はじめに

「サイト運営者に何度も削除を依頼した」
「法律に基づく送信防止措置請求も送った」
「それでも、投稿は削除されないまま…」

任意での削除要請がすべて通じず、八方ふさがりだと感じ、深い絶望感に苛まれている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、まだ打つ手はあります。それが、裁判所という中立かつ公正な第三者機関の判断を仰ぎ、投稿の削除を法的に強制するという手段です。

この記事では、任意での交渉が不調に終わった場合、裁判所を通じた削除請求手続きについて、主に使われる「削除仮処分」と、より本格的な「削除請求訴訟」の2つの方法を中心に、その費用、期間、手続きの流れを解説します。

Q&A

Q1. 誹謗中傷の削除を裁判で求める場合、「仮処分」と「訴訟」の2種類があると聞きました。どちらを選べば良いのでしょうか?

どちらの手続きを選ぶかは、事案の緊急性や複雑さによりますが、誹謗中傷投稿の削除を求める場合は、迅速な解決が可能な「仮処分」が利用されるのが一般的です。「仮処分」は、本格的な裁判(訴訟)の前に、緊急性の高い被害の拡大を防ぐための暫定的な措置です。一方、「訴訟」は権利関係を確定させるための本格的な裁判で、時間がかかります。スピードを重視するなら「仮処分」が第一選択肢となります。

Q2. 裁判を起こすとなると、莫大な費用と時間がかかるイメージがあります。実際、どのくらいかかるのでしょうか?

あくまで目安ですが、スピーディーな「仮処分」の場合、申立てから決定までにかかる期間は1ヶ月~3ヶ月程度、弁護士費用は着手金として20万円~40万円程度が相場です。一方、本格的な「訴訟」になると、期間は1年以上かかることも珍しくなく、費用も仮処分より高額になる傾向があります。ご自身の事案で、具体的な見通しがどうなるかは、弁護士との法律相談で確認してください。

Q3. 裁判に勝訴した場合、かかった裁判費用や弁護士費用は、相手方(サイト運営者)に全額請求できるのでしょうか?

いいえ、全額請求することは難しいのが現実です。裁判に勝訴した場合、訴訟費用(裁判所に納める印紙代や郵券代など)は、法律の規定により敗訴した相手方に負担させることができます。しかし、弁護士費用については、原則として自己負担となります。ただし、投稿者本人に対する損害賠償請求訴訟では、損害額の一部として弁護士費用の一部が認められることもありますが、全額が認められることはありません。

解説

1. なぜ「裁判」という手段が必要になるのか?

サイト運営者が、被害者からの度重なる削除依頼や法的な請求に応じないのはなぜでしょうか。それは、運営者自身が「投稿者の表現の自由」と「被害者の権利保護」の板挟みになり、自らの判断で削除することのリスクを避けたい、という事情があるからです。

そこで、「裁判所」という、国から権限を与えられた中立的な第三者に、「この投稿は違法な権利侵害にあたるため、削除すべきである」という公的な判断(命令)を出してもらう必要があります。裁判所の命令は、単なる「お願い」や「請求」とは異なり、サイト運営者が従わなければならない法的な拘束力を持ちます。この強力な法的拘束力を得るために、裁判という手続きが必要になるのです。

2. スピーディーな解決を目指す「削除仮処分(かりしょぶん)」

誹謗中傷の削除請求で最もよく利用されるのが、この「仮処分」という裁判手続きです。

仮処分とは?

本訴訟(後述)には時間がかかるため、その判決を待っていたのでは被害が拡大してしまう、という場合に、暫定的な措置として、迅速に権利状態を確保するための手続きです。誹謗中傷は、ネット上に存在し続ける限り被害が拡大し続けるため、この迅速性が求められます。

