はじめに

事業再生や経営効率化を進める過程で、不要な在庫固定資産を処分・売却することはよくあります。例えば、業績悪化時に遊休機械不動産を売却し資金繰りを改善したり、棚卸在庫を一気に値下げ処分するなどの対応が典型です。しかし、こうした資産処分には法務面税務面でのリスクが潜んでおり、手続きを誤ると損金算入が認められなかったり、債権者・株主からの責任追及につながる可能性もあります。

本記事では、在庫・固定資産を処分・売却する際の適切なフローや、企業再生における会計・税務の注意点を弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。経営上のメリットを最大化しながら、不要なトラブルを回避するためのポイントを押さえましょう。

Q&A

Q1:在庫処分をするときに法的・税務的に注意すべきことは何ですか?
  1. 正当な価格設定
    在庫を値下げやまとめ売りで処分する場合でも、あまりに不自然に安い価格だと利益供与背任を疑われる可能性がある。取引先が関連当事者の場合は特に慎重に。
  2. 会計処理
    処分による損失を原価特別損失にどのように計上するか。会計基準に沿った評価減の手続きを踏む必要がある。
  3. 税務対応
    在庫の評価損や廃棄処分損を損金算入するには、実際に処分した証拠(廃棄証明、写真など)が必要。適切な手続きがなければ税務調査で否認されるリスクあり。
Q2:固定資産売却で特に問題になるのは何でしょうか?

固定資産(不動産・機械設備など)を売却する際、

  1. 売却価格が適正か否か(時価を著しく下回る場合、背任や不当廉売が疑われる)。
  2. 担保設定がある場合、債権者の同意や抵当権抹消手続きが必要。
  3. 資産譲渡に伴う税務
    譲渡益が出る場合は譲渡益課税を考慮し、逆に損失が出れば会計処理を要確認。
  4. 賃借人や居住者がいる不動産の場合、退去交渉や賃貸借契約の引継ぎなど法的調整が必要。
    これらの手続を怠ると、契約無効や債権者との紛争に発展する危険があります。
Q3:リース資産も処分できるのですか?

リース契約を結んだ資産は、所有権がリース会社にあるため、通常は企業が自由に処分(売却)することはできません。中途解約するならリース残金の一括返済や違約金が発生する場合が多いです。企業再生の観点では、リース会社と契約変更リース期間短縮など交渉し、早期返却を図ることは可能ですが、法的整理に移行してもリース資産を勝手に売却はできず、リース会社の権利が優先される点に注意が必要です。

Q4:不当に安い価格で資産売却するとどうなりますか?

「不当に安い価格」とは時価とかけ離れた金額を指します。

  • 背任罪
    取締役や役員が不当に安い価格で会社の資産を処分し、会社に損害を与えた場合、善管注意義務違反や刑事上の背任に問われる可能性。
  • 債権者保護
    破産や法的再建手続きの前に特定の債権者や第三者に資産を安値譲渡すると、偏頗行為詐害行為として無効とされる場合がある。
  • 株主代表訴訟
    株主が「会社に不利益を与える売却だった」として取締役に損害賠償を請求するリスク。
    適正な鑑定評価や公正な手続きを踏まえて売却することが望ましいです。

解説

在庫処分の実務フロー

  1. 在庫評価と廃棄・値下げ方針
    • まず現状の在庫を棚卸し、不良在庫や滞留在庫を区分。販売可能かどうか、値下げすれば売れるか、全廃棄すべきかを検討。
    • 販売チャネル(アウトレットやネットセール)での値下げ販売、取引先へのまとめ売り、競売など選択肢を考える。
  2. 価格設定と利益供与リスク
    • 関連会社や役員・従業員への格安販売には注意。公正な価格設定根拠(見積もり、時価調査など)を残しておく。
    • 廃棄する場合は廃棄証明書(産業廃棄物処理業者の受領書)を取得し、税務対応で損金処理する際に証拠を提出できる体制を整える。
  3. 会計処理と税務
    • 会計上、評価損として在庫の簿価を切り下げる際、減価処理の根拠を監査法人や税務署に説明できるように資料化。
    • 廃棄した在庫は損失計上できるが、要証拠。外部の処理業者を使うとスムーズに立証可能。

