はじめに

企業の繁忙期に合わせて募集する期間限定アルバイトや、学生に一定期間就業経験を提供するインターンシップは、企業側にとって即戦力の確保や将来の人材発掘につながる一方、労務管理をおろそかにすると未払い賃金安全衛生上のトラブルに発展するリスクがあります。特にインターンシップでは、報酬や保険の扱い、教育目的とのバランスなどが曖昧な状態だと、労働基準法違反として問題視される可能性もあります。

本記事では、期間限定アルバイト・インターンシップに関する契約書のポイントや、安全配慮義務、適正な賃金・勤務時間管理など、企業が守るべき実務的な注意点弁護士法人長瀬総合法律事務所がわかりやすく解説します。

Q&A

Q1:期間限定アルバイトを採用する際、契約書は必要でしょうか?

法的には、労働条件通知書(労働基準法15条)が必須で、賃金・労働時間・契約期間などを書面(または電子媒体)で明示する義務があります。契約書という形で交わすことも望ましいです。後で「聞いていなかった」「認識が違う」といったトラブルを防ぐためにも、期間や賃金に関する合意内容をしっかり残しましょう。

Q2:インターンシップの場合、報酬を払う必要がありますか?

教育的要素が強く、実務補助の範囲が限定される「無償インターン」も存在しますが、実態として労働とみなされる業務を提供させる場合は、労働基準法上の「労働者」と判断され、賃金支払義務が発生する可能性が高いです。

無償インターンを認めるかどうかは、あくまで従事する業務の内容指揮命令の有無など、実態次第です。企業が一方的に「研修だから無償」としていると、違法と判断されるリスクがあります。

Q3:短期アルバイトでも社会保険への加入義務はありますか?

アルバイトであっても、週の所定労働時間や契約期間が社会保険加入要件を満たす場合は、健康保険・厚生年金保険への加入が必要となります。

たとえば、週の所定労働時間が20時間以上継続雇用見込みが2か月を超えるなどの条件を満たすと、社会保険を適用しなければならないケースがあります。詳細は年齢や学生かどうか、企業の規模などにより変わります。

Q4:インターンシップ中の事故やケガの責任はどうなるでしょうか?

インターン生が労働者として扱われる場合は、企業には安全配慮義務があり、就業中の事故に対して労災保険や企業責任が問われる可能性があります。

一方、純粋な研修目的で雇用契約が成立しない形態でも、企業の不法行為責任安全配慮義務に準じた責任が問われる場合があります。事前に保険(傷害保険や賠償責任保険など)をかけるとともに、安全衛生教育を行うなどの対策が望ましいです。

解説

期間限定アルバイトの労務管理

  1. 契約期間の設定
    • 有期契約として雇用する場合は、労働条件通知書や契約書に「〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」と具体的に記載し、契約更新の有無・基準も明示します。
    • 毎年繁忙期に同じアルバイトを繰り返し雇うと、通算契約期間が5年を超えた際、無期転換ルール(労働契約法)を主張されるリスクがあるため、計画的な運用が必要。
  2. 未成年者の雇用
    • 高校生や大学生のアルバイトの場合、深夜労働酒類提供業務などに制限がある場合がある。また、保護者同意書を取得する企業も多い。
    • 法令違反(例:18歳未満の深夜労働)は是正勧告や書類送検の可能性があるため注意が必要。
  3. 残業代と休憩管理
    • 期間限定アルバイトでも法定労働時間は変わらず、1日8時間・週40時間を超える労働には割増賃金が必要。また、6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上の休憩を与えること。
    • 短期雇用だからといって時間管理を怠ると未払い賃金請求のリスクが高まるので、タイムカードや勤怠システムで厳密に打刻管理しましょう。
  4. 社会保険・雇用保険の手続き
    • 週20時間以上、31日以上の雇用見込みなどの要件を満たせば、雇用保険への加入が必要。
    • 健康保険と厚生年金も、週30時間以上または所定労働時間が正社員の3/4以上など一定要件を満たすと加入対象となるケースがあります。頻繁に短期アルバイトを採用する企業は、個々のケースをチェックしましょう。

