はじめに
上場会社の株式は市場価格(株価)が明確ですが、非上場会社の株式については相場がなく、会社の財務状況や将来性を踏まえて株式評価を行う必要があります。これは事業承継やM&Aでの売買価格交渉、相続税対策などで非常に重要なテーマとなります。また、複数の株主が存在する非上場会社では、株主間契約によって株式譲渡制限や優先株の設定、議決権の行使などをルール化し、会社のコントロールを安定させることが常套手段となります。
本記事では、非上場会社の株式評価方法や株主間契約における条項のポイント、そして実際の事業承継やM&Aでよくある問題と対策を解説します。株主構成と株式評価を正しく把握すれば、企業価値向上やトラブル回避につながり、非上場会社の強みを生かした円滑な運営が可能となるでしょう。
Q&A
Q1:非上場会社の株式はどのように評価されるのですか?
一般的に、簿価純資産方式(会社の純資産額を株式数で割る)や類似業種比準方式(同業上場企業の株価指標を参考に企業価値を算定)など、税法上の評価方法がよく使われます。M&Aの場面では、財務諸表を前提にしたDCF方式(将来キャッシュフロー割引)など、投資銀行や会計事務所が実務レベルで採用する評価手法もあり、複合的に検討するのが一般的です。
Q2:株主間契約とはどんな内容を定めるものですか?
株主間契約は、会社法の定款だけではカバーしきれない株主同士の権利義務関係を詳細に規定するための契約です。例えば、
- 株式譲渡制限やロックアップ条項:株主が一定期間は株式を譲渡できない
- 優先株や劣後株:配当や残余財産分配の優先順位を定める
- 議決権拘束条項:特定の議案に対し一致して賛成・反対する義務
- タグアロング/ドラッグアロング:株主が株式を売却するときに他の株主にも同条件で売却権・売却義務を与える
などが例として挙げられます。
Q3:オーナー経営の中小企業でも株主間契約は必要でしょうか?
はい、複数株主がいる場合は、将来の紛争予防のために株主間契約を定めておくことが望ましいです。例えば、親族間で経営している会社でも、事業承継のタイミングで異なる意見が出る場合があるため、株式の売買価格や譲渡先に関するルールをあらかじめ取り決めておくと、円満な承継が可能となります。また、外部出資者を招く場合にも、経営方針やExit戦略を巡って対立が生じないよう、契約でコントロールするメリットがあります。
Q4:株価評価や株主間契約でトラブルを避けるには?
明確な評価基準や計算式を、当事者間で合意しておくことが大切です(例えば、類似業種比準方式で平均○年の数値をベースにするなど)。株主間契約を締結する際には、将来の売却方法や買い取りオプション、議決権行使など、起こりうる紛争パターンを想定して包括的にルール化しておくとトラブルが減ります。
解説
非上場会社の株式評価手法
- 税法上の評価(相続税・贈与税対応)
- 国税庁の評価通達に基づく類似業種比準方式と純資産方式が代表的。
- 純資産方式では、会社の貸借対照表上の純資産をベースにして、潜在損益や含み益を調整して評価する。
- 類似業種比準方式は上場企業の株価指標(PER・PBRなど)を参考にして非上場企業の株式価値を算定するが、対象企業の規模や業種によって計算が複雑になる。
- M&Aや投資評価での算定
- DCF(Discounted Cash Flow)方式やEBITDA倍率など、投資銀行やファンドが用いる財務評価ツールを使う。会社の将来キャッシュフローやリスク、業界の取引慣行を考慮して総合的に決定。
- 取引先や交渉力次第で最終価格が変動するため、公正意見書を取得する場合もある。
- 時価と実務の乖離
- 非上場会社の株式は流動性が低く、時価と実際の取引価格が乖離することが多い。
- 大株主がいればコントロールプレミアムがつく場合もあり、実務上は価格交渉で最終値が決まる。
株主間契約の主要条項
- 譲渡制限・優先買取権
- 株主が第三者に株式を譲渡しようとする場合、既存株主や会社が優先的に買取できる権利(ROFR:Right Of First Refusal)を規定するなどして株主構成をコントロール。
- 一部の株主が会社に支配的な影響を及ぼしたいときにロックアップ条項を設け、一定期間は株式売却を禁止する例もある。
- 議決権行使拘束条項
- 特定の重要事項(増資、合併など)について、株主があらかじめ賛成・反対を一致させる義務を負う。
- 合弁会社やベンチャーへの投資時に用いられ、少数株主の拒否権(Veto)や過半数株主の賛成が必要などを細かく設定する。
- タグアロング・ドラッグアロング
