はじめに

企業活動の多様化に伴い、休日出勤を行わざるを得ない場面が増えている一方で、代休振替休日をうまく活用し、従業員のワークライフバランスを保つことが求められています。労働基準法では休日出勤に関する割増賃金や振替休日の取り扱いが細かく定められており、適切に運用しないと未払い残業代労働時間管理の問題が生じる可能性があります。

本記事では、休日出勤・代休・振替休日の違いや法的根拠、企業が守るべき手続きなどを整理し、トラブル回避コンプライアンス強化に役立つポイントを弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

Q1:休日出勤と時間外労働は何が違うのでしょうか?

時間外労働とは、労働基準法が定める1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働することを指します。一方、休日出勤とは、本来の休日(法定休日)に出勤する行為です。

  • 時間外労働…割増賃金率25%以上
  • 休日労働(法定休日)…割増賃金率35%以上
    なお、法定外休日(所定休日)に出勤した場合は、時間外労働として扱われることがありますが、法定休日と区別して考える必要があります。
Q2:代休と振替休日はどんな違いがありますか?
  • 振替休日
    事前に休日を「別の日」に振り替えることで、もともと出勤予定だった日を休日扱いに変更するもの。結果として、法定休日を別の日に設けるため「休日労働」とはならない(割増賃金は不要)。ただし、事前に振替の手続きを行う必要がある。
  • 代休
    休日出勤した後に、代わりの休日を与えるもの。すでに休日労働が発生しているため、割増賃金を支払ったうえで別途休暇を付与する形が一般的。割増賃金を支払わず代休で対応したい場合は「事後的な振替休日」は認められず、法的には「休日出勤→代休」という流れでは休日労働の割増賃金義務を免れることは難しいです。
Q3:振替休日を設定する際に気をつけることは?

振替休日として扱うためには、事前に「休日を別日に振り替える」ことを従業員に明示する手続きが必要です。具体的には就業規則や労使協定で定める方法、あるいは事前の書面通知などで「○月○日(通常の休日)を出勤日とし、代わりに○月○日を休日とする」旨を周知します。

また、振替によって本来の法定休日が平日と連続しないよう注意し、週1日の法定休日を確保する必要があります。結果的に週をまたいだ形で法定休日が連続しない場合、割増賃金の問題が発生する可能性があります。

Q4:休日出勤を命じる際に36協定は必要ですか?

休日労働を行う場合でも、原則として36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)を締結し労働基準監督署へ届け出る必要があります。これがないと法定休日に労働させることは違法な状態となり、是正勧告や罰則のリスクがあります。

特別条項付き36協定を結ぶ際は、法定休日労働も含めた限度時間を管理し、労働者の健康を保護する観点から注意を払うべきです。

解説

法定休日と所定休日

  1. 法定休日
    • 労働基準法で週1回以上の休日を与えることが義務付けられており、これが法定休日と呼ばれます。通常は日曜日を法定休日とする企業が多いですが、特に決まりはなく、就業規則などで指定できます。
    • 法定休日に働いた場合は休日労働となり、割増賃金率が35%以上です。
  2. 所定休日
    • 企業独自に設定した休日を所定休日または法定外休日と呼びます。週休2日制の企業なら、法定休日の他にもう1日を所定休日とする例が一般的です。
    • 所定休日に勤務した場合は、時間外労働として扱われ、割増賃金率25%以上が適用されます(8時間超なら追加割増もあり)。

休日労働と割増賃金

  1. 休日出勤の割増率
    • 法定休日に出勤→35%以上の割増賃金。
    • 法定外休日(所定休日)に出勤→時間外労働として25%以上の割増賃金。
    • 深夜(22時~翌5時)労働が重なる場合は、さらに深夜割増25%が上乗せされるケースがある。
  2. みなし残業や固定残業代との関係
    • 休日労働はみなし残業や固定残業代に含む場合、就業規則や労働契約書で休日労働分も固定残業代に含む旨を明確に記載し、具体的な時間数や計算根拠を示す必要があります。
    • みなし時間を超過した場合は、追加で割増賃金を支払う義務がある点に注意しましょう。

