はじめに

企業が生産性向上や柔軟な働き方を実現するために検討する変形労働時間制裁量労働制は、労働時間を弾力的に運用できるメリットがあります。一方で、誤った運用をすると、未払い残業代長時間労働など、深刻な労務リスクに発展し得るため、法令に基づく正しい手続きを踏むことが不可欠です。

本記事では、変形労働時間制と裁量労働制それぞれの特徴や導入要件、導入時の注意点を弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。企業が法的リスクを回避しながら合理的な労働時間制度を設計するためのポイントを押さえましょう。

Q&A

Q1:変形労働時間制とは何ですか?

変形労働時間制とは、一定期間(1か月、1年など)の総労働時間を固定しつつ、期間内の特定の週・日の労働時間を長く、他の週・日を短く設定することで、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を平均でクリアする仕組みです。

  • 1週間単位の変形労働時間制
  • 1か月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制(外食業など)
    などが代表的な制度で、それぞれ導入要件や手続きが異なります。
Q2:裁量労働制とは何でしょうか?

裁量労働制は、実際の労働時間に関係なく一定時間働いたものとみなす制度です。対象業務が法律で限定されており、高度専門業務などで労働時間の算定が難しい場合に導入できます。

  • 専門業務型裁量労働制
    弁護士やコンサルタント、デザイナーなど高度な専門性を要する19業務が対象。
  • 企画業務型裁量労働制
    企業の企画・立案・調査・分析など経営に係る重要な業務に携わる労働者を対象。

いずれも労使協定の締結・届け出など厳格な要件が定められています。

Q3:変形労働時間制で1日10時間働かせても、割増賃金は不要ですか?

法定内で認められた変形労働時間制を正しく導入している場合、設定された日(シフト表など)において1日10時間の勤務を割り当てることが可能であり、時間外労働にはならないため割増賃金は不要です。ただし、正しく導入されていない(労使協定や就業規則上の定めに不備がある)場合は通常の時間外労働として扱われ、未払い残業代を請求されるリスクがあります。

Q4:裁量労働制を導入すれば残業代は一切発生しませんか?

裁量労働制では、みなし時間分の賃金を支払う形ですが、みなし時間を超える労働が常態化している場合や、対象外業務を行っている場合、別途割増賃金が発生する可能性があります。また、導入要件を満たさずに運用していると、適法な裁量労働制とは認められず、過去に遡って未払い残業代を請求されるリスクも高いです。

解説

変形労働時間制の概要

  1. 1か月単位の変形労働時間制
    • 1か月間の特定期間内で週40時間を平均で満たし、繁忙日の労働時間を延ばして、閑散日に労働時間を短縮する制度。
    • 導入には就業規則への明記や、労使協定(管理監督者を除く一般社員に適用の場合)を締結し、労働基準監督署への届出が必要なケースもある。
  2. 1年単位の変形労働時間制
    • 1年以内の一定期間を対象として、年間を通じて繁忙期と閑散期の労働時間を調整する制度。
    • 年間総労働時間の枠を決めたうえで月ごとのシフトを組み、週平均40時間以内に収めることが求められる。
    • 「特別条項付き」の場合などは、月間や年間の最大労働時間に上限を設け、健康確保措置が義務付けられる。
  3. 1週間単位の非定型的変形労働時間制
    • 外食や小売業など、週や日ごとの繁閑が激しい業態向けに特例として認められる制度。
    • 労使協定で定めた範囲内で週ごとのシフトを組むことができるが、対象となる業種や条件が限定される。

裁量労働制の概要

  1. 対象業務の限定
    • 専門業務型裁量労働制は、法律で定める19種類の業務(弁護士、デザイナー、ITシステムコンサル、商品開発、記者など)に限定。業務遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある。
    • 企画業務型裁量労働制は、企業の本社スタッフとして事業運営に関わる企画・立案・調査・分析業務が対象で、管理監督者に準じるほどの裁量が認められるかがポイント。
  2. 労使協定の締結と届出
    • 導入には労使協定の締結が必要で、みなし労働時間健康管理措置を協定内容として定め、労働基準監督署へ届出る義務がある。
    • 具体的には、1日のみなし時間(例:8時間)や、健康確保措置(面談指導、長時間労働者への対応など)を詳細に協定化する。
  3. 管理・監督のポイント
    • 裁量労働制だからといって完全フリーではなく、過重労働長時間労働が発生しないよう、健康管理措置が重要。
    • 業務が裁量の範囲を大きく超えて命令されていると認定されると、裁量労働制適用が否定され、未払い残業代を請求されるリスクがある。

