はじめに

社内恋愛職場結婚は、企業の人間関係や雰囲気に大きな影響を与える一方、リスク管理就業規則上の課題を放置すると、ハラスメント利益相反などのトラブルに発展しやすいテーマです。とりわけ、上司と部下の関係が親密になることで、周囲が「不公平な評価」「パワハラまがいの言動」を疑うなど、職場全体の士気が下がるリスクもあります。

本記事では、社内恋愛・職場結婚にまつわる法的リスクと、企業が行うべきリスクマネジメント、就業規則での対応策などを弁護士法人長瀬総合法律事務所が詳説します。恋愛や結婚は個人の自由ですが、企業としてはどこまで規制できるのか、どのように管理・支援を行うかを考える必要があります。

Q&A

Q1:社内恋愛を企業が全面的に禁止することはできるのでしょうか?

個人の恋愛や結婚の自由は憲法で保障された重要な権利に関わるため、企業が全面的に禁止することは難しいとされています。ただし、業務上の機密情報保護や、上司・部下間の公私混同リスクが高い場合などは一定のルール(報告義務・利益相反回避)を就業規則で定めることは可能です。

Q2:上司と部下の交際を企業が知ったら、配置転換させてもいいですか?

恋愛関係が業務に支障をきたす可能性が高いと認められる場合、企業は配置転換を検討できます。ただし、単なる恋愛関係という理由だけで不利益な異動を行うと、差別的取扱いプライバシー侵害とみなされるリスクがあります。合理的理由(例えば評価の公正性を保つため、利益相反を回避するためなど)を示し、本人とも十分に協議することが望ましいです。

Q3:職場結婚した従業員同士が同じ部署で働く場合、どんなリスクがありますか?

周囲が「えこひいきされている」「業務上の秘密が夫婦間で漏れないか」と不安を感じるなど、不公平感情報漏洩リスクが高まる可能性があります。また、夫婦喧嘩が職場に持ち込まれたり、離婚時にトラブルになる場合も考えられます。こうした問題を防ぐため、企業は利益相反のルール守秘義務の再確認を促す仕組みを作っておくと良いでしょう。

Q4:社内恋愛や職場結婚に関するハラスメントの対応はどうすればいいですか?

上司が交際を迫る、または別れ話を拒否したことによる逆パワハラなど、セクシャルハラスメントモラハラが起きるリスクがあります。相談窓口を設置し、被害があればすぐに調査・対処する体制を整えることが重要です。就業規則でセクハラ防止規程を定め、違反時の懲戒処分や再発防止策を明文化しておくことも必須となります。

解説

社内恋愛・職場結婚のメリット・デメリット

  1. メリット
    • 従業員同士が相互理解を深め、コミュニケーションが円滑になる。
    • 離職率の低減や長期的なキャリア形成を促す場合もあり、企業にとって人材の安定確保が期待できる。
    • 社内カップルの誕生で職場が明るくなるなどポジティブな効果が見られることも。
  2. デメリット・リスク
    • 周囲が不公平感を抱いたり、部下へのパワハラ・セクハラが疑われる場合が増える。
    • 別れたり離婚した際に職場環境がギスギスし、業務に支障が出るリスク。
    • 個人情報や企業の機密が夫婦間でやり取りされるなど、情報漏洩の懸念。

企業が行うべきリスク管理策

  1. 就業規則や社内規程での指針明確化
    • 「企業は社内恋愛・職場結婚を禁止するものではないが、業務に支障や利益相反がある場合は異動を命じることがある」といったガイドラインを示す。
    • セクハラ防止規程と併せて、交際相手への過度な指示や偏った評価があれば懲戒対象となる旨を明記。
  2. 利益相反のルール設定
    • 上司・部下間で交際や結婚が成立した場合、評価や人事考課に影響しないよう、人事部が配置転換を検討する仕組みを定める。
    • 大規模企業ではコンプライアンス窓口を設け、特定のプロジェクトで夫婦が関わる場合は別チーム編成を検討するなどの体制を構築。
  3. セクハラ・パワハラ防止の徹底
    • 恋愛関係を口実に相手をコントロールする行為(過度にプライベートを束縛する等)や、一方的なアプローチを「業務指示」と称して行う等のパワハラリスクを防ぐため、研修相談窓口を充実させる。
    • 同僚が冷やかしたり、プライベートな関係を揶揄するような行為もハラスメントにつながる可能性があるため、周囲への啓発も行う。
  4. 個人情報や機密情報の保護
    • 家族やパートナー間であっても業務上の機密情報を勝手に共有することは重大なセキュリティリスク。情報漏洩防止規程を整備し、守秘義務を徹底。
    • 必要に応じて、従業員に対して秘密保持契約書の見直しや再度の署名を行わせるなど、リスク管理を強化する企業もある。