インターンシップの労務管理

  1. 労働者性の判断基準
    • インターンシップが教育目的のみで報酬がなく、実務補助も限定的なら「研修生」として労働者性を否定される場合があります。しかし、実態として企業が指揮命令し、業務成果を期待するなら、労働者とみなされる可能性が高いです。
    • 労働者かどうかで賃金支払い義務労働保険適用の要否などが大きく変わるため、インターン生に任せる業務内容と指示系統を事前に整理し、適正な位置付けを決めることが重要。
  2. 報酬・交通費の扱い
    • 有償インターンの場合、最低賃金や割増賃金を守る必要があり、契約期間や職務内容を明確に示した契約書を取り交わすのが望ましいです。
    • 交通費や食事補助を「手当」として支給するかどうかも決めておくと、労務トラブルが減ります。無償インターンでも交通費支給だけは行う企業が多いですが、これも合意書で整理すると安心です。
  3. 安全衛生・保険
    • インターン生にリスクのある作業をさせるなら、企業は安全教育や危険作業の制限などを講じる義務が生じ、万一の労災事故があれば安全配慮義務違反が問われる可能性があります。
    • 通勤中や業務中のケガに対処できるよう、労災保険適用(労働者として扱う場合)や学生教育研究災害傷害保険賠償責任保険などを検討することが望ましい。
  4. 就業規則との関係
    • インターンシップ生や期間限定アルバイトにどの程度就業規則を適用するか、懲戒規定勤務時間規定などをどこまで当てはめるかを明確に定める必要があります。
    • 雇用形態別に別の規定を設ける場合は、差別的取扱いがないか、同一労働同一賃金の観点から問題がないかを確認します。

トラブル事例

  1. インターンシップと称した実質アルバイト無償利用
    • 企業が「インターンだから無償」と言いつつ、実質的には通常のアルバイトと同じ業務をさせており、後で「未払い賃金」としてインターン生から請求されたケース。
    • インターンといっても労働者性が認められたら賃金支払義務が生じるため、企業が敗訴して賃金+付加金を支払うリスクがある。
  2. 短期バイトの社会保険未加入
    • 繁忙期に週30時間で1か月だけアルバイトを雇ったが、契約を更新して通算2か月以上働かせているにもかかわらず保険加入をしていなかった事例。
    • 後に従業員から指摘され、社会保険料の遡及徴収や企業負担が発生し、顧問税理士や社労士とトラブルになった。
  3. 安全管理不備でインターン生が事故
    • 製造業の現場で教育不十分なままインターン生に機械操作をさせ、指を挟む事故が発生。インターン生が労災適用を求めたものの企業は「インターンだから労働者ではない」と拒否したが、実態は指揮命令があり業務従事していたため、最終的に安全配慮義務違反が認定された。
    • 結果として企業が損害賠償を支払うことになった例がある。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、期間限定アルバイトやインターンシップの労務管理における以下のサポートを行っています。

  1. 契約書・労働条件通知書の作成・レビュー
    • 短期バイトやインターンの雇用契約書合意書を法的視点でチェックし、期間・賃金・業務内容・社会保険適用などについて不備がないかをアドバイスします。
    • 労働者性の有無が曖昧なインターンに対しては、業務範囲報酬形態保険手続きの要否などを整理し、法的リスクを最小化します。
  2. 就業規則や社内規程の整備
    • インターンや期間限定アルバイトに適用する就業規則の特例別個の規程を設ける場合、その内容を企業の実態と照らし合わせて最適化し、差別的取り扱いを避ける方法を提案します。
    • 安全衛生教育やハラスメント防止策など、学生や若年者に配慮した規定を追加することも可能です。
  3. 事故・労災トラブル対応
    • インターンや短期アルバイトが事故・ケガをした場合の労災適用安全配慮義務の問題について、企業がとるべき初動対応・証拠保全を指導し、労働審判や訴訟での代理を行います。
    • 事故後の再発防止策や保険加入・規程変更など、総合的なリスクマネジメントを提案します。

まとめ

  • 期間限定アルバイトインターンシップは企業の人材確保や育成に有効だが、実態に応じた契約労務管理を怠ると未払い賃金や安全配慮義務違反など重大リスクが生じる。
  • アルバイト契約では期間や勤務条件、社会保険適用可否を明確にし、有期契約の通算期間が5年を超えないよう注意。インターンシップでは労働者性の有無を慎重に判断し、必要なら賃金支払いや保険対応を行う。
  • 安全衛生教育事故発生時の責任を取り決めないまま現場作業に従事させると、事故発生時に企業責任が問われる恐れが高まる。
  • 弁護士と連携し、契約書や就業規則を整備し、学生・若年者向け研修プログラムの設計とリスク対策を総合的に進めることで、安全かつ効果的な人材活用が実現できる。

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