はじめに

人や法人が融資を受ける際、保証人物上保証人を立てることがあります。とりわけ不動産を担保に提供する場合、「物上保証人」と呼ばれる形態が存在し、債務者本人とは別の第三者が所有する不動産を担保に出すケースが見受けられます。

本稿では、保証人と連帯保証人、そして物上保証人の基本的な違い、リスク、実務上の注意点などを解説し、安易に保証契約や物上保証に応じてしまうことの重大な影響を整理します。

Q&A

Q1.保証人と連帯保証人の違いは何ですか?

法律上、保証人は「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」を行使できるため、債権者はまず債務者に請求し、債務者が支払い不能のときに保証人に請求する形です。
一方、連帯保証人にはこれらの抗弁権がなく、主債務者と同等に請求や強制執行を受けます。実質的には連帯保証人は主債務者と同じ責任を負うと言ってよいほど重い責任を負います。

Q2.物上保証人とはどのような立場なのでしょうか?

物上保証人は、自身が債務者でないにもかかわらず、不動産などの担保を差し出している人を指します。具体的には、配偶者や親族などが債務者のローンをサポートするために、自己所有の土地や建物を抵当に提供している場合が典型例です。

  • 債務者が返済不能になった際、物上保証人の不動産が競売にかけられ、物上保証人は不動産を失うリスクがありますが、「保証人」ではないため、個人資産(不動産以外)の差押えまではされない点が特徴です。
Q3.物上保証人になるときのリスクは何でしょうか?

大きくは以下が挙げられます。

  1. 不動産を失う危険
    債務者が返済不能になると、抵当権者(金融機関など)が競売を申立て、不動産が売却される。物上保証人自身は居住できなくなる。
  2. 財産価値の低下
    担保が設定されている不動産は売却や再担保設定が制限され、自由な資産運用が困難。
  3. 主債務者の返済状況を把握しにくい
    他人の借金を担保しているため、タイミングよく債務問題を発見しづらく、気づいた時には既に延滞が深刻化している場合も。
Q4.連帯保証人・物上保証人が「弁済したら終了」というわけではないのですか?

連帯保証人は主債務と同じ責任を負うため、債務全額(+利息・遅延損害金等)を請求される可能性があります。仮に弁済した場合、連帯保証人は「求償権」により主債務者に対して支払った金額の返還を請求できるが、主債務者に資力がないと回収困難です。

物上保証人の場合は、担保不動産が競売で処分されても、残債があれば物上保証人は追加的責任を負わない(不動産以外は保全)一方、損失として不動産を失う可能性が確定的です。

Q5.弁護士に相談するメリットは何でしょうか?

保証契約や物上保証契約はリスクが大きいため、事前の法的助言やトラブル発生時の対処が重要です。

  1. 契約締結前のリスク説明
    借主や保証人が契約内容を十分理解していない事例が多いため、弁護士がメリット・デメリットを明確化。
  2. 保証債務の減額交渉や債務整理支援
    返済不能となった場合、弁護士が任意整理や個人再生を含むスキームを提案し、連帯保証人や物上保証人の負担を軽減。
  3. 競売を回避する任意売却
    物上保証人の不動産を失うリスクを最小化するため、弁護士が債権者と交渉し、競売ではなく任意売却を目指すことも可能。

解説

連帯保証人のリスクと注意点

  1. 主債務者と同じ責任
    借金を返せない主債務者に代わって連帯保証人に請求が来る。支払わないと連帯保証人の給与・預金・不動産まで強制執行の対象。
  2. 催告・検索の抗弁権がない
    通常の保証人なら「先に主債務者へ請求してほしい」と主張できるが、連帯保証人にはそれができない。
  3. 求償権の限界
    連帯保証人が代わりに支払っても、主債務者に返済能力がなければ取り戻せない。

物上保証人の特徴

  1. 不動産のみが責任負担
    物上保証人は、あくまでその不動産を抵当に出すだけで、個人資産(貯金や給与)は責任を負わない。
  2. 競売リスク
    主債務者が滞納すれば、抵当不動産が競売にかけられ、物上保証人は不動産を喪失。資金負担の義務はないが、居住・収益を失う
  3. 連帯保証人よりは責任が限定的
    ただし「不動産以外は守られる」という面はあるが、不動産の価値や住み替えの手間など実害が大きい。

事例とリスク対応

  1. 親子で住宅ローン
    子が主債務者、親が親名義の土地に物上保証を設定している。子が失業し返済不能→ 親所有地が競売に。親は住む場所を失う。
  2. 経営者の親族が連帯保証人
    中小企業融資で社長の妻や兄弟が連帯保証人になり、会社倒産で巨額債務を背負ってしまう。
  3. 知らずに物上保証契約に署名
    金融機関がローン契約書類に「所有不動産を抵当に出す」書面を添付し、印鑑を押したが、詳しい説明なし。後から物上保証人だと知って驚く事例。

弁護士に相談するメリット

  1. 契約前の法的助言
    「連帯保証人になるのは危険」「物上保証には不動産喪失のリスクがある」と具体例を提示し、慎重な意思決定を促す。
  2. 契約書チェックと交渉
    金融機関の書類でも、合意内容が曖昧なら弁護士が加筆修正・リスク警告を実施。
  3. 返済不能・競売リスク対策
    主債務者が危機に陥った際、弁護士が任意整理や再生手続きを提案し、保証人・物上保証人の負担を軽減。

まとめ

  • 連帯保証人
    主債務者と同等の責任を負い、財産全般が債務返済に充てられる。
  • 物上保証人
    自らは借金を負わずとも、所有不動産を担保に提供。返済不能時、その不動産が競売にかかり失うリスク。
  • リスク
    連帯保証人は自己資産・収入がすべて差押え対象に。物上保証人は不動産を失う。
  • 注意点
    主債務者の返済状況を把握しにくく、思わぬ負担が発生しやすい。契約時に詳細を理解しないまま署名捺印は危険。
  • 弁護士活用
    1. 契約前のリスク説明
    2. 契約書ドラフト・交渉
    3. 返済不能時の債務整理・競売回避(任意売却)
    4. 万一の紛争時の代理対応

連帯保証人や物上保証人は、安易に引き受けると取り返しのつかない金銭・資産的ダメージを被るおそれがあります。特に物上保証は「お金は借りていないのに不動産を失う」という重大な結果につながりやすく、契約前の十分な理解と法的助言が欠かせません。


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