- タグアロング(Tag-Along):大株主が株式を売却する際、少数株主も同条件で売却できる権利。
- ドラッグアロング(Drag-Along):大株主が第三者に売却する際、少数株主も強制的に同条件で売却させられる条項。
- M&Aや資金調達で株主のExit戦略を実行しやすくするために重要。
- 経営権維持と優先株
- 創業者の経営権を維持したい場合、議決権の多い株式や、配当優先株・劣後株などを設計して外部投資家とのバランスを図る。
- 株主間契約で役員選任権や予算承認権を特定の株主に付与することもある(ただし会社法との整合性に留意)。
事業承継やM&Aでの活用
- 事業承継
- オーナー企業で後継者に株式を譲る際、株価が高騰すると相続税や贈与税の負担が大きい。税法上の評価を踏まえた株価対策や保険を検討。
- 承継後に他の相続人や共同経営者との紛争を避けるために、株主間契約で議決権や株式譲渡ルールを確定しておく。
- M&A(非上場企業の売却)
- ベンチャーが投資家に株式を売却する際、優先株発行やドラッグアロング条項を組み込み、Exit戦略を明示。
- 買収側企業が支配権を獲得できるよう、株主間契約で役員選任や重要事項の承認を握るなどの条件をつける。
- 適切な株価評価レポートを取得し、後日「不当に安い(高い)」と争われないようにする。
- ファイナンス時の出資契約
- ベンチャーがVCから資金調達する際、株主間契約(投資契約)で保護条項を定められる(清算優先権、希薄化防止条項、買戻し権など)。
- 条項が複雑になるため、弁護士やFAが立ち会い、公正なバランスを図るのが望ましい。
実務トラブル事例
- 株主名簿更新されず、議決権問題
- 実際に株式が譲渡されたのに会社が株主名簿を更新しておらず、旧株主が総会で議決権行使を続け、新株主が権利を行使できない混乱が発生。
- 対策:株式譲渡が完了したらすぐに名簿を更新し、株主総会招集前に確定株主を精査。
- 株主間契約違反で売却された株式
- ある株主が株主間契約の譲渡制限に反して第三者に株式を売却。会社や他の株主が気づかずに時間が経ち、紛争化。
- 対策:譲渡制限を定款にも明記し、譲渡時の承認フローを徹底。違約金や強制買戻し条項を株主間契約に入れておく。
- 相続時に株価評価トラブル
- オーナー経営者が急逝し、税法上の評価額が高額となって遺産分割紛争に発展。会社自体の承継も滞り、事業に悪影響。
- 対策:生前に事業承継計画を策定し、株主間契約や信託、保険など多角的手段で対策。公的な事業承継税制の適用も検討。
弁護士に相談するメリット
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、非上場会社の株式評価や株主間契約の締結・運用で、以下のサポートを行っています。
- 株式評価手法の選定・助言
- 相続やM&A、事業承継の目的に応じて、類似業種比準方式やDCFなど適切な評価手法を選び、財務面・税務面で有利となるよう総合的に提案。
- 税理士や会計士との連携により、実務的な株価評価レポートを作成。
- 株主間契約の起案・レビュー
- 会社の将来ビジョンに合わせ、譲渡制限、優先株、議決権拘束、タグアロング/ドラッグアロングなど、最適な条項を提案。
- 交渉において各利害を調整し、公正かつ紛争予防効果の高い契約書を作成する。
- 事業承継・M&A支援
- 親族内承継や外部譲渡(MBO、投資ファンド売却など)を検討する際、株式売買契約や投資契約の作成、デューデリジェンス対応など包括的にサポート。
- 株式移転に伴う税務や労務リスクも踏まえ、最適なスキームを構築。
- トラブル対応・救済策
- 株主間契約違反や株式譲渡制限を巡る紛争が生じた場合、企業側・株主側いずれかの代理人として交渉・訴訟対応を行い、迅速かつ円満な解決を図る。
- 必要に応じて仮処分や裁判上の競売など強制的手段を提案し、依頼主の利益を守る。
まとめ
- 非上場会社の株式評価は、税法上の評価やM&A上の評価など目的によって異なる手法が使われ、算定基準を明確にすることが重要。
- 株主間契約を結ぶことで、譲渡制限や優先株、議決権拘束などを設定し、会社のコントロールと株主間関係を安定させられる。
- 事業承継やM&Aにおいては、株価評価や譲渡手順が不明確だと紛争が起きやすく、事前の計画と書面化が必要。
- 弁護士に相談すれば、個々の企業の状況に合わせた評価手法の選定や株主間契約条項のドラフト、承継・M&A時の法的リスク低減をトータルにサポートできる。
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