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誹謗中傷の証拠保全|法的に有効なスクリーンショットの撮り方と重要性を弁護士が解説

はじめに

ネット上の誹謗中傷に対して、削除請求や投稿者の特定、損害賠償請求といった法的措置を取ろうとするとき、その成否を分ける最も重要な要素が「証拠」です。なぜなら、あなたが受けた権利侵害の事実を、サイト管理者やプロバイダ、そして最終的には裁判所に客観的に認めてもらうための唯一の手段が、証拠だからです。

「誹謗中傷の書き込みを見つけたけれど、どうやって保存すればいいの?」
「自分で撮ったスクリーンショットは、法的な証拠として通用するの?」

ネット上の投稿は、ボタン一つで簡単に削除できてしまいます。いざ行動を起こそうとしたときには投稿が消えており、「証拠がない」ために泣き寝入りせざるを得なくなるケースは後を絶ちません。

この記事では、ネット誹謗中傷を争う場合の「証拠」の重要性と、法的に有効な証拠として認められるための「正しい保存方法」について、具体的な手順や注意点を交えながら、弁護士が解説します。

Q&A

Q1. 問題となっている誹謗中傷の書き込みの部分だけを、きれいに切り取ってスクリーンショットを撮りました。これで証拠として十分でしょうか?

いいえ、不十分です。問題の書き込み部分だけを切り取った(トリミングした)スクリーンショットは、証拠としての価値が下がってしまいます。なぜなら、その書き込みが「いつ」「どのサイト(URL)で」「誰によって」投稿されたのかが不明であり、改ざんを疑われる可能性もあるからです。証拠として有効性を高めるためには、必ず①投稿内容、②投稿日時、③URL(アドレスバー全体)、④投稿者名(ID)などが一枚の画像に収まるように、画面全体を撮影する必要があります。

Q2. 誹謗中傷の投稿に気づいたのですが、すぐに消されてしまいました。証拠がないので、もう何もできないのでしょうか?

諦めるのはまだ早いです。投稿が削除された後でも、Googleなどの検索エンジンの「キャッシュ」に、削除前のページの情報が一定期間残っている場合があります。また、キャッシュも残っていない場合でも、弁護士がプロバイダに照会することで、投稿の痕跡を調査できるケースもあります。すぐに諦めず、まずは弁護士にご相談ください。

Q3. 自分で撮ったスクリーンショットは、裁判になったときに本当に証拠として認めてもらえるのでしょうか?相手から「捏造だ」と言われないか心配です。

ご自身で撮影したスクリーンショットも、裁判において証拠として認められるのが一般的です。ただし、Q1で述べたように、URLや投稿日時などが含まれ、客観性が担保されていることが重要です。相手から捏造を主張されるリスクに備えたい場合や、事案の重要性が高い場合には、後述する「タイムスタンプ」の利用や、公証役場での「確定日付」の付与といった、より客観性を高める方法を検討するのも有効です。

解説

なぜ「証拠」がこれほど重要なのか?

ネット誹謗中傷の被害回復に向けた全ての法的手続きは、証拠があることを前提としています。証拠がなければ、そもそもスタートラインに立つことすらできません。証拠が必要である主な理由を3つ挙げます。

理由1:権利侵害の事実を証明するため

サイトの管理者に投稿の削除を依頼する際、「あなたのサイトのこの投稿によって、私の名誉が毀損されています」と主張しても、口頭だけでは取り合ってもらえません。「いつ、どのページの、どの部分の記載が、どのような権利を侵害しているのか」を客観的に示す証拠があって、初めて管理者は対応を検討します。これは裁判所に削除を求める場合も同様です。

理由2:投稿者を特定するための根拠となるため

匿名の投稿者を特定する「発信者情報開示請求」という手続きでは、まずサイト管理者からIPアドレス等の開示を受け、次にそのIPアドレスを管理するプロバイダ(NTTやKDDIなど)に対して契約者情報の開示を求めます。この一連の手続きにおいて、プロバイダ等に「この投稿によって権利侵害があったことは明らかである」と認めさせる必要があります。その判断の根拠となるのが、誹謗中傷投稿の存在を示す証拠なのです。

理由3:損害額を算定・立証するため

誹謗中傷によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料などを請求する民事訴訟では、被害の大きさ(損害額)を立証する必要があります。投稿内容の悪質性、被害期間の長さ、拡散の程度などを示す証拠があれば、それだけ精神的苦痛が大きかったと主張しやすくなり、適正な賠償額の獲得につながります。

