はじめに
「誹謗中傷の削除請求を弁護士に依頼したら、必ず成功するのだろうか?」
「自分のケースは、削除が認められる可能性が高いのか、それとも低いのか知りたい」
削除請求を検討する際、その「成功確率」がどれくらいなのかは、費用や期間と並んで、誰もが気になる重要なポイントだと思います。もちろん、個別の事案を詳細に検討しなければ、正確な成功率を算出することはできません。しかし、これまでの数多くの裁判例や実務経験から、削除請求が成功しやすいケースと、失敗に終わりやすいケースには、一定の「特徴」や「傾向」が見られます。
この記事では、どのような場合に削除請求が成功しやすいのか、逆にどのような場合に失敗するリスクがあるのか、その分かれ目となるポイントを具体的に解説します。ご自身の状況を客観的に見つめ、今後の対策を立てるための一助としてください。
Q&A
Q1. どんな書き込みであれば、成功率が高いと言えますか?
一言で言えば、「違法性が明白な書き込み」です。例えば、あなたの住所や電話番号、裸の写真といったプライバシー情報が本人の同意なく晒されているケースは、プライバシー権の侵害が明らかであり、削除が認められる成功率が非常に高いです。また、「〇〇は会社の金を横領している」といった、具体的な事実を挙げて社会的評価を貶めるような名誉毀損も、違法性が高く、削除されやすい傾向にあります。
Q2. 削除請求が失敗するのは、どんな場合が多いですか?
失敗するケースで多いのは、投稿内容が「意見」や「論評」の範囲内と判断される場合です。例えば、「あの店のラーメンはまずい」「あの政治家の政策は支持できない」といった主観的な評価や感想は、たとえ書かれた側にとって不利益な内容であっても、表現の自由として保護されるべき、と判断されやすい傾向にあります。また、公共の利害に関する事柄で、その目的が公益のためであり、内容が真実である(または真実と信じる相当の理由がある)場合も、名誉毀損が成立せず、削除請求は認められません。
Q3. 投稿者がすぐに書き込みを消してしまいました。これは「成功」と考えて良いのでしょうか?
投稿が消えたという点では、目的の一つは達成されたと言えます。しかし、根本的な解決(成功)とは言えないケースも多いです。なぜなら、その投稿者が、腹いせに別のサイトに同じ内容を書き込んだり、アカウントを変えて再び嫌がらせを始めたりする可能性があるからです。投稿が削除された後も、再発防止のために投稿者を特定し、損害賠償や謝罪を求めるといった、より踏み込んだ対策が必要になる場合もあります。
解説
削除請求の成功・不成功を分けるのは、突き詰めれば「その投稿の違法性が、裁判所やサイト管理者に認められるかどうか」に尽きます。ここでは、成功と失敗の要因を、具体的な権利侵害の種類に沿って分析していきます。
1. 削除請求が「成功」しやすいケースの特徴
以下のような特徴を持つ投稿は、違法性が高いと判断されやすく、削除請求の成功率も高くなります。
① プライバシー権侵害が明白なケース
個人情報が具体的に晒されている
- 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、マイナンバー
- 勤務先、通学先
- 本人の顔写真(特に私生活を撮影したもの)
- その他、一般に公開を望まない私生活上の事実(病歴、収入、家族構成など)
これらの情報は、本人の同意なく公開することがプライバシー権の侵害にあたることは明らかであり、サイト運営者も迅速な削除に応じやすい傾向があります。
② 名誉毀損が成立しやすいケース
社会的評価を低下させる「具体的な事実」が書かれている
- 「Aは前科持ちだ」「Bは不倫している」
- 「C社の製品は、違法な有害物質を含んでいる」
- 「D病院で医療ミスを隠蔽された」
これらのように、人の信用や評判を傷つける具体的な事実(真実か嘘かは問わない)を摘示する投稿は、名誉毀損として削除が認められやすいです。
③ 利用規約に明確に違反しているケース
- 脅迫的な文言(「殺すぞ」「火をつける」など)
- わいせつな画像や表現
- 差別的な表現(人種、国籍、信条などに基づく)
- なりすまし行為
