はじめに

就業規則は企業と従業員の働き方や労働条件を明文化する重要なルールブックです。しかし、せっかく作成しても従業員が内容を知らなかったり、電子化の方法が不適切だったりすると、労使トラブルに発展しかねません。労働基準法では、就業規則の作成・届出とともに、従業員への周知が義務付けられています。

本記事では、就業規則をどのように開示・周知すべきか、紙ベース電子化など具体的な方法や注意点を取り上げ、弁護士法人長瀬総合法律事務所がわかりやすく解説します。さらに、就業規則の周知不足から生じるトラブル事例と対策についても紹介します。

Q&A

Q1:就業規則は必ず従業員全員が読める状態にしないといけないのですか?

はい、労働基準法第106条で「使用者は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所に掲示する等、労働者に周知させなければならない」旨が定められています。具体的には、紙媒体で自由に閲覧できるようにしたり、電子データをイントラネットに掲載する方法などがあります。周知されていない就業規則は、労働者がその内容を知らない状態となり、後日「知らなかった」と主張されるリスクが高まります。

Q2:就業規則の電子化は認められますか?

労働基準法のガイドラインでは、電子的な方法(企業のイントラネットやクラウドなど)での周知も認められています。ただし、従業員が容易に確認できることが条件であり、パスワードがわからない端末がないなどの理由で閲覧不能な環境では「周知」とはみなされにくいので注意が必要です。

Q3:就業規則を変更したら、どのように周知すればいいのでしょうか?

変更後の就業規則を全従業員に知らせるための手段を用意します。具体的には、紙ベースの場合は事務所や休憩室に掲示・備付けし、変更点をまとめた書面を配布する。電子化の場合はイントラネット上に最新版を掲載し、変更箇所をわかりやすく表示するとよいでしょう。また、労働基準監督署への届出も必要です(常時10人以上の労働者を使用する場合)。

Q4:就業規則を周知していないとどのような問題が起こりますか?

周知されていない就業規則を根拠に懲戒処分や解雇を行うと、裁判所が「従業員に周知されていなかった規則は効力を発揮しない」と判断し、処分無効や解雇無効となるリスクがあります。また、未払い賃金や残業代に関する就業規則の規定も知られていなかった場合、従業員が「知らなかった」「不当だ」と主張する可能性があり、労働審判や訴訟に発展することがあります。

解説

就業規則の周知義務

  1. 労働基準法の規定
    • 従業員が常時10人以上の企業では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届出る義務があります。さらに、作成・変更した就業規則を従業員に周知しなければならない(労働基準法106条)。
    • 従業員数が10人未満の企業は就業規則の作成義務がないものの、雇用管理の観点から就業規則を整備し、周知することが望ましいです。
  2. 周知の具体的方法
    • 労働基準法施行規則第52条の2では、「見やすい場所への掲示・備付」「書面配布」「電子媒体での配信」のいずれかにより周知することが求められています。
  3. 周知していないリスク
    • 就業規則に懲戒事由や賃金規定が書かれていても、周知されていなければ従業員に対抗できないとされる可能性があります。
    • 労働基準監督署の調査時に周知義務違反と指摘を受ければ是正勧告の対象となり、企業の信用を損ねるリスクもあります。

就業規則の電子化と注意点

  1. イントラネットでの閲覧
    • 多くの企業は社内ポータルサイトやイントラネット上に就業規則のPDFファイルを掲載し、従業員がいつでも閲覧できる形態を取ります。
    • その際、アクセス権限を適切に設定し、すべての従業員がログインできるか確認することが重要。閲覧手順が複雑すぎたり、パスワードを知らない従業員がいると周知とはいえないと指摘されるおそれがあります。
  2. メール配信や電子承認
    • 就業規則の改定時に、全従業員へメール配信し、改定内容を承認・確認する仕組みを導入する企業もあります。
    • ただし、メールを見逃すケースやそもそもメールを使わない職種(現場作業員など)がいる場合は、別の周知方法(紙媒体や事務所掲示)と併用する必要があるかもしれません。
  3. バージョン管理と改訂履歴
    • 電子化した就業規則の更新履歴を残すことで、従業員が「いつ、どの部分が変わったか」を確認しやすくなります。改訂ごとに旧版をアーカイブしておくと、後日トラブルになった際に比較検証が可能です。
    • 労働基準監督署への届出と合わせて、事前に労使協議や変更案の説明会を行い、改訂に対する従業員の理解を得ることが大切です。

よくあるトラブル事例

  1. 「知らなかった」主張と懲戒無効
    • 企業が就業規則に定める懲戒事由で従業員を処分したところ、「そんな規定は教わっていない」「周知されていなかった」と主張され、労働審判で懲戒無効と判断されるケース。
    • 対策:就業規則を配布したり、掲示写真やイントラネット上の画面キャプチャ、説明会資料などの証拠を残しておく。
  2. 労働時間・残業規定の未周知
    • 就業規則で「時間外労働の許可制」や「みなし残業制」を定めているにもかかわらず、従業員が内容を把握しておらず、後に「未払い残業代がある」と請求される事例。
    • 対策:定期的な説明会やハンドブックを作成し、従業員が容易に理解・確認できる状態を作る。
  3. 電子化しているがアクセス不能
    • システム部門の都合などでイントラネットが長期間ダウンしていたり、外回りの営業社員がそもそもオフィスネットワークにアクセスできない状況が放置され、実質周知されていないことに。
    • 対策:リモートワークや出張が多い従業員も含め、どこからでも就業規則を閲覧できる仕組みを確保する。定期的に動作確認と周知を行う。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、就業規則の開示・周知方法やその法的リスクに関して、以下の支援を行っています。

  1. 就業規則のリーガルチェック・改定
    • 就業規則が最新の労働法令に沿っているか、不明確な条文や不備がないかを点検し、改善提案をします。
    • 周知義務を踏まえた運用フローを整備し、電子化導入時の課題にも対応できるようアドバイスします。
  2. 周知方法の設計
    • 紙ベース、イントラネット、メール配信など、企業規模や従業員の環境に合わせた最適な周知方法をコンサルティング。
    • 法定休日や残業代計算など、誤解が起きやすい部分はFAQや説明会を活用して理解度を高める手法を提案します。
  3. 改定手続きと労使協議サポート
    • 就業規則変更が従業員に不利となる場合、不利益変更に該当する恐れがあるため、労働契約法の要件を満たす手続きや労使協議の進め方を支援。
    • 変更の背景やメリットを従業員に伝える説明会資料の作成や、労働組合との交渉戦略もアドバイスします。
  4. トラブル対応・訴訟代理
    • 「就業規則が周知されていなかった」と従業員から懲戒無効や未払い賃金請求を受けた場合、企業側代理人として証拠整理法的主張を行い、適切に反論します。
    • 労働審判や訴訟でスピーディーな解決を図りつつ、企業が追うリスクや損失を最小限に抑える方策を提案します。

まとめ

  • 就業規則の周知は法的義務であり、単に作成し届出るだけでは不十分。従業員がいつでも確認できる状態を確保しなければ効果を発揮しない。
  • 周知方法は紙媒体電子媒体のいずれか、または併用が認められるが、いずれの場合も全従業員のアクセス可能性を担保しなければならない。
  • 周知不足は「知らなかった」という従業員の主張を許容し、懲戒処分無効解雇無効などのトラブルリスクを高める。
  • 弁護士の助言を活用し、就業規則の整備や電子化の仕組みを適正に設計しておけば、労務管理の効率化とトラブル回避が同時に達成できる。

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