はじめに

不動産を担保とする際、同じ物件に対して複数の抵当権が設定されることがあります。これを俗に「二重抵当」と呼ぶケースもあり、登記の順位によってどの抵当権者が優先的に弁済を受けられるかが定まります。しかし、登記や契約手続きを誤ると、後順位だと思っていた抵当権が実は先順位になってしまう「順位の逆転」や、共同担保をめぐる複雑な優先順位争いなど、さまざまなトラブルに発展しがちです。

本稿では、二重抵当と呼ばれる状態がどのように生じるのか、優先順位がどのように定まるのか、そして共同担保における注意点などを解説し、金融機関や借主、関係者が誤解なく安全に担保取引を進めるための知識を提供します。

Q&A

Q1.「二重抵当」とは何ですか?

一般的には、同じ不動産に複数の抵当権が設定されることを指します。法律上は「二重抵当」という明確な用語はありませんが、登記順位1位と2位、さらに3位…というふうに、複数の抵当権が登記される状態です。どの抵当権が“二重”なのかというより、優先順位が問題となります。

Q2.なぜ二重抵当が発生するのでしょう?

主に以下のような事情があります。

  1. 追加融資や増融資
    最初のローンをまだ返済中に、同じ物件を担保に別の金融機関から追加資金を借りる。
  2. 複数の債権者への担保提供
    事業資金などで複数銀行から借入をする際、同じ不動産に連続して抵当権を設定。
  3. 不動産所有者が知らずに二重設定
    稀ですが、不動産所有者(債務者)が悪意で二重に担保を設定してしまう詐欺的事例も。
Q3.二重抵当が設定された場合、どのように優先順位が決まるのですか?

不動産登記法により、原則として「登記の先後」で決まります。先に登記した抵当権者が先順位となり、後から登記した抵当権は後順位として配当を受ける権利が劣後します。

  • 先順位抵当権者が弁済受けて残金があれば、後順位抵当権者が配当を受ける流れ。
Q4.共同担保とはどのようなものですか?

同じ債権を担保するために、複数の不動産に抵当権を設定する場合を「共同担保」と呼びます。例えば、A銀行が債務者Xに1億円貸し付け、Xが所有する2つの不動産(甲土地・乙建物)それぞれに抵当権を設定するなどです。

  • 共同担保も登記順位が大切で、他の債権者の抵当権が入ると、配当優先順位が複雑化します。
Q5.弁護士に相談するメリットは何でしょうか?

二重抵当や共同担保の優先順位争いは契約書や登記時期が絡み合い、専門的な知識が不可欠です。弁護士を介入させると、

  1. 優先順位に関する法的検討
    契約・登記日の確認、不備がないかを精査し、万一の順位逆転リスクを回避。
  2. 紛争対応
    債権者間で相反する主張が出た場合、弁護士が調停・交渉・訴訟を代理し、迅速解決を図る。
  3. 共同担保設定時のリスク管理
    契約書ドラフトや登記計画を整え、後順位権者の同意や債務者の理解を確保。

解説

二重抵当が問題化するケース

  1. 同一物件に複数の抵当権
    • 銀行Aが1番抵当(先順位)、銀行Bが2番抵当(後順位)で登記していたが、Bが優先と勘違いするなどの手続きミス。
    • 債務者が2番抵当の存在を隠して別の担保設定を続け、返済不能に陥った。
  2. 転抵当
    先順位抵当権者が自分の抵当権を他の債権者に担保として提供する「転抵当」。当事者が複数になるため、配当順や債権整理が複雑化。
  3. 詐欺的な二重設定
    • 不動産所有者が、同じ不動産に対してそれぞれ別の金融機関に1番抵当権設定を約束し、先後同日の登記申請で順位争いが起きる。
    • 不正登記が発覚し、法的紛争へ発展。

共同担保における優先順位争い

  1. 複数不動産に設定した抵当権の扱い
    • 債務者が一つの債務に対し、甲土地と乙建物を共同担保提供する場合、甲と乙に同時に第1順位抵当権を設定できる(同一債権に対する担保)。
    • 後から甲土地や乙建物に別の抵当権が設定されたら、その登記順位が優先度を決定する。
  2. 配当計算
    • 競売・任意売却で甲土地が売却され、まだ債務残があれば乙建物の競売に進むなど手続きが段階的に進行。
    • 共同担保設定時に「共同担保目録」を作成し、明確に債務総額や対象不動産を管理することが大切。
  3. 共同担保に対する追加設定
    追加融資を受ける際、すでに共同担保がある不動産にさらに順位を付けて抵当権を設定する場合、順位合意や後順位者の同意が必要になり、利害調整が複雑化。

優先順位争いの典型事例

  1. 同日登記の先後問題
    • 複数の抵当権が同日同時刻に登記申請されるケースでは、法務局が受付番号で順位を決めることがある。
    • 当事者間で競合が生じ、訴訟になる場合も。
  2. 動産・債権も共同担保に含む場合
    不動産に加えて動産譲渡担保や売掛債権担保など複数の担保を同時設定する「集合担保」。優先順位や競合がさらに複雑。
  3. 分割協議や相続発生時
    不動産を相続で分割したが、一部に抵当権が残存している。共有物分割や相続人間での協議で順位が争われることも。

弁護士に相談するメリット

  1. 契約段階でのリスク回避
    二重抵当や共同担保を設定する際、弁護士が契約書や登記計画をレビューし、優先順位の確保や紛争防止を徹底。
  2. 順位争いの紛争対応
    既に先順位があると思ったら、登記不備で後順位になってしまっていた……などトラブルで弁護士が法律的な見解を示し、交渉・訴訟対応。
  3. 共同担保処分時の利害調整
    競売や任意売却を行う際、複数不動産が絡む場合の配当計算や別の抵当権者との調整を弁護士が主導し、時間とコストを削減。

まとめ

  • 二重抵当とは
    同一不動産に複数の抵当権が存在する状態。優先順位は登記の先後で決定。
  • 共同担保とは
    同一債権を複数不動産で担保する仕組み。競売・配当時に複雑な優先順位計算が必要。
  • 優先順位争い
    • 登記ミスや同日登記で先後不明、共同担保に追加設定された抵当権との競合などで紛争化。
    • 不明瞭な契約・書類管理が原因の一つ。
  • 解決策・対応策
    • 登記手続きの適正化(受付順に注意・書類不備なし)
    • 契約書で順位合意・承諾を明確化
    • 紛争時は弁護士を介入し、競売・任意売却・相続手続きなどの調整を行う
  • 弁護士活用
    二重抵当の締結時の契約書チェック、優先順位紛争の訴訟代理、共同担保処分の利害調整など、専門的助言が得られる。

二重抵当や共同担保は、企業の資金調達や個人ローンの追加融資などに有用ですが、一度順位争いが起きると財産的損失や法的紛争に繋がりかねません。契約や登記の段階で弁護士など専門家と連携し、手続きを慎重に行うことが、トラブル防止と安全な資金取引の鍵といえます。


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