はじめに
従業員が退職する際には、退職届や退職証明書といった書類にまつわる手続きが発生します。退職届は労働者側が退職の意思を示す文書であり、一方で会社は従業員の求めがあれば退職証明書を交付する義務を負います。さらに、離職票(雇用保険被保険者離職票)の発行や、各種手続きの完了も重要です。しかし、これらの書類については実務上の誤解が多く、企業・従業員間でトラブルになるケースが少なくありません。
本記事では、退職届と退職証明書の扱い方や作成・交付の注意点、離職票の発行手続きなどを解説します。円満退職と法的リスク回避のために、ぜひ確認してみてください。
Q&A
Q1. 退職届は必ず書面で提出しなければいけないのですか?
法律上、書面でなくても口頭やメールでの意思表示で退職の意思は有効とされますが、証拠として残すためにも書面や電子データでの提出が望ましいです。企業は従業員とのトラブル防止のため、退職届を正式に受理するルールを定めておくと安心です。
Q2. 退職証明書はどんな内容を書かなければならないのですか?
労働基準法第22条によると、退職証明書には「使用期間、業務内容、地位、賃金、その他退職に関する事項」を記載できます。ただし、労働者が不要とする事項は記載してはいけない(求められた事項のみ記載)とされています。あくまで労働者からの請求があった場合のみ発行義務が生じます。
Q3. 会社が退職証明書の発行を拒否するのは違法ですか?
はい、違法の可能性が高いです。労働基準法第22条で、労働者が請求した場合は会社が「遅滞なく」退職証明書を交付する義務を定めているため、正当な理由なく拒否すれば労基法違反を指摘されるリスクがあります。
Q4. 退職届と退職願の違いはありますか?
厳密な法的区分はありませんが、一般的に「退職願」は退職を会社にお願いする文書で、「退職届」はすでに退職が確定した意思表示とされることが多いです。会社が「退職願を受理」していない段階ではまだ退職確定ではないともいわれますが、実務上は大差なく扱われるケースもあります。
Q5. 離職票の作成はどのように行いますか?
離職票は会社がハローワーク(公共職業安定所)に届出を行い、ハローワークが審査したうえで発行されます。退職理由(自己都合か会社都合か)が記載されるため、従業員との認識違いがある場合は紛争に発展するおそれがあります。
解説
退職届・退職願の提出と受理
- 提出形態
- 原則として書面(紙の文書)で提出されることが多いが、メールや口頭での意思表示でも退職の意思は法的には認められる。
- 会社としては書面提出を求める就業規則にしておくと、後日の証拠確保に役立つ。
- 受理と撤回
従業員が退職届を出したあと、「やっぱり撤回したい」というケースもある。企業が撤回を認めるかどうかは就業規則や実務運用次第となる。 - 退職理由の記載
多くの場合「一身上の都合」「自己都合」と記される。実質的に会社都合がある場合はトラブルに発展しやすいので、実態に応じて対応する必要がある。
退職証明書の交付義務
- 労働基準法22条
「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」 - 記載事項
- 勤務期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由など。
- 労働者が求めない事項を勝手に記載してはいけない。
- 交付拒否の違法性
明確に発行を拒む、または著しく遅延させる行為は違法となる可能性。労働者から申立があれば労基署が介入することがあり得る。
離職票の発行と退職理由
- 離職票の重要性
離職票(雇用保険被保険者離職票)は失業保険(雇用保険)の給付を受ける際に必要。会社がハローワークに手続きして発行される。 - 会社都合か自己都合か
- 離職理由を「自己都合」「会社都合」と区別することで失業保険の給付開始時期や給付期間が変わる。
- 従業員と認識が食い違えば、ハローワークが両者から事情聴取し判断する場合も。
トラブル防止の実務ポイント
- 就業規則で手続き方法を明示
「退職願/届は何日前までに提出」などのルールを記載し、従業員に周知しておく。 - 書面提出を基本とする
電子メールや口頭のみで退職意思表示された場合も、後日書面化するか確認書を作るなど、証拠を残す。 - 会社都合・自己都合の判断基準を共有
強制的な退職勧奨などは会社都合となり得るので、人事・上司が誤って「自己都合」と書かせないよう社内研修を行う。 - 離職票のチェック
従業員が「記載と実態が違う」と主張しないよう、退職理由を説明し、双方納得のうえでハローワークに提出。
弁護士に相談するメリット
退職届や退職証明書、離職票の扱いを誤ると、解雇トラブルや失業保険上の問題など思わぬ紛争が起こりやすくなります。弁護士に相談することで、以下の利点があります。
- 退職理由の整理
解雇なのか自己都合なのか、勧奨退職なのかを客観的に評価し、書類上・実態上の不一致を防ぐ。 - 手続き・書類作成支援
就業規則での退職手続き規定、退職届・退職証明書のひな形、離職票の記載など法的観点からアドバイス。 - 紛争対応
従業員が「会社都合なのに自己都合にされた」と異議を申し立てた際のハローワーク対応や、金銭補償問題をサポート。 - 企業リスクの総合的管理
退職だけでなく解雇・労務管理全般を整備し、コンプライアンスを強化。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、様々な退職関連の問題を解決してきた知見を活かし、企業が円滑に退職手続きできるようサポートいたします。
まとめ
- 退職届は従業員が退職を申し出る文書で、書面提出が望ましいものの、口頭・メールでも法的には有効です。撤回が可能かどうかも就業規則や状況次第で変わります。
- 退職証明書は労働基準法22条で定められ、従業員が請求した場合は会社が交付する義務があります。記載事項は従業員が求めるものだけとし、不要な情報は記載できません。
- 離職票は失業保険の手続きに必要で、会社都合退職か自己都合退職かで給付制限期間が変わります。記載内容と実態が合わないと紛争に発展しやすいです。
- 弁護士に相談すれば、退職手続きや書類作成の面で法的リスクを最小限に抑えられ、万が一の紛争時も適切な対応が可能となります。
円満退職を実現するためにも、退職届・退職証明書・離職票など各種書類の意義と扱いを正しく理解し、従業員との相互納得を得るプロセスを大切にしてください。
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