導入時の注意点とトラブル事例

  1. シフト表やみなし時間の適切管理不足
    • 変形労働時間制でシフトを適当に組み、法定手続き(就業規則変更、労使協定締結)を経ずに運用した結果、違法状態とみなされるケース。
    • 裁量労働制でも、みなし時間を実態より低く設定し、実際には長時間労働が行われているのに黙認している例があり、後で未払い残業代請求に発展。
  2. 繁忙期・閑散期の区分が曖昧
    • 1年単位の変形労働時間制で、繁忙期(1日10時間労働)と閑散期(1日6時間労働)を設定したが、実際に閑散期も忙しくて毎日10時間労働が続いたなど。
    • 結果、実態とシフト計画が乖離していたことが発覚し、変形労働時間制が無効と判断される可能性が高まり、企業が追加の割増賃金を負担することに。
  3. 管理職適用トラブル
    • 管理職であると主張し、変形労働時間制や裁量労働制を不適切に適用し、残業代不払のリスクが高まる事例。
    • 裁判所は管理監督者要件裁量労働制要件を厳しく見るため、名ばかり管理職や名ばかり裁量労働が否定され、違法とされる危険がある。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、変形労働時間制・裁量労働制の導入・運用に関して、以下のサポートを提供しています。

  1. 制度導入コンサルティング
    • 自社の業務実態や従業員構成を踏まえ、変形労働時間制裁量労働制のどの制度が適切かをアドバイスします。
    • 導入要件や手続きを整理し、労使協定の締結や就業規則への記載をサポートします。
  2. 就業規則・労使協定の作成・改定
    • 変形労働時間制であればシフト作成や労働時間の割り振りルール、裁量労働制なら対象業務・みなし時間・健康確保措置などを盛り込んだ協定を法的に適正かつ実務的に作成。
    • 労働基準監督署への届け出や協定書類の作成・提出を支援し、不備によるリスクを回避します。
  1. 運用監査とトラブル防止
    • 制度導入後、実際の運用が法令や協定内容に沿って行われているかを定期的に監査します。変形労働時間制では、作成したシフト(勤務割表)通りに勤務しているか、休暇や残業をどのように処理しているかを確認。
    • 裁量労働制の場合は、本来の対象業務に該当しない業務を担当していないか、業務量が過剰になり過度の残業が起きていないかなどを点検し、必要な是正措置を提案します。
    • 万が一、未払い残業代の請求や是正勧告のリスクが浮上した場合でも、早期に発覚すれば問題を最小限に抑えることが可能です。
  2. 紛争対応・労働審判・訴訟
    • 変形労働時間制や裁量労働制の適用をめぐり、従業員から「実態が違う」「未払い残業代がある」と主張されるケースでは、労働審判訴訟に発展する可能性があります。
    • 当事務所は、企業側の代理人として証拠整理法的主張を行い、制度が適法に運用されていたことを証明できるよう支援します。必要に応じて和解交渉も行い、企業のダメージを最小化するための戦略を提案します。

まとめ

  • 変形労働時間制裁量労働制はいずれも労働時間の弾力化を図る手段であり、適正に運用できれば生産性向上・コスト削減につながるが、導入要件手続きが厳格に定められている。
  • 変形労働時間制では、1か月単位1年単位などの種類に応じ、シフト表や労使協定による手続きを踏まないと無効とみなされる危険がある。
  • 裁量労働制は対象業務が限定され、みなし労働時間や健康確保措置を定めた労使協定を締結・届け出する必要がある。
  • 運用を誤ると、未払い残業代請求長時間労働の是正勧告など大きなリスクがあり、企業は弁護士と連携して就業規則や協定書類を整備し、導入後の監査を徹底することが重要。

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