ポイント
- 契約の成立要件は、申込みと承諾の意思表示の合致(合意)をいう
- 契約の成立時期は、発信主義から到達主義へと転換される
- 契約書の作成日を記入することで、当事者間で契約が成立したことが明確になる
契約の成立要件
<改正民法にて新設>
(契約の成立と方式)
第522条
1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 (略)
契約の成立要件とは、申込みと承諾の意思表示の合致(合意)をいいます。
意思表示が外形的にも存在しない場合には、法律行為は不成立となります。
現行民法においては、合意による契約の成立は当然のこととして特段法律で規定されていませんでしたが、改正民法においては、申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致により契約が成立することが明文化されています(改正民法522条1項)。
この点、契約の申込みに際して必要とされる「契約の内容を示して」の意義について、文言上はどのような内容を示す必要があるかは判然としません。
そのため、不十分な内容の提示にとどまる場合、契約の「申込み」ではなく、「申込みの誘引」(相手方を誘って申し込みをさせようとする意思表示。≠「申込み」)にすぎないと解釈され、契約が成立しなくなるおそれがあります。
そのため、改正民法施行後は、できる限り契約の内容を具体的に特定した上で、契約の申込みを行うことが望ましいといえます。
契約の成立時期
現行民法 | 改正民法 |
---|---|
(隔地者間の契約の成立時期) 第526条
(隔地者に対する意思表示) 第97条
|
<新設> (契約の成立と方式) 第522条
(意思表示の効力発生時期等) 第97条
|
現行民法においては、契約の成立時期を承諾の発信時と規定しています(現行民法526条1項)。
これに対して、改正民法においては、契約の成立要件が明文化されるだけでなく、契約の成立時期について発信主義から到達主義へと転換されることにも注意が必要です。すなわち、契約の申込み・承諾等を含む意思表示全般の効力発生時期を定める改正民法97条1項は、「相手方に到達した時」に効力が生じる旨規定しています。
そして、前記のとおり、改正民法522条1項は、契約の成立時期について、「相手方が承諾をしたとき」と規定するとともに、承諾については例外的に発信したときに効力が生じると規定する現行民法526条1項が削除されることから、承諾の意思表示の効力は、意思表示の効力発生時期の一般原則である改正民法97条1項が適用され、到達時に効力が生じることとなります。
このように、改正民法においては、承諾の意思表示が相手方に到達しなければ契約は成立しないことから、承諾が到達しなかった場合のリスクは承諾者が負うことになります。
したがって、承諾者としては、書留郵便を利用するなど、承諾の到達を記録に残しつつ承諾を行うことが望ましいといえます。
契約書の作成日の意味
前記のとおり、契約は、改正民法においては、承諾の意思表示が相手方に到達しなければ契約は成立しないことになります。
そこで、契約書を取り交わす際、契約書の作成日付を記入することで、同日に相手方が契約の承諾をしたことが確認できることになります。
契約書の作成日が空欄であった場合、果たして契約がいつ成立したといえるのか、疑義が生じるおそれがあります。
したがって、契約の成立時期が争いになることを未然に防ぐためにも、契約書の作成日付は明記しておくことが望ましいといえます。
なお、中には、契約の効力発生時期を、契約書の作成日付よりも遡らせたいと考えるケースもあります。
もっとも、このようなケースであっても、契約書作成日を実際の日付よりも遡らせるというバックデートを行うことは、事実と異なる記載をするというリスクがあることから、契約書本体の中に、契約の効力発生時期を遡及的に発生させる旨の条項を記載することで対応したほうが無難といえます。
遡及適用の条項例としては、以下のようなものが考えられます。
「本契約は、契約締結日にかかわらず、〇〇年〇月〇日より遡及的に適用するものとする。」
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