はじめに

「明日1日だけ人手が欲しい」「今週の繁忙期だけ、臨時のスタッフを確保したい」といった需要は、多くの企業が日常的に直面する課題です。かつては、こうした超短期の需要に対し「日雇い派遣」が広く利用されていました。

しかし、日雇い派遣は、労働者の雇用が不安定であり、労働災害の防止や安全衛生教育が困難であるといった問題が指摘されたため、2012年の労働者派遣法改正により、日雇い派遣(日々または30日以内の期間を定めた派遣)は原則として禁止されました 。

この原則禁止のルールを知らずに、あるいは「例外要件」を誤って解釈したまま日雇い派遣を受け入れた場合、派遣先企業は行政指導の対象となるだけでなく、意図せず派遣労働者を直接雇用する義務を負う「労働契約申込みみなし制度」 という重大な法的リスクに直面します。

本稿では、日雇い派遣に関する厳格な法的制限と、適法に活用できる「例外要件」について解説します。

Q&A:日雇い派遣の法的制限

Q1. 日雇い派遣は、完全に禁止されたのですか?

いいえ、「原則禁止」です 。法(労働者派遣法第35条の4)は、雇用期間が30日以内の日雇い派遣を禁止していますが、一定の「例外」を設けています。適法となるのは、(A)例外として認められる「業務」に従事させる場合、または、(B)例外として認められる「人」を派遣する場合、のいずれかを満たすケースに限られます。

Q2. 「登録型派遣」と「日雇い派遣」の違いは何ですか?

この二つは、異なる概念です。

  • 日雇い派遣:契約「期間」による分類です。「30日以内」の契約を指します 。
  • 登録型派遣:「雇用形態」による分類です。派遣会社に登録だけしておき、仕事(派遣先)が見つかった時点で、その仕事の期間だけ派遣元と雇用契約を結ぶ形態を指します。

日雇い派遣の多くは、登録型派遣という形態で行われますが、例えば契約期間が3ヶ月の登録型派遣であれば、それは日雇い派遣には該当しません。

Q3. 例外として認められる「業務」とは、専門職だけですか?

(法的修正点)これは非常に多い誤解です。(元原稿)では「ソフトウェア開発」など高度専門職のみが例示されていましたが、これは不十分な説明です。

日雇い派遣が例外的に認められる業務は、労働者派遣法施行令第4条第1項に定められており、専門職以外にも、一般的な事務作業や受付業務などが多数含まれています 。

例えば、「ファイリング(書類整理)業務」(第6号)、「受付・案内業務」(第12号)、「秘書業務」(第5号)、「調査業務」(第7号)なども例外業務です。

Q4. 例外として認められる「人」とは、どのような人ですか?

業務内容がQ3の例外業務に該当しなくても、派遣される労働者自身が以下のいずれかの条件を満たす場合、日雇い派遣(30日以内)は適法となります 。

  1. 60歳以上の者
  2. 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる昼間学生
  3. 生業収入が500万円以上の者(副業として日雇い派遣に従事する場合)
  4. 世帯収入の合計が500万円以上で、主たる生計者ではない者(例:配偶者の扶養に入っている者など)
Q5. 企業が例外に該当しない違法な日雇い派遣を受け入れた場合のリスクは何ですか?

最大のリスクは、労働契約法第40条の6第1項第3号(期間制限違反)または第4号(偽装請負等)に該当し、「労働契約申込みみなし制度」 が適用されることです。

これは、違法な日雇い派遣を受け入れた時点で、派遣先企業がその日雇い労働者に対し、直接雇用の申込みをしたとみなされる 制度です。企業は、突発的な1日の人手不足を補うつもりが、意図せず長期の雇用義務を負うという、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。

詳細解説:労働者派遣法第35条の4の解釈

日雇い派遣(30日以内)が適法となるのは、前述の「A:例外業務」または「B:例外対象者」のどちらかを満たす場合のみです。企業は、派遣元に対し、どちらの要件で適法性を担保しているのかを明確に確認する義務があります。

例外要件A:対象となる「人」(4類型)

