はじめに

多額の借金を抱え、債務整理や自己破産を検討する人が不動産(自宅や土地など)を所有している場合、その不動産に抵当権が設定されていることが多々あります。返済不能に陥った際、債権者は抵当権を実行して不動産を競売にかけ、優先弁済を受ける可能性があります。また、自己破産の申し立て時に不動産を保有していると、その処分や配当の扱いが法的に複雑です。

本稿では、債務整理・破産手続きと不動産担保の関係や、具体的な手続きの流れ、対応策について解説し、債務者・債権者双方が注意すべきポイントを整理します。

Q&A

Q1.不動産に抵当権がついている状態で債務整理をするとどうなりますか?

一般的に、抵当権付き不動産は担保資産として扱われ、債務整理の種類(任意整理・個人再生・自己破産)に応じて処分や残債調整が行われます。

  1. 任意整理
    特定の債権者と交渉し、返済計画を再編。しかし抵当権者が合意しないと不動産売却(競売・任意売却)もありうる。
  2. 個人再生
    住宅ローン特則を利用すれば、一定条件下で自宅を残しつつ返済計画を立てることができる。
  3. 自己破産
    原則、不動産は処分対象となり、抵当権者が競売実行するか、破産管財人が売却配分する。
Q2.自己破産すると自宅は必ず失いますか?

自己破産手続きでは債務者の財産は原則換価され、債権者に配当されます。自宅に抵当権が設定されている場合、原則として売却(競売や任意売却)され、債権者への弁済に充当されます。

ただし、残債が少なく住宅ローン特則を利用できる場合や、個人再生手続きで「住宅資金特別条項」を使う場合、自宅を守れる可能性もあります。

Q3.不動産担保付きの住宅ローン返済が厳しくなったら、どんな選択肢がありますか?

以下のような方法が考えられます。

  1. 任意整理
    住宅ローンを除く他の債務を整理し、返済負担を軽減して住宅ローン返済を優先する。
  2. 個人再生(住宅資金特別条項)
    住宅ローンは従来どおり返済しつつ、他の債務を再生計画で減額。自宅を残す。
  3. 任意売却
    住宅を売却し、ローンを完済または大半を返済し、残りの借金を別の形で整理。
  4. 自己破産
    やむを得ず自宅を処分(競売)し、全債務を免責する(一定の要件下)。
Q4.破産手続きで抵当権はどう扱われるのですか?

自己破産が開始された場合、基本的には破産財団(債務者の財産)に不動産が含まれ、破産管財人が売却や配当を行います。ただし、抵当権は消滅しないため、抵当権者は優先弁済権を行使できます。

  1. 別除権
    抵当権は「別除権」と呼ばれ、破産手続きに左右されずに競売を実行可能。
  2. 管財人との協議
    任意売却などで処分する際、管財人と抵当権者が協議し、配当順位に従って弁済する。
Q5.弁護士に相談するメリットは何でしょうか?

不動産担保付き債務の整理や自己破産手続きは法律と実務が複雑に絡むため、弁護士によるサポートが不可欠です。メリットとしては、

  1. 債務整理の選択肢提示
    任意整理・個人再生・自己破産それぞれのメリット・デメリットを弁護士が分析し、最適策をアドバイス。
  2. 抵当権者との交渉
    任意売却や再生計画で、抵当権者が納得する配当案を作成。和解をスムーズに進める。
  3. 破産手続きの代理
    管財人とのやりとり、財産目録作成、競売対応などの業務を弁護士が代行し、トラブルを最小化。

解説

不動産担保と債務整理

  1. 任意整理の場合
    • 債務者が複数の借金を整理しようとしても、住宅ローンを優先して返済する方針を金融機関が認める場合がある。
    • 抵当権を維持しながら他の無担保債務を圧縮することで、自宅を守る戦略も可能。
  2. 個人再生の場合
    • 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用すると、住宅ローンは従来通り支払い、他の借金を再生計画で大幅減額できる。
    • 要件を満たさない場合は自宅を処分しなければならない可能性がある。
  3. 自己破産の場合
    • 原則、抵当権付き不動産は処分対象で、競売・任意売却で配当した後に破産免責を受ける。
    • 破産手続き中でも抵当権者は「別除権」として不動産競売を進められるため、停止されない

抵当権付き不動産の売却

  1. 任意売却のメリット
    • 競売より高額売却が期待でき、残債を減らせる
    • 時間や住み替え準備がある程度融通がきく。
    • デメリットとしては、債権者全員の同意が必要で調整が難航する場合がある。
  2. 競売
    • 任意売却がまとまらない場合、抵当権者は裁判所に競売申立→落札後に配当。
    • 落札価格が市場相場より低くなりやすく、債務者に残債が残りやすい
  3. 破産管財人の処分
    • 債務者が自己破産した場合、不動産は破産財団に組み入れられ、管財人が抵当権者と協議して売却する。
    • 減価が激しい場合、管財人が放棄する例も稀にある。

実務上の注意点

  1. 複数抵当権がある場合
    • 先順位抵当権者から配当され、下位順位に配当が回るかどうかは売却金額次第
    • 順位変更や譲渡もあるため、債権者間の調整が複雑。
  2. 税金・管理費の滞納
    • 固定資産税やマンション管理費の滞納があると、これらも優先的に回収される場合がある。
    • 任意売却や破産手続きでも、税金や管理費の処理が重要になる。
  3. 住戸の退去・仮住まい
    • 競売では落札後に強制退去が行われる可能性があり、債務者の生活再建が困難。
    • 任意売却なら比較的余裕があり、次の住居を探しやすい。

弁護士に相談するメリット

  1. 最適な債務整理の選択
    個人再生で自宅を守れるのか、任意売却が有利か、自己破産で免責を得たほうがよいかを総合的に診断。
  2. 抵当権者との交渉
    金融機関と話し合って任意売却を行う場合、弁護士が代理人として説得力ある交渉を行い、トラブル回避。
  3. 競売手続きの円滑化
    抵当権者側では、弁護士が申立書作成から配当までの手続き管理。債務者側では競売対応策や残債への対応策を検討し、必要に応じて異議申立も行う。

まとめ

  • 債務整理・破産手続きと不動産担保
    • 任意整理や再生では不動産を残す方法がある場合も
    • 自己破産では抵当権付き不動産が原則処分対象
  • 抵当権実行方法
    競売・任意売却が中心。競売は裁判所手続きで売却価格が低くなりやすい。任意売却は当事者合意が必要だが柔軟。
  • 破産時の抵当権
    別除権として手続きが停止されず、管財人や債権者が協議して処分・配当。
  • 注意点
    複数抵当、税金・管理費滞納、有利な再生計画の立案など。
  • 弁護士活用
    最適な手段(再生や任意売却など)の選択・交渉代理、競売手続きサポート、残債務整理など全面支援を受けられる。

不動産担保のある借金を整理するには、抵当権の扱いと債務整理手続きを正しく理解することが不可欠です。競売や任意売却の選択、破産手続きでの別除権処理など難題が多いため、弁護士の助言を得ながら余裕を持って対策を立てるのが得策と言えます。


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