はじめに

「指示されたルートを走らない」「軽い物損事故を繰り返す」「協調性がなく、他の従業員とトラブルばかり起こす」。運送事業を経営する中で、いわゆる「問題社員」であるドライバーへの対応に、頭を悩ませている経営者様は少なくないでしょう。しかし、日本の労働法上、「解雇」のハードルは、経営者が考えている以上に遥かに高く設定されています。

会社が「正当な理由だ」と考えて行った解雇が、裁判所では「不当解雇」と判断され、無効となるケースが後を絶ちません。不当解雇と判断されれば、解雇期間中の給与の遡り払いや、場合によっては慰謝料の支払いを命じられ、会社は深刻な経済的ダメージと信用の失墜を被ることになります。ドライバーの解雇は、まさに「伝家の宝刀」。抜くべき時と、その作法(法的な条件と手続き)を間違えれば、自らを傷つける諸刃の剣となります。本稿では、解雇が法的に有効と認められるための厳格な条件と、踏み外してはならない手続きの流れについて解説します。

Q&A:ドライバーの解雇に関するよくある質問

Q1. 軽い物損事故を何度も繰り返すドライバーがいます。能力不足を理由に解雇することはできますか?

「事故を繰り返す」という事実だけですぐに解雇するのは、不当解雇と判断されるリスクが高いです。解雇が有効とされるには、まず会社として、そのドライバーに対して具体的な安全指導や添乗指導、追加の研修といった改善の機会を、繰り返し、かつ記録に残る形で行ったかどうかが問われます。それでも改善が見られず、他のドライバーと比較して著しく能力が劣り、安全な運行を任せることができない、というレベルに達して、初めて解雇の可能性が出てきます。プロセスが何より重要です。

Q2. 業務外のプライベートな飲酒運転で免許取消しになったドライバーがいます。即日解雇できますか?

即日解雇は危険です。まず、その行為が就業規則の懲戒解雇事由に明記されているかが前提です。その上で、業務外の行為とはいえ、運送会社にとって免許の有無は業務に不可欠な要素であるため、解雇の有効性は認められやすい傾向にあります。しかし、有効な解雇であっても、原則として30日前の解雇予告か、30日分の解雇予告手当の支払いが必要です。「即日」解雇が例外的に認められるのは、労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を受けた場合に限られ、手続きは慎重に進めるべきです。

Q3. 問題行動に対して、解雇する前に必ず注意や指導をしなければならないのでしょうか?

はい、原則として必要とお考えください。一度のミスで即解雇が許されるのは、業務上横領や、業務中の飲酒運転といった、極めて悪質で信頼関係を根本から破壊するようなケースに限られます。能力不足や勤務態度の問題を理由に解雇する場合、裁判所は「会社は解雇という最終手段を回避するために、どれだけ努力したか」を厳しく見ます [26]。注意・指導のプロセスを全く経ずに行われた解雇は、「社会通念上相当ではない」として、無効と判断される可能性が高くなります。

普通解雇が有効となるための「高いハードル」

普通解雇の有効性は、労働契約法第16条の「解雇権濫用法理」で厳しく制限されています 。解雇が有効とされるためには、①客観的に合理的な理由と、②社会通念上の相当性、という2つの厳しい要件をクリアしなければなりません。

① 客観的に合理的な理由とは?

誰が見ても「これでは雇用を継続するのは無理だ」と納得できるような、客観的な事実が必要です。

  • 能力不足・成績不良
    指導や教育を尽くしても改善の見込みがなく、他の労働者と比較して著しく劣り、契約上求められる最低限の職務遂行能力すら欠いている、というレベルが求められます。
  • 勤務態度不良
    無断欠勤や遅刻を繰り返し、再三の注意・指導にもかかわらず全く改悛の情が見られない場合などです。
  • 協調性の欠如
    他の従業員への暴言や威圧的な態度が原因で、職場の秩序や人間関係を破壊し、業務に具体的な支障を生じさせている場合などです。

② 社会通念上の相当性とは?

たとえ解雇理由があったとしても、「その理由で解雇までするのは、さすがにやり過ぎではないか」と判断されれば、解雇は無効になります。裁判所が最も重視するのは「解雇に至るまでの会社の対応」です。会社は「手を尽くしたが、もはや解雇しか選択肢がなかった」ことを、客観的な証拠をもって証明する必要があります。具体的には、以下のような段階的プロセスが重要です。

  • ステップ1
    口頭での注意・指導
  • ステップ2
    書面による警告・業務改善指導書
    :問題行動、改善内容、期間、改善なき場合の措置を明記します。
  • ステップ3
    より重い懲戒処分
    :減給や出勤停止など、解雇回避努力を示します。
  • ステップ4
    最終警告

懲戒解雇が有効となるための「さらに高いハードル」

懲戒解雇は、従業員に対する「極刑」であり、普通解雇よりもさらに厳格な要件が課せられます。

  • 就業規則上の明確な根拠
    「どのような行為が懲戒解雇に該当するのか」が、就業規則に具体的に規定されていることが前提です。
  • 処分の相当性
    行為の重大性と処分の重さが釣り合っている必要があります。懲戒解雇が許容されるのは、業務上横領、重要な経歴詐称、業務中の飲酒運転といった、信頼関係を完全に破壊するレベルの行為に限られます。
  • 適正な手続き(弁明の機会の付与)
    処分対象の従業員に対し、「弁明の機会」を必ず与えなければなりません。この手続きを欠くと、処分が無効とされる可能性があります。

解雇を実行する際の、遵守すべき手続き

解雇が有効と判断された場合でも、法律で定められた手続きを踏む必要があります。

  • 解雇予告(労働基準法第20条)
    原則として、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
  • 解雇理由証明書の交付(労働基準法第22条)
    解雇された労働者から請求された場合は、会社は遅滞なくこれを交付する義務があります。

まとめ

「このドライバーを辞めさせたい」という経営者の感情と、法律が解雇を認める理屈との間には、大きな隔たりがあります。安易な解雇は、問題社員を一人排除する代わりに、会社に数十倍のダメージをもたらす「負け戦」になりかねません。問題社員への対応の鉄則は、「冷静に、段階的に、証拠を残しながら」進めることです。そして、解雇という最終手段に踏み切る前には、専門家である弁護士に相談し、法的なリスクを徹底的に検証することが、経営者が取るべき賢明な判断です。


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