運用上の注意と事例

  1. 報告義務の扱い
    • 社内恋愛を自己申告制とする企業もあるが、無闇に私生活に介入するとプライバシー侵害とみなされる恐れがある。
    • 一般的には「上司・部下での交際や結婚が発生した場合、利害関係回避のため人事部への報告を推奨する」という程度のガイドラインを設ける例が多い。
  2. 懲戒処分が無効となったケース
    • 従業員同士の不倫関係を理由に解雇したが、裁判所で「業務に具体的支障が出ておらず、プライベートな問題」という判断がされ、解雇無効となるリスク。
    • 企業が「社内の秩序や社風を乱す」と主張しても、実質的な業務上の問題や会社の信用毀損が認められない場合は懲戒解雇が不相当とされるリスクが高い。
  3. 離婚後の配置転換や嫌がらせ
    • 社員同士で結婚→離婚した後、同じ部署で働き続けてトラブルが発生。企業が強制的に一方を異動させたところ、「不当な人事」として争われた事例。
    • 適正な人事権行使としての異動か、嫌がらせとしての異動かを厳しく問われるため、異動理由・手続きの公平性がカギとなる。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、社内恋愛・職場結婚に関するリスク管理と就業規則の整備で以下のサポートを行っています。

  1. 就業規則・ハラスメント規程の作成・改定
    • 「社内恋愛・職場結婚にかかわる規定」「上司・部下の交際時の利害関係回避策」「セクハラ・パワハラ防止策」などを網羅的に整備。
    • 企業がどこまで介入できるか、プライバシー権とのバランスを踏まえた規定文言を作成し、リスクを最小限に抑えます。
  2. 安全配慮・情報保護の仕組みづくり
    • 家族間やパートナー間での情報漏洩リスクを防ぐため、情報管理規程秘密保持契約を見直し、機密情報取り扱いの研修を提案。
    • 必要に応じて人事異動や配置転換を行う際の手続きフロー(本人面談、異動理由書など)を整備しておき、トラブル回避を図る。
  3. ハラスメント窓口・調査対応サポート
    • モラハラやセクハラなどが発生した場合の相談窓口運用調査方法証拠収集懲戒処分の妥当性などについてアドバイス。
    • 企業内委員会や外部委託型の調査委員会設置など、事案の重大性に応じて最適な対応策を提案します。
  4. 紛争対応・訴訟代理
    • 社内恋愛・職場結婚が原因で解雇や懲戒処分をめぐるトラブルが発生した場合、労働審判や訴訟において企業側代理人として正当性を主張・立証。
    • 解雇が厳しすぎると裁判所に判断されないよう、事前の段階から証拠保全や書面作成を助言し、企業を守る戦略を立てます。

まとめ

  • 社内恋愛・職場結婚は従業員の自由であり、企業が全面禁止するのは難しいが、利益相反ハラスメントが起こり得るリスクを軽視してはならない。
  • 企業は就業規則ハラスメント防止規程でルールを定め、必要に応じて配置転換や情報管理措置を行うが、プライバシー侵害や不当人事とならないよう合理的理由公正な手続きが要求される。
  • いざトラブルが起きた場合には、安全配慮義務違反プライバシー侵害セクハラなど多角的なリスクが発生しうるため、早期の相談窓口対応と専門家の助力が不可欠。
  • 弁護士と連携し、企業ポリシー・規程整備、従業員への研修や相談対応を充実させておくことで、職場環境を健全に保ち、従業員のモチベーションを損なわずに業務効率を高められる。

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