はじめに
企業が深刻な経営危機や多額の債務を抱え、通常の返済やリスケでは再建が難しい場合、法的再建手続き(民事再生法・会社更生法など)を利用する選択肢があります。これらは、裁判所が関与し、既存債務を一括的に整理することで企業が事業を継続するための手段です。一口に法的整理といっても、民事再生と会社更生では管財人の有無や対象とする企業の規模が異なり、メリット・デメリットに差があります。
本記事では、民事再生と会社更生を中心とした法的再建手続きの特徴を整理し、企業がどんな場合にどの手続きが向いているか、また実際に選択するときのポイントや留意事項を解説します。適切なタイミングで法的手続きを選択できれば、事業を救うチャンスとなりますが、準備や手続きにミスがあると失敗するリスクも高く、十分な検討と専門家の支援が重要です。
Q&A
Q1:民事再生法と会社更生法は何が違うのでしょうか?
民事再生法は、主として中小企業から大企業まで利用可能な再建手段で、経営陣が続投しながら事業を継続することが多い手続きです。一方、会社更生法は主に大企業向けで、申立後は管財人が選任され、既存の経営陣が経営権を失う場合が一般的です。会社更生の方が手続きが厳格かつ複雑であり、負債が非常に大きい会社などが対象となります。
Q2:民事再生を利用するメリットは何ですか?
- 経営陣が残れる
通常は経営者が職務を続けられ、事業ノウハウや人材を活かせる。 - 再生計画に債務のカット(弁済率低減)や支払い猶予を盛り込み、裁判所の認可で強制力が及ぶ。
- 早期解決
会社更生法より簡易・迅速な手続きが多く、スポンサー支援やM&Aも組み込みやすい。
一方、公開手続きであるため、信用不安が広がりやすいデメリットもあります。
Q3:会社更生の特徴は何でしょうか?
会社更生法は、大企業や社会的影響の大きい企業を管財人が管理し、抜本的な再建を図る制度です。大規模な債務を整理しつつ、関係者全員を公平に扱うため厳格な手続きが行われます。結果的に再建計画が認可されれば全ての債権者を拘束でき、会社が再生する道が開けます。ただし、経営陣が排除される可能性が高く、企業イメージのダメージやコストが大きいデメリットが挙げられます。
Q4:実際に法的再建手続きを選ぶ際、どんなポイントを検討すべきですか?
まずは企業の規模や負債額、社会的影響を考慮します。次に経営者が続投を希望するか、管財人に任せる方が良いかを判断。さらに、スポンサー候補の有無、手続きコスト・期間、金融機関との関係性なども大きな要素です。企業の財務状態や利害関係者の構成によって、民事再生や会社更生のどちらが向いているか、あるいは私的整理で解決できないかを総合的に検討する必要があります。
解説
民事再生法の具体的フロー
- 申立てと保全処分
- 債務者(会社)または債権者が裁判所に民事再生申立。申立と同時に保全管理命令や強制執行停止を求めることが多い。
- 債務者が再生手続開始決定を受けると、債権者は単独での強制執行や担保権行使が停止。
- 再生手続き中の運営
- 原則として経営陣が事業を継続し、監督委員や債権者集会の監督下で再生計画を作成。
- 取引先や金融機関とスポンサー支援や新株発行などを交渉し、合理的な計画をまとめる。
- 再生計画案の提出と可決
- 再生計画案を債権者に提示し、議決権の過半数かつ債権額の過半数の同意(類型により要件異なる)があれば可決。裁判所認可を得て計画が確定。
- 計画に基づき返済カットやスケジュール調整を実行し、事業再生を進める。
会社更生法の手続きと特徴
- 申立と管財人選任
- 大企業などで会社更生法を申立てると、裁判所が管財人を選任し、既存経営陣は基本的に経営から外れる。管財人が会社の財産を管理処分し、更生計画を策定する。
- 民事再生と比べ、債権者保護が手厚く、関係者全体を公平に扱うための厳格なルールが多い。
- 更生計画の成立
- 管財人が事業再建案を作成。債権者集会や株主総会で承認を得て、裁判所が認可。
- 承認後は管財人や新経営陣が計画を実行し、企業を再生する。計画が失敗すると、最終的に破産に至る可能性も。
- メリット・デメリット
- メリット:大規模債務を強力に整理し、社会的影響を最小化しつつ再生を図る。取引先や従業員保護が図られやすい。
- デメリット:経営陣は実権を失い、手続きコストと時間が膨大。企業イメージの失墜リスクも大きい。
法的整理選択の要点
- 企業規模・負債額
- 中小企業では民事再生が主流。大企業や社会的影響の大きい企業(公共性が高い、資産・負債規模が巨大)では会社更生が選ばれやすい。
- それでもスポンサー獲得やスピード重視の場合、民事再生を使う大企業もある。
- 経営者の続投意向
- 現経営陣が事業を続けたいなら民事再生が合っている。逆に大幅なガバナンス改革が必要であり、経営陣退陣が避けられないなら会社更生の方が適合する場合も。
- 関係者(債権者・従業員・取引先)調整の難易度
- 再生手続きでは、主要債権者の意向がカギ。銀行団や公的機関が支援してくれるならスムーズに行くが、利害対立が激しいと計画案が通りにくい。
- 会社更生は裁判所主導なので、利害調整は強制力がある一方、時間と手続きが複雑化。
- スポンサーの有無
- スポンサー(他社やファンド)が支援してくれる前提なら民事再生が比較的容易に成功しやすい。
- 会社更生でもスポンサー支援は可能だが、管財人との協議が必要で時間がかかる。
弁護士に相談するメリット
- 企業の状態診断と手続き選択
- 財務状況や利害関係者をヒアリングし、私的整理で解決できるか、民事再生に適しているか、会社更生が必要かを総合的にアドバイス。
- 必要に応じて税理士・会計士と連携し、数値シミュレーションで最適解を提示。
- 申立準備と計画書の作成
- 民事再生申立や会社更生申立に必要な書類(財産目録、債権者一覧、再生計画案など)を作成代理。
- 債権者への説明やスポンサーとの契約書起案も一括して行い、スムーズな手続きを実現。
- 利害関係者との交渉・スポンサー探し
- 金融機関・主要取引先との交渉を代理し、再建案に理解を得る。
- スポンサー候補の企業やファンドとの交渉を円滑化し、出資条件や業務提携内容を法的に固め、再生計画に反映する。
- 経営陣・従業員への説明とアフターサポート
- 法的整理中の経営陣や社員への説明会を開催し、不安や誤解を解消。
- 計画認可後も債権者対応やモニタリングを続け、再建完了までフォロー。計画に不測の事態が生じた場合には修正。
まとめ
- 民事再生や会社更生など法的再建手続きは、企業が深刻な財務危機に陥った際に、裁判所の力を借りて債務整理と事業再建を同時に行う有力な手段。
- 民事再生は経営陣が続投できる一方、会社更生は管財人主導でより大規模企業向け。どちらも利害関係者全体に強制力を及ぼし、不一致の債権者がいても再建が可能となる。
- 一方、公開されるため信用不安や時間・コスト負担が増大するリスクがあるので、私的整理で解決できないか検討する余地も残す。
- 弁護士に相談すれば、企業の規模や債務状況に応じて最適な再建手続きを選べるほか、申立や再生計画作成、スポンサー探しまで包括的支援を受けられ、事業継続が期待できる。
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