相談事例
当社では株主総会における議決権行使の方法として書面投票制度を採用していますが、今年度からインターネットによる電子投票制度も併せて導入することとしました。
このたび、取締役選任に関する議題について、大株主Aから、書面投票では「賛成」と記載されていた一方、その後に送信された電子投票では「反対」と記載されていました。この場合、当該議題について、Aは「賛成」、「反対」いずれを有効な議決権行使として扱うべきでしょうか。
また、同じ議題について、電子投票では「賛成」と記載していた株主Bが、電子投票後、株主総会に実際に出席してきて「反対」に投じた場合、いずれを有効な議決権行使として扱うべきでしょうか。
回答
書面投票と電子投票双方を採用している会社は、招集事項において、両者の内容が対立する場合にどちらが優先するかを定めておくことが可能です。また、こうした定めがない場合、時間的に後に出された議決権行使を優先するのが一般的であるため、Aの「反対」と記載した電子投票が後に行われたのであれば、Aは「反対」に投じたものとして扱うこととなります。
また、既に電子投票を行った場合であっても、株主総会に出席すると電子投票の効力が失われるため、株主総会に出席したBは、「反対」に投じたものとして扱うべきこととなります。
解説
インターネットによる議決権行使(電子投票制度)
会社は、株主総会の招集事項として、株主が電磁的方法による議決権行使(電子投票)を行うことができる旨定めることが認められています(会社法298条1項4号、4項)。
なお、書面投票制度と異なり、株主数が1000人以上であっても、電子投票制度の採用は義務づけられていません。
電子投票制度を採用した場合、会社は、電磁的方法によって議決権行使書面に記載すべき事項を株主に提供する必要があります(会社法301条1項、会社法施行規則66条)。
なお、電子投票制度は、書面投票制度を基礎として設計されていることから、電子投票の取り扱い等については、基本的に書面投票制度と同様の議論が妥当するため、「株主総会 書面投票制度と議決権行使の「棄権」の取扱い」についてもご参照ください。
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書面投票と電子投票の重複行使
会社は、書面投票制度と電子投票制度を併せて採用することも可能ですが、その場合、書面投票と電子投票が重複して行使された場合、両者間で議決権の内容が矛盾・対立する場合が考えられます。
かかる場合に備えて、まず、会社法上、書面投票と電子投票の内容が対立する場合の処理についてあらかじめ招集事項又は定款に定めることができます(会社法施行規則63条4号ロ)。
具体的には、「時間的に後に到達したものを有効とする」、「白票とする」といった定めや、時間的な先後とは関係なくいずれかが優先するとして、たとえば「書面投票と電子投票による議決権行使が重複した場合、電子投票が優先する」といった定めも有効とされています。
次に、かかる事項を招集事項等に定めていなかった場合、議決権行使の時間的な先後により、「後に出された方が優先する」(≠「後に到着した方」)ものと解するのが一般的です。
電子投票と出席による議決権行使の優劣関係
電子投票による議決権行使が認められるのは、「株主総会に出席しない株主」だけです(会社法298条1項4号)ので、株主が既に電子投票を行った場合であっても、当該株主が株主総会に出席すると、既に提出した電子投票の効力は失われるものと解されています。
なお、これには株主自身が実際に株主総会に出席した場合だけでなく、代理人を出席させた場合も含まれるものと解されていますので、電子投票を行った株主が委任状を付与した場合には、常に委任状が優先し、電子投票の内容にかかわらず委任状に基づく代理人の議決権行使が有効になります。
ご相談のケースについて
書面投票と電子投票双方を採用している会社は、招集事項において、両者の内容が対立する場合にどちらが優先するかを定めておくことが可能です。また、こうした定めがない場合、時間的に後に出された議決権行使を優先するのが一般的であるため、Aの「反対」と記載した電子投票が後に行われたのであれば、Aは「反対」に投じたものとして扱うこととなります。
また、既に電子投票を行った場合であっても、株主総会に出席すると電子投票の効力が失われるため、株主総会に出席したBは、「反対」に投じたものとして扱うべきこととなります。
参考文献
江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)
(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。
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