相談事例

当社の従業員のモチベーションを向上させ、中長期的に業績向上を図るべく、新たに従業員に対してストックオプションを付与することを検討しています。

役員に対してストックオプションを付与することは一般的に行われているかと思いますが、従業員に対して付与する際に注意すべき点があれば教えてください。

なお、当社は非公開会社で、取締役会設置会社です。

回答

ストックオプションとは、新株予約権の一種で、役員に対してだけでなく、従業員に対して付与することも認められています。

なお、従業員に付与する場合、賃金通貨払いの原則(労基法24条1項本文)に抵触しないかが問題となりますが、通常は問題ないものと考えられています。

ただし、就業規則に新株予約権付与に関する規定をおくべきとされていることに注意が必要です。

解説

ストックオプションとは

ストックオプションとは、新株予約権のうち、取締役や使用人に対してインセンティブ付与の目的で与えられるものをいいます。

そして、新株予約権とは、株式を将来においてあらかじめ設定された価格で購入することができる権利をいい、ストックオプションの付与を受けた取締役等は、将来付与された会社の株価が上がった場合に、あらかじめ設定された割安な価格で新株予約権を行使して株式を購入した後、これを上回る株価で売却することによって利益を得ることを目的としています。

新株予約権は誰に対してでも付与することができるため、資金の乏しいベンチャー企業が取引先に対して現金に代えて発行することも認められています。

非公開会社におけるストックオプション付与の手続

新株予約権であるストックオプションの発行手続は、概要以下のプロセスを経ることとなります。なお、以下の図は、非公開会社・取締役会設置会社・有利発行に該当することを前提としています。

① 株主総会特別決議
有利発行の場合、取締役は、株主総会において、当該条件又は金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない(会社法238条3項・239条2項)

② 取締役会決議(募集事項の決定)
③ 申込みをしようとする者に対する通知

④ 申込み
③ 取締役会決議(総数引受契約)

④ 総数引受契約の締結
⑤ 割当の決定(取締役会決議)

⑥ 申込者に対する通知

⑦ 割当日(新株予約権発行日)

⑧ 払込期日

⑨ 新株予約権原簿の作成

⑩ 変更の登記

従業員に対するストックオプション付与と賃金通貨払いの原則

ストックオプションは取締役等の役員に対するインセンティブ報酬の目的で付与されることが多いといえますが、従業員に対して付与することも認められています

もっとも、従業員に対してストックオプションを付与する場合、従業員は労基法の適用対象である「労働者」であるため、ストックオプションが「賃金」(労基法11条)に該当する場合、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とする労基法24条1項本分(賃金通貨払いの原則)に違反しないかが問題となります。

この点、厚労省通達において、ストックオプションは、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また、権利行使をするとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかは、労働者の判断と決定に委ねられているので、ストックオプションの付与は労基法の定義する「賃金」には当たらず、労基法24条1項には違反しない、とされています(平成9年6月1日基発412号)。

ただし、ストックオプションを労働者に対して制度として実施する場合には、労働条件の一部となるため、就業規則において新株予約権の付与に関する規定をおくべき、と考えられています(労基法89条10号)。

参考文献

江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)

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