はじめに
外国人材の活用が進む日本の企業では、日本語が十分に通じない外国人社員との間で労働条件や会社ルールの認識に食い違いが起こりやすいです。これを放置すると、契約上のトラブルやハラスメント、安全衛生の問題に発展する可能性があります。
こうしたリスクを避け、外国人社員が会社のルールを正しく理解し、安心して働ける環境を整備するために、就業規則を多言語化する取り組みが注目されています。本記事では、多言語対応がもたらすメリットや具体的な進め方、注意すべき法的ポイントを弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。
Q&A
Q1:就業規則を多言語化する必要は法的に義務付けられていますか?
現時点の日本の法律上、義務とまでは定められていません。しかし、外国人社員が就業規則を理解できないまま雇用契約を結んでいると、後で「知らなかった」「説明が足りなかった」として紛争が起きる可能性があります。多言語版の就業規則を用意しておくことは、リスク管理の面でも有効です。
Q2:多言語対応するときは全ての言語に翻訳しないといけませんか?
通常、企業に在籍する外国人社員の主要言語(英語、中国語、ベトナム語など)を中心に翻訳することが一般的です。全ての言語に対応する必要はありませんが、母国語や業務上必須となる言語で就業規則が読めるようにしておくとトラブル防止に効果的です。必要に応じて要望が多い言語を追加する形で進める企業もあります。
Q3:多言語版就業規則が原本と食い違う場合はどちらが優先されるのでしょうか?
一般的には、日本語版の就業規則が正式な法的根拠とされることが多いといえます。ただし、外国人社員に対して提供した翻訳版が誤訳や不備を含んでいた場合、企業側の責任で紛争リスクが発生する可能性があります。翻訳においては専門家や翻訳会社に依頼し、正確性を確保することが重要です。
Q4:就業規則以外にも多言語化した方がいい書類はありますか?
労働条件通知書や雇用契約書、給与明細の説明、研修資料、勤怠ルールや安全衛生マニュアルなど、外国人社員の勤務に関わる重要書類は多言語対応が望ましいといえます。特に、災害時の避難指示や安全衛生手順などは命に関わる内容が含まれるため、早急に多言語化を進める企業も増えています。
解説
多言語対応のメリット
- 労使トラブルの回避
- 就業規則を正しく理解してもらうことで、労働条件や懲戒規程などの認識違いから起こるトラブルを減らせます。
- 雇用契約内容(賃金、休日、保険など)の説明不足で後に損害賠償や未払い賃金請求が発生するリスクを低減できます。
- 外国人社員の安心感向上
- 母国語や英語で会社のルールを把握できると、外国人社員は「企業が自分たちを理解・尊重してくれている」と感じ、エンゲージメントやモチベーションが向上します。
- 結果として、離職率の抑制や生産性アップにつながる可能性があります。
- 企業の国際化推進
- 多言語化は、今後さらに増える可能性のある外国人材の採用に対しても受け入れ体制があるとアピールでき、優秀な外国人材の確保に寄与します。
- 企業ブランドとして「ダイバーシティを重視している」イメージの向上も期待できます。
多言語対応のステップ
- 翻訳言語の選定
社内に在籍する外国人社員の数や母国語、要望を調査し、どの言語から対応するかを決定します。最も一般的なのは英語ですが、中国語やベトナム語など母国語が必要な場合もあります。 - 原文の精査・改訂
まずは日本語版の就業規則を改めてチェックし、不備やわかりにくい表現を修正します。あいまいな条文や実態に合わない規定がある場合は、この機会に改訂しておくのが望ましいです。 - 専門的・正確な翻訳
- 就業規則は法的性質が強いため、法律用語や社内特有の用語を正確に表現できる専門翻訳会社や弁護士事務所に翻訳依頼するのが安心です。
- 自動翻訳や安価なサービスを安易に利用すると、誤訳や曖昧な表現が紛争の種となり得ます。
- 確認・校正と従業員への説明
- 訳文が完成したら、二重チェックを行い、実際にネイティブスピーカーの社員などにも読んでもらい、不自然な部分を修正します。