手続きの流れ

  1. 申立書の作成・提出
    被害者の代理人である弁護士が、「投稿記事削除仮処分命令申立書」という専門的な書面を作成し、証拠とともに管轄の裁判所に提出します。
  2. 裁判官との面談(審尋)
    申立て後、速やかに裁判官との面談期日が設定されます。多くの場合、相手方(サイト運営者)は呼ばれず、申立人側の弁護士と裁判官のみで行われます。この場で、弁護士が権利侵害の事実を口頭で説明し、裁判官の質問に答えます。
  3. 担保金の供託
    裁判所が「申立てに理由がある」と判断した場合、申立人に対して担保金を法務局に預けるよう命じることがあります。これは、万が一、後の本訴訟で仮処分の判断が覆り、相手方に損害を与えてしまった場合に備えるためのお金です。金額は事案によりますが、10万円~30万円程度が一般的で、問題がなければ後で返還されます。
  4. 認容決定(削除命令)
    担保金の供託後、裁判所はサイト運営者に対し、「当該投稿を削除せよ」という内容の決定(命令)を発令します。
  5. 削除の実行
    サイト運営者は、この裁判所の決定に速やかに従い、投稿を削除します。

期間と費用の目安

  • 期間
    申立てから決定まで、通常1ヶ月~3ヶ月程度。
  • 費用
    • 弁護士費用
      着手金として20万円~40万円程度、報酬金として同程度が相場です。
    • 実費
      裁判所に納める印紙代、郵券代など数千円~1万円程度。
    • 担保金
      裁判所が命じた場合に10万円~30万円程度(後日返還)。

3. 白黒をつける「削除請求訴訟(本案訴訟)」

仮処分が「応急処置」だとすれば、こちらは「根本治療」にあたる、本格的な裁判です。

本案訴訟とは?

公開の法廷で、原告(被害者)と被告(サイト運営者)が互いに主張と立証を尽くし、最終的に判決によって権利関係を確定させる手続きです。

手続きの流れ

  1. 訴状の作成・提出
    弁護士が「訴状」を作成し、裁判所に提出(提訴)します。
  2. 口頭弁論
    約1ヶ月に1回のペースで、公開の法廷が開かれます。当事者双方が準備書面という書面を提出し、主張を繰り返します。
  3. 証拠調べ・尋問
    争点が固まると、証拠を調べたり、関係者を証人として呼んで尋問したりします。
  4. 判決
    裁判官が、これまでの審理を踏まえ、請求を認めるかどうかの最終判断(判決)を下します。

期間と費用の目安

  • 期間
    提訴から判決まで、短くても半年、複雑な事案では1年以上かかることも珍しくありません。
  • 費用
    弁護士費用は仮処分よりも高額になる傾向があります。

どのような場合に選択するか?

権利侵害の有無について、事実関係に大きな争いがあり、仮処分のような迅速な手続きでは判断が難しく、じっくりと審理する必要がある場合に選択されます。また、削除請求とあわせて、サイト運営者自身の責任(投稿を放置した責任など)を問い、損害賠償を請求するような場合にも利用されます。 

弁護士に相談するメリット

裁判所を通じた削除請求は、法律の専門知識と実務経験がなければ、個人で進めることは事実上不可能です。弁護士への依頼が必須となります。

  1. 最適な手続きの選択と戦略立案
    事案の性質を見極め、「仮処分」で迅速に解決すべきか、「本案訴訟」で争うべきか、最適な戦略を立てることができます。
  2. 専門的な書面の作成と主張
    裁判所を説得するためには、法的要件を満たした、論理的で説得力のある申立書や訴状の作成が不可欠です。弁護士は、過去の判例や法律論を駆使して、勝訴の可能性を高めます。
  3. 裁判所での的確な対応
    裁判官との面談や法廷での弁論など、専門家でなければ対応できない場面で、被害者の代理人として的確な主張・立証活動を行います。
  4. 時間的・精神的負担からの解放
    複雑で長期にわたることもある裁判手続きの全てを弁護士に一任することで、被害者は多大なストレスから解放され、日常生活に専念することができます。

まとめ

任意での削除依頼が通じなかったとしても、道は閉ざされていません。裁判所を通じた「削除仮処分」や「削除請求訴訟」は、サイト運営者に削除を法的に求めることができる、強力な手段です。

これらの手続きは、迅速な「仮処分」であっても、個人で対応することは困難であり、弁護士のサポートが重要となります。

「もう打つ手がない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、法律の専門家にご相談ください。裁判という手段を用いて、あなたの権利を回復し、平穏な日常を取り戻すためのお手伝いをさせていただきます。

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