固定資産売却の流れと注意点

  1. 事前調査・担保確認
    • 不動産や機械に抵当権や担保権がついていないか事前に法務局で登記を調べる。担保があるなら債権者の同意や抹消手続きが必要。
    • 共有物件の場合、共有者全員の承諾や分割協議が要る。
  2. 売却先の選定・価格決定
    • 不動産なら不動産仲介オークション、機械設備なら専門業者に査定を依頼し時価を把握。
    • 企業再生目的で急いで売りたい場合も、あまりに安いと背任リスク。最低査定額を複数社から取り比較検討する。
  3. 契約書作成・決済
    • 売買契約書を作成し、瑕疵担保免責や引渡時期、買主の資金計画などを明確にする。
    • 不動産売却は決済日に司法書士が登記変更手続きを行い、抵当権抹消・移転登記を同時に処理。
  4. 税務処理
    • 譲渡益が出れば法人税など課税があるため、特別利益または営業外利益として会計処理。逆に譲渡損が出れば損失計上できるが、時価との乖離に注意しなければ税務上問題になる場合がある。

リース資産や担保資産への対応

  1. リース資産の中途解約
    • リース契約書を精査し、解約可能条項や違約金計算方法を把握。機械を返却する場合はリース会社と引取時期や状態を協議。
    • 企業再生時にリース資産を稼働し続ける必要があるなら、リース条件変更を交渉して費用を抑える道も。
  2. 担保資産の売却
    • 債務者が担保に供した資産を勝手に売却するのは違法。担保権者(銀行など)と協議し、売却許可を得て抵当権抹消手続きを行う。
    • 売却代金の一部または全額を優先弁済に充当する形で銀行が同意すれば取引可能。
  3. 倒産法との絡み
    • 破産や民事再生の直前に特定の債権者だけに担保資産を売却し弁済すると偏頗弁済に当たる危険がある。
    • 法的整理を検討中なら、不用意な資産処分や担保変動は慎重に進めるべき。

トラブル事例

  1. 在庫廃棄で損金不認容
    • 大量在庫を処分し税務申告で廃棄損を計上したが、実際は一部を従業員に無償配布していたり、廃棄証明が不備で税務署に損金算入を否認される。
    • 対策:廃棄業者の受領書や処分写真を添付し、社内記録も整備することが重要。
  2. 安値譲渡が背任とされ株主代表訴訟
    • 経営陣が関連会社に機械設備を時価の半額で売却。後日株主が「会社に大損害を与えた」と株主代表訴訟を提起。裁判で背任行為と認められ、役員に損害賠償責任が発生。
    • 対策:売却時の時価査定レポートを取得し、正当な売却理由を議事録に記録しておく。
  3. 担保資産を勝手に売却し抵当権者と紛争
    • 資金繰りに窮した会社が、銀行の抵当つき不動産を無断で第三者に売却してしまい、後から銀行が売買無効を主張。
    • 対策:抵当権者の承諾を得てから売却し、売却代金で債務を一部返済するスキームを事前に合意する。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、在庫や固定資産の処分・売却にあたり、以下のようなサポートを行っています。

  1. 適正価格査定と手続き助言
    • 不動産や設備売却で最低査定時価調査を行う際、鑑定士や仲介会社との連携をサポート。背任リスクを防ぎ、客観的に妥当な価格で取引を締結できるよう助言。
    • 売却契約書の起案・レビューを行い、担保抹消や賃借権対応など必要手続きを整理。
  2. 在庫処分の法務リスク管理
    • 在庫廃棄・値下げ販売の際に、社内承認フロー廃棄証拠をどう整備するかを指導し、税務調査や背任指摘に備えた書類準備を手伝う。
    • 関連当事者への不当廉売疑惑を回避するための契約設計や文書管理を提案。
  3. リース・担保資産の処分交渉
    • リース会社や担保権者との折衝に弁護士が代理して、担保解除リース解約金残債調整など複雑な交渉を円滑にまとめる。
    • 企業再建の観点から、資産売却と資金繰り改善を一体化した戦略を構築。
  4. 倒産法対応
    • 法的整理に入る前に、余計な偏頗行為とみなされないよう処分スケジュールを調整し、リスクを低減。

まとめ

  • 在庫固定資産の処分・売却は、資金繰り改善や事業再編に不可欠だが、適切な価格手続きを踏まないと背任や偏頗行為として無効・違法となるリスクがある。
  • 在庫処分では値下げや廃棄証明の確実な取得など、税務対応を含めた正当化が必要。固定資産(不動産・機械)の売却時は担保抹消、賃借人対応など法的手続を慎重にこなす。
  • リース資産の処分は原則不可能であり、リース会社との契約変更・解約金協議が必須。また債権者から抵当権設定されている場合、勝手に売ると無効になり紛争化する。
  • 弁護士の力を借りれば、適正評価や契約設計、債権者折衝を安全かつスムーズに行え、企業再建や資金繰り改善を成功に導くことが期待できる。

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