相談事例

当社では、取締役の他に監査役を設置していますが、このたび6月の株主総会において取締役A氏について、取締役の任期満了とともに、直ちに監査役に選任することを検討しています。

A氏の取締役退任後、直ちに監査役として選任することに何か問題があるでしょうか?

回答

A氏が取締役を退任した後、同氏を監査役に選任することについては、監査役と取締役等との兼任を禁止した会社法335条2項に違反しないかが問題となりますが、裁判例等に照らし、特段の問題はないと思われます。

解説

取締役退任後、監査役として選任することの可否(「横すべり監査役」)

事業年度の途中で招集された株主総会において、それまで取締役であった者が退任して新たに監査役に選任された場合、当該監査役(いわゆる「横すべり監査役」)は、自分が取締役であった期間についても監査役として自らを含む取締役の職務執行を監査することとなります。

かかる横すべり監査役による自己の取締役としての職務執行に関する監査は自己監査といえ、監査役と取締役等との兼任を禁止し、自己監査を防止して公正な監査を担保しようとした会社法335条2項の趣旨に反しないかが問題となります。

学説及び裁判例

上記の論点について、学説の多数説は、会社法335条2項は、文言上、退任した取締役が直ちに監査役となることを禁止しておらず、退任後における事後的な「自己監査」は動向の対象外であること等を理由に、特に同項に違反しない、としています。

また、平成17年改正前商法276条(会社法335条2項に相当します)に関する裁判例ではありますが、「取締役であった者が立場を変えて心機一転監査役の立場で過去の取締役としての職務執行を事後監査することは可能」と判示しています。

したがって、取締役退任後、監査役に選任することは会社法上、問題ないものと思われます。

ご相談のケースについて

以上のとおり、A氏が取締役を退任した後、同氏を監査役に選任することについては、監査役と取締役等との兼任を禁止した会社法335条2項に違反しないかが問題となりますが、裁判例等に照らし、特段の問題はないものと思われます。

参考文献

江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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