業務内容に関わらず、派遣される労働者が以下のいずれかに該当する場合、日雇い派遣は可能です 。

  1. 60歳以上の者
  2. 昼間学生
  3. 生業収入が500万円以上の者(副業)
  4. 世帯収入が500万円以上で主たる生計者でない者

派遣先企業のリスク管理として重要なのは、これらの確認は「派遣元(派遣会社)の義務」であると同時に、「派遣先の確認義務」でもあるという点です。派遣元が、学生証、源泉徴収票、住民票など の証明書類でこれらの要件を適切に確認したことを、派遣先は契約書や通知書で確認しなくてはなりません。派遣元が確認を怠っていれば、その違法派遣の責任は派遣先にも及びます 。

例外要件B:対象となる「業務」(施行令第4条第1項)

  • 情報処理・IT関連:ソフトウェア開発(1号)、事務用機器操作(3号)、OAインストラクション(17号)
  • 専門・クリエイティブ関連:通訳・翻訳(4号)、書籍等の制作・編集(15号)、広告デザイン(16号)
  • 一般的な事務・営業関連
    • 秘書(5号)
    • ファイリング(書類・データ整理)(6号)
    • 調査(リサーチ)(7号)
    • 財務処理(8号)
    • 取引文書作成(9号)
    • 受付・案内(12号)
    • デモンストレーション(実演販売)(10号)
    • 添乗(11号)

1 例外対象者(人の要件)(以下のいずれかを満たす者)

  1. 60歳以上の者
  2. 昼間学生
  3. 生業収入が500万円以上の者(副業)
  4. 世帯収入が500万円以上で主たる生計者でない者

2 例外業務(業務の要件)(施行令第4条第1項各号。以下は代表例)

  • 3号 事務用機器操作
  • 5号 秘書
  • 6号 ファイリング
  • 7号 調査
  • 12号 受付・案内
  • (その他、ソフトウェア開発、通訳、デモ販売など全19業務)

※ AまたはBのいずれかを満たせば、日雇い派遣は適法となる。

派遣先企業が負う最大のリスク:「業務範囲」の逸脱

例外業務(上記B)で日雇い派遣を受け入れる場合、派遣先企業が直面する最大のリスクは「業務範囲の逸脱(スコープ・クリープ)」です。

例えば、企業が「6号:ファイリング業務」として、1日だけ日雇い派遣労働者を受け入れたとします。これは適法です。

しかし、派遣先の現場管理者が、その労働者に対し、「ファイリングが早く終わったから、ついでに電話対応とお茶出し、郵便物の仕分けもやっておいて」と指示したとします。

この「電話対応」「お茶出し」「郵便物の仕分け」は、「ファイリング業務」には含まれず、また他の例外業務にも該当しない「一般的な事務補助」です。

その瞬間、派遣先企業は「例外業務に該当しない違法な日雇い派遣」をさせたことになり、労働契約申込みみなし制度 の適用対象となるのです。

企業は、例外業務で日雇い派遣を利用する場合、派遣先の現場管理者に対し、「契約書に記載された、その特定の例外業務(例:ファイリングならファイリングだけ)を逸脱する指示を、絶対にさせてはならない」というコンプライアンス教育を徹底する必要があります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所に相談するメリット

日雇い派遣の例外要件の解釈は、厳格であり、一つの判断ミスが「みなし雇用」という深刻な事態を招きます。

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、以下の法的サービスを提供します。

  • 「例外業務」の該否判断:貴社が依頼したい業務が、施行令第4条の例外業務 に法的に該当するかを正確に判断し、契約書に記載すべき業務範囲を定義します。
  • 派遣元への確認サポート:派遣元が、例外対象者 の要件を適切に確認しているか(証明書類の確認方法など)を監査し、派遣先としての確認義務を果たせるよう支援します。
  • 現場管理者向け研修:日雇い派遣受け入れの際に、現場で絶対にやってはいけない「業務範囲の逸脱」について、みなし雇用リスク と共に解説するコンプライアンス研修を実施します。

まとめ

日雇い派遣は、労働者派遣法第35条の4により「原則禁止」です 。

例外として適法になるのは、「例外対象者(60歳以上や学生など)」 に該当するか、または「例外業務(ファイリングや受付、秘書なども含む)」に従事する場合のみです。

派遣先企業は、このどちらの要件で適法性を担保しているのかを派遣元に厳格に確認する必要があります。特に「例外業務」で受け入れる場合は、現場の管理者が契約範囲を逸脱した指示を出さないよう、徹底した管理を行わなければ、「労働契約申込みみなし制度」という重大なリスクを負うことになります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、企業が短期的な人材需要に対応しつつ、コンプライアンス違反を犯さないようサポートします。


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