【基本編】正しい証拠の保存方法

法的に有効な証拠を、特別な機材なしで自分で作成・保存する方法を解説します。

スクリーンショットの正しい撮り方

これが基本的かつ重要な方法です。以下の5つの要素が必ず含まれるように撮影してください。

  1. 誹謗中傷の投稿内容そのもの
  2. 投稿された日時(「〇分前」などの相対的な表示の場合は、それが何月何日何時何分にあたるか分かるように、時計と一緒に撮るなどの工夫も有効)
  3. 投稿ページ全体のURL(アドレスバーに表示される「https://…」という文字列の全体)
  4. サイトの名称やロゴ、SNSのサービス名など
  5. 投稿者のアカウント名、ユーザーID、プロフィールへのリンクなど
PCでの撮影方法
  1. キーボードの[PrintScreen](PrtSc)キーを押します。
  2. 「ペイント」などの画像編集ソフトを開きます。
  3. 「貼り付け」(Ctrl + V)を実行すると、画面全体の画像が貼り付けられます。
  4. ファイル名を「(サイト名)誹謗中傷の証拠_20250611」のように分かりやすく付けて保存します。
スマートフォンでの撮影方法

iPhoneやAndroid端末のスクリーンショット機能(例:電源ボタンと音量小ボタンの同時押しなど)を使って、画面全体を撮影します。

URLが長すぎて画面に収まらない場合

ウェブページをPDF形式で保存する機能が有効です。ブラウザの印刷機能から「PDFとして保存」を選択すると、複数ページにわたる内容とURLを一つのファイルとして保存できます。

動画コンテンツの保存方法

PCの画面録画機能や、スマートフォンの画面収録機能を使って、動画が再生されている様子と、その動画のURLが分かるように録画します。動画のURL自体も別途テキストファイルなどにコピーして保存しておきましょう。

印刷(プリントアウト)しておく

保存したスクリーンショットやPDFは、紙に印刷しておくことをお勧めします。電子データと物理的な証拠の両方があることで、より確実性が増します。印刷時には、ブラウザの設定でヘッダーやフッターに「ページタイトル」「URL」「印刷日時」などが印字されるようにしておくと、証拠としての客観性がさらに高まります。

【注意点】証拠価値を下げてしまう保存方法

良かれと思ってやったことが、かえって証拠の価値を下げてしまうことがあります。以下の方法は避けましょう。

【応用編】証拠の客観性を高める方法

相手方から「証拠が捏造されたものだ」と強く争われることが予想される場合や、企業の存続に関わるような重大な被害を受けている場合には、以下のような方法で証拠の客観性・信頼性をさらに高めることを検討します。

これらの方法は費用がかかるため、事案の重要性に応じて、弁護士と相談の上で利用を検討するのが良いでしょう。

弁護士に相談するメリット

証拠保全の段階から弁護士に相談することには、複数のメリットがあります。

  1. 証拠の有効性をプロの目で判断
    ご自身で保存した証拠が、法的手続きを進める上で十分なものか、証拠として弱い部分はないかを、法律と実務のプロの視点で精査します。
  2. 的確な証拠収集のアドバイス
    権利侵害を立証するために、他にどのような証拠があれば有利になるか、具体的なアドバイスを受けられます。
  3. 手続きのスムーズな移行
    証拠が確保でき次第、すぐに削除請求や発信者情報開示請求といった次のステップにスムーズに移行できます。時間との勝負であるネットトラブルにおいて、このスピード感は重要です。
  4. 客観性の高い証拠確保のサポート
    必要に応じて、弁護士がタイムスタンプの付与や公証役場での手続きを代行したり、専門の調査会社と連携して証拠保全を行ったりすることも可能です。

まとめ

ネット誹謗中傷の被害回復は、「証拠に始まり、証拠に終わる」と言っても過言ではありません。「URLを含む画面全体」を「発見後すぐ」に保存することが、自分自身や会社を守るための絶対的な鉄則です。

この記事で紹介した正しい方法で証拠を保存したら、次はそれをどう活用して問題を解決していくか、という戦略を立てるフェーズに移ります。証拠という武器を手に、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ネットトラブルに関する豊富な知識と経験に基づき、証拠の段階から最終的な解決までサポートを提供しています。初回相談は無料ですので、安心してご連絡ください。


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