代休・振替休日運用の実務

  1. 振替休日のルール化
    • 振替休日を認める場合は、就業規則で「事前通知」「休日の振替方法」「振替日が法定休日になる場合の取り扱い」などを定め、労働者に周知します。
    • 振替日の指定を直前に行うのではなく、なるべく早めに告知し、労働者の生活設計への配慮を図ることが望ましいといえます。
  2. 代休制度の設計
    • 休日出勤後に休暇を与える代休制度を導入する場合は、法的には休日労働が成立したため、休日労働の割増賃金を支払う義務があることが原則です。
    • 就業規則で「休日に出勤したら割増賃金を支払うが、本人が希望すれば別日の休暇を取得できる」などのルールを明確にしておきましょう。割増賃金相当額を代休で相殺することは原則認められません。
  3. 長期的な管理と健康確保
    • 休日がないまま連続で勤務日が続くと、過重労働メンタル不調のリスクが高まります。
    • 休日出勤や振替休日が重なり、実質的に連続労働日が増えていないか、定期的に勤怠データをチェックすることが重要です。

トラブル事例

  1. 振替休日の事後設定で割増賃金不払い問題
    • 休日勤務をした後に「別日に休みを取ったので、割増賃金は不要」と企業が主張するケース。
    • 実態は事後的な代休であり、休日労働が発生しているため、35%以上の割増賃金を支払う必要があると判断され、未払い残業代請求を受けるリスクが生じる。
  2. 法定休日か所定休日かが曖昧
    • 週休2日制の企業で、「日曜と土曜のどちらが法定休日かを明確にしていない」ため、休日出勤しても割増率を間違えるトラブル。
    • 不明確な場合、労働者が「自分が出勤した休日は法定休日だ」と主張し、企業が「所定休日」と主張して争いになる可能性がある。就業規則で明確に区別することが必要。
  3. 休日労働の36協定未締結
    • 36協定なしで法定休日に労働させると、労基法違反で是正勧告書類送検のリスクがある。
    • 急な休日出勤が必要な場合でも、企業は常に有効な36協定を締結し、特別条項を備えていなければならない。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、休日出勤・代休・振替休日に関する労働問題を防ぐため、以下のようなサポートを行っています。

  1. 就業規則・36協定の整備
    • 法定休日・所定休日の区別、振替休日の手続き、代休制度の導入方法、割増賃金計算方法などを就業規則に明確化。
    • 36協定を正しく締結しているかチェックし、特別条項付き36協定の内容や運用上の注意点をアドバイスします。
  2. 割増賃金トラブル予防
    • 休日出勤や時間外労働の割増賃金計算が適切に行われているか、固定残業代制度みなし残業制度との整合性を検証。
    • 未払い残業代リスクを低減するために必要な改善策を提案し、従業員への丁寧な説明と同意形成を支援します。
  3. 勤怠管理システム導入コンサルティング
    • 在宅勤務や変形労働時間制など、複雑な労働形態に対応する勤怠管理システムの選定・運用上の法的チェックを行います。
    • 休日出勤の打刻ルールや休憩・休暇の取得管理をシステム化し、実務上の効率化と労務リスク回避を同時に実現。
  4. 紛争対応・労働審判代理
    • 従業員から「休日出勤の割増賃金が未払いだ」と労働審判や訴訟を起こされた場合、企業側代理人として証拠整理論点整理を行い、速やかな交渉・解決を図ります。
    • 必要に応じて、和解や裁判まで対応し、企業の損失を最小限に抑える戦略を提案します。

まとめ

  • 休日出勤は「法定休日」か「所定休日」かで割増賃金率が異なり、さらに振替休日の適用で休日労働かどうかが変わるなど、複雑なルールが存在する。
  • 代休制度では、法定休日の休日労働がすでに発生しているため、企業は割増賃金を支払ったうえで別日の休暇を付与する形が一般的。事後的な振替休日として割増を免れることは認められない。
  • トラブルを防ぐには、法定休日と所定休日を明確に区別し、振替休日の事前手続き36協定の締結をしっかり行い、未払い残業代が発生しないよう運用する必要がある。
  • 弁護士の助言を得ながら、就業規則の改定や勤怠管理を最適化し、企業と従業員双方が納得できる休日管理体制を築くことが重要。

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