- 公開後、外国人社員向けに説明会やQ&Aを実施し、「どんな規則があるのか」「日本語版との関係はどうか」を周知することでトラブルを未然に防ぎます。
運用上の注意点
- 日本語版との差異
- 多言語版はあくまで参考用という立場を明確にし、「最終的には日本語版が公式な規則として優先する」旨を明記しておく例が一般的です。
- 同時に翻訳精度を高く保つ努力を続け、致命的な誤訳がないよう注意を払う必要があります。
- 定期的なアップデート
- 就業規則は法改正や会社の状況変化に合わせて更新されることが多いため、多言語版も同時に改訂が必要です。
- 一部だけ更新されるケースでも、翻訳言語ごとに最新バージョンを揃えるよう管理する仕組みが求められます。
- 外国人社員の理解度チェック
- 就業規則を翻訳しただけでは、必ずしもすべての外国人社員が内容を理解できるとは限りません。法律用語や日本の労働文化への理解が浅い場合もあり、研修や個別相談窓口など追加サポートがあると効果的です。
- 差別やハラスメントの防止
- 多言語就業規則の整備に合わせて、セクハラ・パワハラ・マタハラなどの防止に関する条文や方針を外国語で明記し、外国人社員にもしっかり理解してもらうことが大切です。
- 相談窓口の連絡先を英語などで記載しておくと、いざというときスムーズに通報できる体制が整います。
弁護士に相談するメリット
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、就業規則の多言語対応に関して、以下のようなサポートを行っています。
- 就業規則のリーガルチェック・改定
- 日本語版就業規則の条文を精査し、法改正への対応や不明確な規定を補正します。多言語化前の基礎となる日本語版を最新かつ適法な形に整備。
- 必要に応じて労働条件通知書や労働契約書との整合性も確認し、外国人社員とのトラブルを防ぎます。
- 翻訳品質の監修
- 当事務所の外国法務に精通したスタッフや提携翻訳会社と連携し、法律用語や就業規則の趣旨を正確に反映した翻訳を行うサポート。
- 誤訳によるリスクを最小限に抑えるため、二重チェック・専門家校閲などの仕組みを提供します。
- 多言語版就業規則導入の運用支援
- 多言語化した就業規則をどのように社員に周知するか、説明会や研修の運営方法などをアドバイスします。
- 相談窓口の設置や通訳アレンジなど、社内ルールの運用体制づくりまでトータルにサポートします。
- 労務トラブル・労働審判対応
- 就業規則や労働契約をめぐる紛争(ハラスメントや未払い賃金請求など)において、外国人社員から訴えを起こされた場合、企業側代理人として迅速に対応。
- 多言語版就業規則の有効性、誤訳の有無などを検証し、企業を守るための戦略的な法的主張を行います。
まとめ
- 外国人社員が増加するなか、就業規則の多言語化は、コミュニケーションギャップやトラブルを防ぎ、企業と従業員の双方にメリットがある。
- 多言語対応は法的義務ではないが、リスク管理やダイバーシティ推進の観点で導入する企業が増加している。
- 翻訳精度が低いと却って紛争の種となるため、専門家による正確な翻訳と日本語版との整合が不可欠。
- 導入後も定期的なアップデートや、外国人社員への説明・サポートを継続的に行い、理解度と安心感を高める努力が求められる。
- 弁護士のアドバイスを受けながら、多言語化に伴う法的留意点や社内運用体制を整備すれば、労務リスクを最小限にしつつ、外国人社員が活躍できる職場作りを実現できる。
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弁護士法人長瀬総合法律事務所では、外国人社員の労務管理や言語ギャップによるトラブル対策などをYouTubeチャンネルで解説しています。具体的な事例や運用ノウハウをわかりやすく紹介していますので、ぜひご覧ください。
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