相談事例

当社のドライバーAが、荷主Bから「予定時間ギリギリに到着するとはどういうつもりだ」「荷卸しも雑で、とても仕事を任せられない」などと叱責されました。

Aは、その場は平謝りしてなんとか帰ってきましたが、それでも収まらず、翌日には営業所にまで電話をかけてきて、Aが担当した搬送業務に関する苦情を1時間以上にわたって怒鳴り続けてきました。さらに、その後も荷主Bからたびたび本社あてに連絡が来ています。

Aにも詳しい事情を聞きましたが、特にAの対応には落ち度はないと判断できました。

荷主Bは弊社の顧客である以上、何も対応できないのでしょうか。

解説

カスタマーハラスメントとは

近時は、顧客からの過剰な要求や嫌がらせによって、対応にあたる従業員が強い精神的・肉体的苦痛を受けるケースが目立つようになっています。

このように、顧客からの行き過ぎた要求は、「カスタマーハラスメント」と呼ばれることがあります。

「カスタマーハラスメント」を明確に定義した法律は現時点ではありませんが、パワハラ防止法に関する厚生労働省作成の令和2年1月15日付け「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」[1](以下「本件指針」といいます。)において、参考となる記載があります。

本件指針では、「顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)」に関し、事業主が行うことが望ましい取組内容を紹介していますが、ここにいう「顧客等からの著しい迷惑行為」が、「カスタマーハラスメント」に該当するものと考えられます。

[1] 厚生労働省|事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(PDF)

事業主として求められるカスタマーハラスメントへの対応

厚生労働省も、「カスタマーハラスメント」を看過すべきではなく、事業主として従業員を保護するために以下の措置を講じることを求めています。

詳細については下記に記載していますが、事業主として、カスタマーハラスメントに泣き寝入りするのではなく、従業員を保護すべく、毅然とした対応をとる必要があります。

事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、(1)及び(2)の取組を行うことが望ましい。また、(3)のような取組を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。

 

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、4(2)イ及びロの例も参考にしつつ、次の取組を行うことが望ましい。

 また、併せて、労働者が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。

イ 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。

ロ イの相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 

(2)被害者への配慮のための取組

 事業主は、相談者から事実関係を確認し、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うことが望ましい。

(被害者への配慮のための取組例)

事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。

 

(3)他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組

 (1)及び(2)の取組のほか、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為からその雇用する労働者が被害を受けることを防止する上では、事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも有効と考えられる。

 また、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては効果的と考えられる。

ご相談のケースについて

本件でも、企業は、相手方が顧客だからといって泣き寝入りするべきではありません。相手方が顧客であっても、理不尽な要求に応じることは、かえって過剰な要求をエスカレートさせるおそれがあるだけでなく、自社の従業員に対する安全配慮義務の懈怠にほかならず、ひいては職務に精勤する従業員の働く意欲を低下させ、離職率を向上させるおそれもあります。

運送業界では、人手不足・高齢化に悩んでいるところ、このようなカスタマーハラスメントには毅然とした対応で臨むことで、企業としての存在感を発揮するべきといえます。

顧客からのクレームがすべて不当とは限りません。企業としては、まずは事実関係を精査し、顧客からのクレームに法的根拠があるかどうかを検討しましょう。

そして、顧客からのクレームに法的根拠があるのであれば、想定される法的責任の範囲を見極めて対応する必要があります。クレームに対応する場合には、法的責任の範囲を超えて過剰な対応をしてしまうと、かえって不当な要求を誘発することになりかねませんので、どこまでの範囲で対応するかをよく見極めなければなりません。

一方、顧客からのクレームに法的根拠がないのであれば、企業としては顧客の要求に対しては毅然と拒否する必要があります。企業は、顧客からの不当な要求を拒否することによって、従業員の尊厳を守るだけでなく、当該事業の社会的価値を守ることにもつながるという気概をもって臨んでいただきたいと思います。

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