はじめに
企業が従業員との雇用契約を終了させる方法の代表例として挙げられるのが、「解雇」です。解雇には大きく分けて、普通解雇(整理解雇を含む一般的な解雇)と、懲戒解雇(重大な規律違反等に対する罰としての解雇)があります。しかし、解雇は労働者の雇用関係を一方的に終了させる重大な行為であるため、労働基準法や裁判例では厳しく制限されています。
本記事では、普通解雇と懲戒解雇の基本的な要件や手続き、解雇の正当性を判断する際の基準などを解説します。解雇に踏み切る前に必ず押さえておきたい注意点が多数ありますので、企業側のリスク管理の参考にしてください。
Q&A
Q1. 普通解雇と懲戒解雇の違いは何ですか?
- 普通解雇
従業員の能力不足や勤務態度不良、会社の経営上の理由などを理由に雇用契約を解除する。労働基準法や判例上の「解雇権濫用法理」によって厳しく制限されるが、あくまで懲罰的な性質ではなく「通常の解雇」。 - 懲戒解雇
従業員の重大な規律違反や背信行為などを理由として、懲戒処分の中でも最も重い「解雇」を科す。退職金の不支給や大きな社会的ペナルティが伴うため、要件はさらに厳格です。
Q2. 解雇の「正当な理由」とは具体的に何ですか?
労働契約法第16条や長年の裁判例により、解雇に際しては客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります。能力不足・勤怠不良・著しい業績不振などが該当し得ますが、十分な立証と手続き(注意や改善命令、配置転換などの代替策検討)を行わずに解雇すると「解雇権濫用」とされるリスクが高いです。
Q3. 懲戒解雇の要件を満たさないとどうなりますか?
懲戒解雇が無効と判断されると、「解雇されなかったことになる」ため従業員の地位を元に戻すか、賃金補償(バックペイ)の支払いなどが必要です。さらに、不当に懲戒解雇されたとして慰謝料が請求される可能性もあります。懲戒解雇は企業にとって強力な手段ですが、そのぶんリスクも高いのです。
Q4. 就業規則に解雇理由が明確に載っていれば、必ず解雇できますか?
いいえ。就業規則の解雇事由に該当しても、裁判所が「解雇は社会通念上重すぎる」と判断すれば無効となり得ます。例えば軽微な規則違反を理由に懲戒解雇とするなど、処分が過度に重い場合は「解雇権濫用」とされます。就業規則の定めとあわせて、解雇の相当性が重要です。
Q5. 解雇を回避するにはどのような手段がありますか?
企業が解雇に踏み切る前に、指導・注意・配置転換・降格など別の手段を検討する義務があります。従業員と話し合い自主退職(退職勧奨)を模索する場合もあります。特に能力不足や態度不良を理由とする場合は、「改善のための努力機会を与えたか」が裁判所で重視されます。
解説
普通解雇の要件と手続き
解雇権濫用法理(労働契約法16条)
- 「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要。
- たとえば、次のようなケースが一般的な「理由」とされる
- 能力・適性不足(長期にわたる成績不振や改善努力の欠如)
- 勤務態度不良(遅刻・欠勤の繰り返し、業務命令違反)
- 会社の経営不振(整理解雇の場合はさらに厳格な4要件が必要)
手続き的要件
- 就業規則や労働契約に定める解雇事由に該当するかを確認。
- 段階的に注意・指導を行い、それでも改善が見込めない場合に解雇というステップを踏む。
解雇予告・解雇予告手当(労基法20条)
解雇の30日前までに予告するか、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要がある。(懲戒解雇や重大な背信行為など即時解雇が認められる場合を除く)
懲戒解雇の要件と手続き
- 就業規則への明記
懲戒事由や処分の種類(譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇など)を明確に定め、従業員に周知しておく。 - 重大な違反行為
