はじめに
相続税を計算するうえで、被相続人が所有していた不動産の評価額がどの程度になるかは、相続税額を左右する大きなポイントです。市街地にある宅地や賃貸物件など、多種多様な不動産がある場合、どのように評価するのか、また節税対策としてどんな仕組みが利用できるのかを知っておくと、相続税負担の軽減や円滑な財産承継につながります。
本稿では、不動産の基本的な相続税評価方法や、代表的な節税策、実務上の注意点などを解説し、相続時のトラブルや誤算を防ぐための手がかりを示します。
Q&A
Q1.相続税の計算で不動産はどう評価されるのでしょうか?
不動産の評価には、国税庁が定める路線価や固定資産税評価額、倍率方式などが用いられます。具体的には、
- 宅地
原則として路線価方式(主要道路ごとに設定された路線価×奥行補正など)か、路線価が定められていない地域では倍率方式(固定資産税評価額×一定倍率)。 - 建物
固定資産税評価額が目安となり、そのまま相続税評価に使われることが多い。 - 貸家や貸地
一定の借地権割合や貸家建付地評価などを考慮し、減額される。
Q2.路線価とは何ですか?
路線価は、国税庁が公表する道路(路線)ごとの1㎡当たりの価格です。相続税や贈与税の評価基準として利用され、都市部や主要道路のほとんどに設定があります。路線価がない地域では倍率表により、固定資産税評価額に倍率をかけて評価します。
Q3.不動産の相続税を低減するための代表的な節税策は何でしょうか?
主に以下のような方法があります。
- 小規模宅地等の特例
被相続人が居住していた宅地や事業用宅地の場合、面積要件内で最大80%の評価減が受けられる。 - 貸家建付地の評価
賃貸アパートやマンションを建てておくと、借家権が考慮され評価額が下がる。 - 生前贈与や遺言の工夫
基礎控除や配偶者の税額軽減などを活用し、一部を生前贈与しておく。 - 土地の分筆や形状変更
状況によっては分筆して地目を変える、敷地形状を工夫するなどで評価を下げる手立てがある。
Q4.小規模宅地等の特例はどのような要件を満たす必要がありますか?
小規模宅地等の特例を受けるには、
- 被相続人が居住用や事業用に使っていた土地
- 相続人が居住を継続する、または事業を継承する
- 面積要件(居住用=330㎡まで80%減、事業用=400㎡まで80%または50%減など)
- その他細かい要件(遺産分割協議が成立していることなど)
を満たさなければなりません。要件は細かく、相続開始10ヶ月以内に手続きしないと特例を受けられないので要注意です。
Q5.相続税の申告や評価が不明確な場合、弁護士と税理士、どちらに相談すべきでしょうか?
税理士が相続税申告のプロであり、不動産評価の計算や特例適用などの実務を行います。一方、弁護士は相続人間の紛争や遺留分調整、遺言書作成のリーガル面に強みがあります。相続争いが想定される場合や、不動産分割をめぐる法的リスクがある場合は、弁護士と税理士の連携が効果的です。
解説
相続税評価の仕組み
- 路線価方式
- 路線価が設定された道路に面する宅地なら、路線価×敷地面積がベース評価。
- 角地補正、奥行補正、間口狭小補正など様々な補正率で増減される。
- 路線価は一般に公示地価の約80%が目安。
- 倍率方式
- 路線価がない地域は、固定資産税評価額×倍率で評価する。
- 都道府県や市区町村ごとに倍率が異なり、国税庁が定期的に公表している「評価倍率表」を確認する。
- 建物評価
- 基本的には固定資産税評価額をそのまま使用。
- 賃貸用建物は借家権割合などを考慮し減額されるケースもある。
賃貸物件などの評価減
- 貸家建付地
- 自宅用でない賃貸用土地は「貸家建付地」として自用地評価額×(1-借地権割合×賃貸割合)で評価が下がる。
- 特にマンションやアパートを建てると、建物評価額も借家権割合や借家人敷地権を考慮するため減額される可能性が大きい。
- 貸付事業用宅地の小規模宅地特例
- 被相続人が賃貸事業を行っていた宅地の場合、400㎡まで50%評価減が受けられる。
- 要件として「事業を相続人が継続する」などがあるため、実態を確認要。
実務上の注意点
- 複数の不動産がある場合
- 居住用宅地や賃貸用宅地などを組み合わせて相続するケースが多い。特例の重複や適用面積の限度に注意。
- 分割協議で誰がどの不動産を取得するかによって、相続税額が大きく変わることがある。
- 生前対策
- 生前にアパートやマンションを建築することで評価額を下げ、相続税を節税する手法がよく用いられる。ただし管理リスクもある。
- 不要な土地を売却したり、投資用マンションを買うなど、不動産保有形態を見直すことが必要。
- 税務調査リスク
- 評価が大幅に低いと、税務署が調査に入るケースも。
- 特例要件を満たさなくなった(例えば小規模宅地を転用した)場合、追加で税額修正を求められることがある。
弁護士に相談するメリット
- 紛争予防と円滑な分割
相続人同士で不動産の分配案がまとまらない場合、弁護士が調整し、スムーズな遺産分割協議を主導。税理士とも連携し、節税と公平性の両立を図る。 - 遺留分や遺言との調整
特定の不動産を特定の相続人に渡したい場合、遺言書の作成や遺留分対策が必要。弁護士が法的観点からサポートすることで、安全性が高まる。 - 財産調査や法的リスクの見極め
借地・借家の状況、不動産の権利関係など、相続税の計算以前に法的リスクが潜んでいるかもしれない。弁護士がその点を検証し、必要に応じて交渉や調停を代行する。 - 弁護士法人長瀬総合法律事務所の強み
当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、不動産相続に強みを持ち、税理士や不動産鑑定士と協働して評価・節税・分割協議まで総合的にコーディネート可能です。
まとめ
- 不動産評価額
相続税額を左右する大きな要素。路線価方式や倍率方式、貸家建付地などの特例を理解する必要がある。 - 小規模宅地等の特例や貸家評価減
評価額を大幅に下げられるが、適用要件や面積制限に注意。 - 生前対策
アパート建築や売却を検討するときは、管理リスクや相続人との関係にも配慮する。 - 節税だけでなく紛争防止も重要
遺留分や遺言の問題に直面することが多く、弁護士と税理士の連携で安全な手続きを進めたい。 - 早めに専門家へ相談
相続開始後の混乱を避け、相続税と権利調整をスムーズに行える。
相続税対策として不動産評価をどう下げるかが焦点になる一方、複雑な要件や家族関係の問題も絡んできます。正確な情報をもとに、弁護士や税理士との連携で長期的な視点の相続対策を進めることが重要です。
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