はじめに
正社員として採用する前の「試用期間」は、企業側が労働者の適性を判断する期間であり、一般的には1~3カ月程度に設定されるケースが多いです。しかし、試用期間だからといって簡単に解雇できるわけではないということを見落としている企業も少なくありません。近年の裁判例でも「試用期間の解雇は解約権留保付労働契約とされ、解雇権濫用法理が適用される」という立場が定着しており、不当解雇として争われると企業側が大きなダメージを受ける場合もあります。
本記事では、試用期間中の解雇トラブルをテーマに、試用期間の法的性質、解雇に至る手続き上の注意、即時解雇の違法性、トラブル防止のための方法などを解説します。採用担当・人事担当の方はぜひ参考にしてください。
Q&A
Q1. 試用期間だから、解雇は自由にできるんですよね?
いいえ。試用期間中であっても、解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されます。企業には解雇を正当化するほどの合理的理由と社会通念上の相当性が求められ、安易な解雇は無効となります。試用期間とはいえ、無条件で解雇できるわけではありません。
Q2. 「本採用拒否」と「試用期間満了で退職」はどう違うのですか?
基本的には同じ意味合いです。試用期間満了時に「本採用せず契約終了」とする行為は、実質的に解雇と同等に扱われます。企業が「試用期間満了」で終了させるときも、合理的理由や適正手続きが必要となる点は解雇と変わりません。
Q3. 即時解雇してもいい場合はありますか?
重大な犯罪行為や背信行為など、懲戒解雇レベルの事由があれば即時解雇も理論上可能ですが、労基法20条の解雇予告(30日以上前通知or手当支給)が必要です。ただし、懲戒解雇として予告手当免除を受けるには「労基法上の懲戒解雇要件」を満たさなければならず、非常にハードルが高いです。
Q4. 試用期間が3カ月で足りない場合、延長することはできますか?
就業規則や労働契約書で「必要な場合、最大○カ月まで延長できる」と定めてあれば、延長すること自体は可能です。しかし、延長理由が合理的でなければ従業員が「延長は不当」と主張し、後に紛争に発展するリスクがあるため、適性判断が難しいなど具体的根拠を示すことが重要です。
Q5. 試用期間中に不適格が判明した場合、どう進めればいいですか?
まず指導や面談を行い、改善の見込みがあるかを評価。注意や警告文書などの形で従業員にフィードバックを与え、それでも改善が見られなければ解雇(本採用拒否)を検討します。解雇前に手続き的配慮(弁明機会付与など)を行わなければ、解雇無効リスクがあります。
解説
試用期間の法的性質
解約権留保付労働契約
- 試用期間は形式上無期労働契約を締結しつつ、「一定期間中に不適格と判断された場合には解約できる権限を会社が留保している」という形。
- しかし、解雇権濫用法理が全面的に適用され、企業が解雇を行うには合理的理由と相当性が必要。
本採用拒否も解雇の一種
試用期間満了時に本採用を拒否するときは、事実上の解雇となるため、手続きや合理性の要件を満たさなければ違法となる。
試用期間中の解雇トラブル事例
- 軽微なミスで「向いていないから」と解雇
まだ入社1カ月で十分な指導もせずに不適格と断定。裁判で解雇無効となり、多額のバックペイ支払い命令を受けたケース。 - 即時解雇して解雇予告手当を払わない
就業規則に「試用期間中は即時解雇可」と書いてあっても、労基法20条の予告手当規定を免除するには重大な背信行為が必要。裁判で敗訴。 - 面談で繰り返し退職を迫り、精神的苦痛を与える
従業員が「退職強要」として損害賠償請求し、企業側が謝罪・和解金を払う結果となった例。
試用期間中の解雇手続きポイント
- 就業規則への明記
試用期間の期間、延長の可能性、解雇事由などを就業規則や労働契約書で定め、従業員に周知。 - 適性評価・指導のプロセス
入社後の数週間~数カ月で業務指導や評価面談を行い、問題点を本人にフィードバック。改善を促す機会を与える。 - 不適格と判断するための客観的根拠
勤務態度や成績が極端に悪い、コミュニケーションに重大問題があるなど事実証拠を収集。主観的な印象だけではリスキー。 - 解雇予告または予告手当
試用期間中でも、原則30日前の解雇予告または30日分の予告手当が必要(労基法21条の例外規定に該当する場合は別)。 - 面談機会と弁明の付与
解雇に至る前に本人に最終的な意見を聴くなど、手続き的公正を確保。
中途採用などの場合
- 中途採用でも試用期間を設ける場合が多い
前職での実績を見ていても、実際の業務適性は働いてみないとわからないケースがある。 - 専門職・管理職の試用期間
高度専門職や管理職で試用期間を設定する場合、能力評価やリーダーシップ評価などを行い、合わなければ配置転換などを検討する。 - 不適格と判断したあとの対応
配置転換で別部署に回して試用期間再評価するなど、安易に解雇に踏み切らない慎重さが必要。
弁護士に相談するメリット
試用期間中の解雇は、思いのほか厳しく制限され、トラブルが起きやすい領域です。弁護士に相談することで以下のようなサポートを得られます。
- 就業規則・試用期間条項の整備
試用期間の長さ、延長条件、解雇事由などを明確に定め、違法リスクを低減する。 - 個別事案の解雇リスク評価
具体的な従業員のミスや態度をヒアリングし、解雇できるだけの合理的理由があるか、改善指導で解決するかを判断。 - 指導・警告の方法
トラブルを未然に防ぐため、改善計画や注意書の作成などを提案し、解雇を回避するか、やむを得ず解雇する場合も適切な手続きを踏む。 - 紛争対応
従業員が「試用期間解雇は不当」と主張した際、労働審判や裁判で企業の立場を法的に立証し、損害を最小限にする戦略を立案。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、試用期間解雇を含む解雇トラブルや労務管理をサポートしています。
まとめ
- 試用期間だからといって自由に解雇できるわけではなく、解雇権濫用法理が適用されるため、「合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。
- 本採用拒否として試用期間満了時に契約終了させるときも、実質的に解雇とみなされ、要件を満たさないと無効判定の可能性が高いです。
- 指導や改善の機会を与えるステップが重要で、短期間で即時解雇する場合には懲戒解雇レベルの重大事由が求められます。
- 弁護士に相談すれば、就業規則の整備や解雇前の指導手続き、紛争対応まで幅広くサポートを受けられ、試用期間中の解雇トラブルを回避しやすくなります。
企業としては、試用期間を「見極め期間」と位置づける一方、解雇に踏み切る際の法的ハードルが高いことを理解し、慎重にプロセスを組み立てることが大切です。
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