- 横領、背任、犯罪行為、セクハラ・パワハラの重大事例など、社会的に見て極めて悪質・会社への損害が大きいケースが該当。
- 軽微な不正や単なる能力不足では懲戒解雇は過度に重いと判断される可能性大。
- 適正手続き(弁明の機会など)
懲戒処分は労働者の権利に重大な影響があるため、弁明の機会付与や内部調査、懲戒委員会の開催などの公正な手続きを踏まないと、無効とされるリスクが高い。 - 退職金不支給や減額
懲戒解雇とすると退職金が不支給・減額となる就業規則も多いが、その規定自体が過度に不利であれば裁判所が無効とする可能性もある。
普通解雇・懲戒解雇が無効となる典型例
【事例1】
能力不足を理由に解雇したが、具体的指導や配置転換を行わず
裁判所は「改善機会を与えず、突然解雇は不相当」と判断し解雇無効。
【事例2】
軽微な業務ミスを理由に懲戒解雇
就業規則に「重大な損害を与えた場合、懲戒解雇」と書かれていても、実際の損害が小さかったり故意がなかった場合は解雇が重すぎる。
【事例3】
整理解雇で4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、合理的な選定基準、労使協議)を満たさなかった
企業が経営不振を主張しても、リストラ以外の手段を検討していない、従業員との十分な協議を行っていないなどで解雇無効。
実務での注意点
- 就業規則・懲戒規定の整備
解雇理由や懲戒事由を具体的に書き、従業員に周知。抽象的な表現だけでは判断が難しい。 - 証拠・記録の収集
能力不足を主張するなら人事評価の記録や面談記録、勤怠不良なら遅刻・欠勤履歴、規則違反なら客観的な証拠などを残す。 - 段階的対応
一度の不手際や軽微なミスで即解雇せず、口頭注意→文書指導→最終警告などステップを踏むことで、裁判所の評価が有利に。 - 解雇予告・退職金処理
普通解雇の場合は予告もしくは予告手当30日分以上が必要。懲戒解雇で退職金を不支給にするなら、就業規則の定めがありかつ処分が妥当か十分にチェック。
弁護士に相談するメリット
解雇は慎重に行わなければ、解雇無効リスクが高く、企業が多額の賃金や慰謝料を支払うケースが後を絶ちません。弁護士に相談すると以下のサポートが得られます。
- 解雇事由の適法性判断
企業が考える解雇理由が裁判所の基準を満たすかを事前にチェックし、改善命令や配置転換などの代替策を提案。 - 就業規則・懲戒規定の整合性
規定内容が曖昧だったり過度に重い処分規定になっていないかを点検し、紛争リスクを下げるように修正。 - 証拠収集・手続き指導
解雇前の面談記録や警告書類の作成、弁明の機会付与など、適正手続きを踏んで解雇無効とされないよう助言。 - 紛争対応
従業員が労働審判や訴訟で解雇無効を主張する場合、証拠整理や代理人としての交渉・裁判対応を受任。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、普通解雇・懲戒解雇をめぐる豊富な事例を元に、企業ごとの事情に合わせた最適なアドバイスを行っています。
まとめ
- 普通解雇は「客観的合理的理由・社会通念上の相当性」が必要であり、能力不足や態度不良でも改善の機会や手続きを踏まなければ無効となるリスクが高いです。
- 懲戒解雇は最も重い処分であり、就業規則で規定された重大な違反行為が認められ、かつ適正手続きを踏んだ場合にのみ有効。軽微な違反では無効判定される可能性が大きいです。
- 解雇無効となると従業員の復職やバックペイ支払い、企業イメージ悪化など大きなダメージを受けます。
- 弁護士に相談すれば、解雇理由の合法性・必要手続きや紛争時の戦略まで包括的に支援を得られ、法的リスクを最小限に抑えられます。
企業としては、解雇に踏み切る前にできる限りの代替措置(配置転換、降格、懲戒の軽い処分など)を検討し、手続き的公正さを確保することが必須です。
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