するためには、専門的な知識が不可欠です。
  2. 契約内容の最適化: 企業の実情や業界の特性に合わせた契約内容を提案し、法令に準拠した形で労働者との契約を整えます。これにより、後々のトラブルを防ぎ、企業の信頼性を高めることが可能です。
  3. トラブル回避: 雇用契約書を適切に整備することで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。特に、解雇や賃金に関するトラブルは法的リスクが高いため、弁護士のアドバイスを受けることで、リスクを回避することができます。
  4. 最新の法改正への対応: 労働法は頻繁に改正されるため、常に最新の法律に準拠した契約書を作成することが重要です。弁護士に相談することで、最新の法改正にも対応した契約書を整備することができます。

まとめ

雇用契約書は、企業と労働者の間の信頼関係を築くための重要なツールです。適切な内容を盛り込み、法令に準拠した契約書を作成することで、安心して経営に集中することができます。特に、企業が成長し、労働環境が複雑になる中で、トラブルを未然に防ぐための雇用契約書の整備は不可欠です。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、雇用契約書の作成や見直しに関する専門的なアドバイスを提供しており、企業の法的リスクを軽減するためのサポートを行っています。必要に応じて、ぜひご相談ください。


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