企業法務リーガルメディア

対人・対物賠償の範囲はどこまでか?休車損害・積荷の賠償・逸失利益の計算方法

はじめに:賠償範囲の知識が会社の資産を守る

交通事故を起こした場合、運送会社は被害者に対して法律上の「損害賠償責任」を負います。この損害賠償は、単に「治療費」や「修理代」を支払うだけに留まりません。特に運送事業者が当事者となる事故では、トラックが稼働できなかったことによる営業損失(休車損害)や、破損した積荷の賠償、あるいは被害者が将来得られたはずの収入(逸失利益)など、高額かつ算定が複雑な損害項目が大きな争点となります。

相手方から請求された損害賠償の項目や金額が法的に妥当か、逆に自社が被害者となった場合にどこまで請求できるか。この知識は、会社の資産を守る上で大切な経営知識です。本稿では、特に運送業に関連の深い「休車損害」「積荷の賠償」「逸失利益」といった損害項目の法的な考え方と、その計算方法について、法改正を反映して解説します。

2020年民法改正と逸失利益の増大

人身事故、特に後遺障害が残る事故や死亡事故において、賠償額が数千万円から億単位にまで跳ね上がる最大の要因が「逸失利益」です。これは、事故がなければ被害者が将来得られたはずの収入を補償するものです。

請求する/される損害① – 「休車損害」

休車損害は、事故で営業車両が使用できなくなったために生じた営業上の利益の損失です。これは請求側にとっても、請求される側にとっても、証拠に基づく緻密な立証が求められる項目です。

算定の基本原則

休車損害=(1日あたりの利益額)×(相当な休車期間)

賠償する損害② – 「積荷の損害」と保険の落とし穴

運送会社が加害者となった場合、最も注意すべきなのが、自社の自動車保険ではカバーされない「積荷の損害」です。

法改正の動向:刑罰の変更について

なお、法律は常に改正されています。ドライバーが刑事責任を問われる場合に関連する法律として「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」があります。刑法改正により、これまで「懲役」と「禁錮」に分かれていた刑罰が、2025年までに「拘禁刑」に一本化されることになりました。これにより、例えば危険運転致死傷罪(同法第2条)や過失運転致死傷罪(同法第5条)の法定刑も「〇年以下の懲役」から「〇年以下の拘禁刑」へと表記が変わります。このような法改正の動向にも注意を払うことが、企業のコンプライアンス上、重要となります。

まとめ

交通事故の損害賠償は、「治療費と修理代」という単純な整理ではありません。2020年の民法改正は、特に人身事故における賠償額を構造的に引き上げ、企業の財務リスクを増大させました。休車損害や積荷の賠償といった事業に直結する損害の算定は、客観的な証拠に基づいた緻密な対応が求められます。損害賠償の項目や金額について疑問があれば、示談書にサインする前に、交通事故に精通した弁護士にご相談されることもご検討ください。専門家の知見を活用することが、会社の正当な利益を守るための最善の策です。


長瀬総合の運送業専門サイト

2024年4月1日からの働き方改革関連法施行により、物流業界での働き方が今までと大きく異なっていきます。
違反してしまうと刑事罰の対象になってしまうので、運送・物流業を営む方の対策は必須です。
「どうしたら良いかわからない」という方は当事務所までご相談ください。

【詳細・お問い合わせはこちら】


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【チャンネル登録はこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了