はじめに
サロンで働くスタッフが「残業代が支払われていない」と感じた場合、労働基準監督署への申告や裁判に至るリスクがあります。美容業界は営業時間外の練習や研修などで実働時間が不透明になりがちなため、残業代請求トラブルが起きやすい環境ともいえるでしょう。
本記事では、残業代請求・未払い賃金が生じる原因と対策を取り上げ、サロンが適正に労働時間と賃金を管理するためのポイントを解説します。
Q&A
Q1. なぜ美容サロンで残業代トラブルが多いのですか?
営業後のヘアメイク練習や片付け、研修などが勤務時間として認められるかどうかが曖昧になりやすいからです。また、タイムカードの打刻前後に作業するケースもあり、実際の労働時間が正確に把握されにくいです。
Q2. 法定労働時間を超えて働いてもらうためには、何が必要でしょうか?
36協定(サブロク協定)を労使間で締結し、管轄の労働基準監督署に届出することで、法定労働時間を超える残業や休日労働が可能になります。協定の範囲を超える残業は違法です。
Q3. 「研修は従業員の自主的な取り組み」と言い張れば残業代は不要ですか?
実質的に会社が研修参加を強制している場合や、不参加が不利益になるような扱いがある場合は、労働時間とみなされる可能性が高いです。単に「自主参加」と説明するだけでは認められません。
Q4. 残業代の時効はどのくらいですか?
2020年の改正民法と労働基準法の改正により、賃金請求権の時効は3年に延長されました。それ以前は2年でした。従業員は過去3年分の未払残業代を請求できる可能性があるため、早期対処が重要です。
Q5. 未払い賃金が発覚した場合、どんなリスクがありますか?
従業員個別の請求に応じて支払うだけでなく、同様の扱いを受けていた他のスタッフから一斉に請求が発生するケースがあります。また、労働基準監督署から是正勧告や立入調査、追加の支払い指導が入る可能性もあり、多額の遡及支払いが必要になることがあります。
解説
未払い賃金の発生原因
- 打刻前後の作業
タイムカードを押した後に清掃や片付け、準備などをしているが、賃金が発生していない。 - 研修・練習時間の取り扱い
就業時間外の技術練習を事実上義務付けているが、給与を払っていない。 - 管理職とみなしていたが実質的に管理監督者でない
店長に残業代を払わない運用をしていたが、法的には管理監督者要件を満たさないため違法と認定される。
対策のポイント
- 労働時間の正確な把握
タイムカードや勤怠管理システムで打刻を徹底し、誤差が出ないよう日々確認。 - 36協定の締結・運用
残業や休日出勤があるなら、協定を締結して範囲内で運用する。超過が常態化しないよう注意。 - 研修・練習の扱い整理
本当に自主参加なのか、サロンが命令しているのかを明確化し、必要に応じて賃金支払いを含めルール化。 - 固定残業代制の適正導入
固定残業時間を超えた分の追加支払いルールや、明確な内訳を契約書に盛り込む。
トラブル事例
- 複数スタッフが同時に請求
過去3年分の残業代や深夜割増が未払いとされ、数百万円規模の支払いを余儀なくされた。 - SNSを通じて集団訴訟に発展
従業員が匿名で呼びかけ、同様の被害を受けたスタッフが集まり、弁護士を立てて裁判を起こすケース。 - 店長に残業代がないと説明していたが…
店長が管理監督者であるとの誤解に基づき残業代をゼロにしていたが、実質的には指揮命令を受けていたとして違法とされた。
弁護士に相談するメリット
- 残業代計算の適正化
労働基準法や判例を踏まえて、歩合給や固定残業代制など複雑な給与体系も整理し、正確な計算方法を提案。 - リスク診断
就業規則や労働実態を調べ、未払いリスクのある部分を洗い出し、改善策を講じる。 - 労基署対応・裁判対応
もし労働基準監督署の是正勧告やスタッフからの訴訟があれば、弁護士が交渉や手続きでサロンをサポート。 - 研修・練習時間のルール設定
研修が業務命令とみなされないようにするための運用や書面化を提案し、未払いリスクを抑える。
まとめ
サロン業務は、営業時間外の準備や練習などで長時間労働が発生しやすく、結果的に残業代が未払いとなりやすい環境にあります。しかし、それを放置すると、従業員からの賃金請求や労基署調査、裁判にまで発展し、大きな経営リスクとなり得ます。
日々の勤怠を正しく把握し、業務外時間を明確化するとともに、36協定の締結や研修のルール化を徹底して、未払い賃金を発生させない仕組みを作りましょう。スタッフとの信頼関係を築くためにも、公平で透明な賃金管理が欠かせません。
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