多くのサイトでは、これらの行為を明確に利用規約で禁止しています。規約違反を理由とすることで、スムーズな削除が期待できます。
2. 削除請求が「失敗」しやすいケースの特徴
一方、以下のような特徴を持つ投稿は、違法性が低い、あるいは適法な表現の範囲内と判断され、削除請求が失敗に終わるリスクがあります。
① 「意見・論評」の範囲内と判断されるケース
主観的な感想や評価
- 「あの店のサービスは最悪だった」
- 「この小説はつまらない」
- 「〇〇という人物の考え方は嫌いだ」
具体的な事実を挙げずに、単に個人の主観的な感想や評価を述べるに留まる投稿は、たとえネガティブな内容であっても、保護されるべき「表現の自由」の範囲内と判断され、削除が困難な場合が多いです。
② 名誉毀損の「違法性阻却事由」が認められるケース
名誉毀損にあたるような事実の摘示であっても、以下の3要件を全て満たす場合は、例外的に違法性がなくなり、削除請求は認められません。
- 公共性
公共の利害に関する事実であること(例:政治家の汚職疑惑、企業の不正行為など) - 公益性
その目的が、専ら公益を図ることにあったと認められること - 真実性・真実相当性
内容が真実である、または、真実であると信じるに足る相当な理由があったこと 企業の内部告発や、公人に対する正当な批判などが、この規定によって保護されます。
③ 同定可能性が認められないケース
- ハンドルネームや匿名アカウントへの悪口で、そのアカウントが現実世界の誰を指しているのか、第三者から見て客観的に特定できない場合。
- 誰のことを指しているか曖昧で、被害者が特定できない投稿。 この「同定可能性」がなければ、そもそも誰の権利が侵害されたのかが確定できず、削除請求は認められません。
④ 証拠が不十分なケース
- 問題の投稿のスクリーンショットを撮り忘れたまま、投稿が削除されてしまった。
- スクリーンショットにURLが含まれておらず、投稿場所が特定できない。 証拠がなければ、権利侵害の事実を立証することができず、請求は失敗に終わります。
弁護士に相談するメリット
「自分のケースは成功するのか、失敗するのか」その見極めは、法的な専門知識がなければ困難です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 正確な成功確率の見通し
弁護士は、あなたの事案と証拠を詳細に検討し、過去の膨大な裁判例や実務経験に照らして、「成功の可能性がどのくらいあるか」「どのようなリスクがあるか」を、客観的かつ具体的に提示することができます。 - 成功確率を高めるための戦略立案
同じ投稿であっても、主張の仕方(法的構成)によって、裁判所やサイト運営者の判断は変わります。弁護士は、プライバシー権侵害、名誉毀損、利用規約違反など、あらゆる角度から最も成功率の高い主張を組み立て、戦略を立てます。 - 失敗リスクのヘッジ
もし削除の可能性が低いと判断される場合でも、正直にその旨を伝え、無駄な費用や時間をかけないようにアドバイスします。また、削除が難しい場合の次善の策として、「逆SEO対策」や「投稿者特定による直接交渉」など、別の解決策を提案することもできます。
まとめ
誹謗中傷の削除請求が成功するかどうかは、「その投稿の違法性を、客観的な証拠に基づいて、法的に説得力をもって主張できるか」にかかっています。
プライバシー情報が晒されているケースや、具体的な事実による名誉毀損は成功率が高く、一方で、主観的な意見・論評や、公益性のある事実に関する投稿は失敗するリスクが高まります。
しかし、これらの判断の境界線は非常に曖昧であり、個別の事情によって結論は大きく左右されます。ご自身の判断で「これは無理だろう」と諦めてしまう前に、まずは専門家である弁護士に相談し、客観的な見通しを確認することが重要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご相談いただいた際に、成功の可能性だけでなく、失敗のリスクやその理由についてもご説明するようにいたします。その上で、あなたが納得できる解決策を一緒に探してまいります。
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