はじめに

法人破産は会社という法人格に対する手続ですが、その代表者(社長や取締役)も完全に無関係ではいられません。破産管財人は会社の財産だけでなく、法人代表者の財産状況も調査する可能性があります。特に、中小企業では代表者個人が会社の借入れに連帯保証しているケースが多く、会社と個人の資産が混同されがちです。

本記事では、法人代表者の財産調査がどのように行われ、代表者にはどのような協力義務があるのかを中心に解説します。不誠実な対応をすると「不正行為」とみなされ、代表者個人への責任追及や免責不許可のリスクが高まるため、正しく理解しておくことが大切です。

Q&A

Q1. なぜ法人破産なのに代表者個人の財産が調査されるのですか?

主に中小企業では、代表者が会社の債務を連帯保証していたり、個人資金を事業資金として投入しているケースが多いといえます。会社と個人の資産が混在していると、破産管財人が財産の帰属を明確にするために代表者個人の財産状況も確認する必要があります。

Q2. 代表者個人の通帳や不動産の名義を調べられるのでしょうか?

はい。代表者名義の銀行口座や所有不動産に対しても管財人が調査を行い、会社資産が流入・流出していないかを確認します。また、連帯保証分の負債をどう処理するかという観点でも、代表者個人の財産状況は重要です。

Q3. 代表者が協力しなければどうなるのですか?

協力を拒んだり虚偽の説明をしたりすれば、管財人や裁判所から不誠実な態度とみなされる可能性があります。個人破産を検討している場合は免責不許可事由となるリスクもありますし、法人破産でも不正行為として追及を受ける恐れがあります。

Q4. 個人の財産を勝手に処分してしまったらどうなりますか?

破産手続開始決定後に財産を処分すると、偏頗弁済や財産隠しとみなされる可能性があります。申立前であっても、管財人はさかのぼって不当な資産移動を否認する権限を持っているため、危険な行為といえるでしょう。

Q5. 代表者個人が破産すれば連帯保証分は帳消しになるのですか?

個人破産を行い、裁判所から免責を得られれば、連帯保証している会社の債務についても原則として支払い義務は免れます。ただし、免責不許可事由や不正行為が発覚すれば、免責が認められない場合もあります。

解説

なぜ代表者の財産調査が必要か

会社と個人の資産の混在

中小企業では、代表者の個人口座が実質的に会社の資金と混在しているケースがしばしば見受けられます。たとえば、経費精算が曖昧なまま個人カードで会社経費を支払っている、会社口座と個人口座間で頻繁に資金移動がある、などです。破産管財人はこれらの動きを解明し、「どこまでが法人の財産なのか」を正確に把握する必要があります。

代表者の連帯保証・個人破産の可能性

会社が破産しても、代表者が連帯保証している債務は個人に残ります。そのため、代表者個人も同時に破産手続を行う可能性が高く、管財人としては「代表者個人がどの程度の支払い能力を持っているか」を調査しなければならないのです。

財産調査の具体例

  1. 銀行口座の調査
    代表者名義の通帳履歴を遡ってチェックし、会社資金が個人口座へ流れていないか、あるいは個人資金が会社経費に使われていないかなどを確認します。
  2. 不動産や自動車の所有状況
    法人名義ではなく代表者個人名義になっている不動産や車両が、実質的に会社所有ではないかを検討します。逆に、会社名義でも代表者個人のための車両であれば問題になるケースも。
  3. 保険契約や有価証券
    代表者個人が生命保険や株式を所有している場合、会社資金で保険料が支払われていないか、保険金受取人がどうなっているかなどをチェックします。
  4. 家族名義の資産
    稀に、代表者が親族の名義を利用して資産を移転しているケースがあります。管財人は必要とあれば家族名義の財産にも疑いの目を向け、実質的な所有者が誰かを調べることがあります。

代表者の協力義務

  1. 情報開示義務
    破産法では、破産管財人の調査に対して必要な書類や情報を提供する義務が規定されています。口座情報、不動産登記、保険契約書など、求められた資料には速やかに応じるべきです。
  2. 面談・ヒアリングへの出頭義務
    管財人が代表者に対して事情聴取を行う際は、正確かつ誠実に回答する必要があります。曖昧な返答や虚偽説明は、後に取り返しのつかないトラブルを招きます。
  3. 財産処分の制限
    破産手続開始後、代表者個人が資産を勝手に処分することは厳しく制限されます。違反すると、偏頗弁済や財産隠しとみなされるリスクが高いです。

不正行為が疑われるケース

  • 偏頗弁済
    代表者が自分の親族や特定の債権者にだけ優先して支払いを行い、他の債権者を害する行為。
  • 財産隠し・名義貸し
    実質的に自己所有の資産を他人名義に切り替えるなど。
  • 虚偽申告や書類改ざん
    口座取引や契約書を偽造して隠蔽を図る行為。

いずれも破産法違反となり、代表者個人の免責不許可や損害賠償請求につながる恐れがあります。

弁護士に相談するメリット

  1. 財産区分の明確化
    弁護士が会社と代表者個人の財産を整理し、どこまでが法人財産かを客観的に示すことで、管財人とのトラブルを未然に防ぎやすくなります。
  2. 連帯保証・個人破産の一体対応
    法人破産と同時に代表者個人破産を行う場合、一つの事務所で両手続きを統括してもらえば、二重手続による混乱が減少します。
  3. 不正行為疑念の早期払拭
    過去の取引や資金移動を正確に精査し、疑念を持たれそうな点を事前に把握しておけます。万が一問題があれば、弁護士の助言のもと適切な説明資料を準備することが可能です。
  4. 精神的負担の軽減
    代表者が管財人から直接厳しい追及を受けるよりも、弁護士が間に入ることでやりとりが円滑になり、過剰な精神的ストレスを軽減できます。

まとめ

法人代表者の財産調査と管財人への協力義務は、会社の破産手続を正しく進めるうえで欠かせない要素です。主なポイントを振り返ると:

  1. 会社と個人の資産が混在しがちな中小企業は要注意
    連帯保証や資金移動の実態を管財人が詳しく調べる。
  2. 代表者個人名義の口座や不動産もチェック対象
    実質的に会社の資金が入っていないかなどを確認。
  3. 協力義務を怠ると不正行為とみなされるリスク
    虚偽説明や財産処分は、免責不許可や賠償請求につながりうる。
  4. 弁護士のサポートで財産の線引きと正当性を明確化
    法人破産だけでなく個人破産を併用する場合のメリットも大きい。

「会社が破産すれば、自分(代表者)は関係ない」という認識は非常に危険です。管財人への誠実な協力こそが、トラブルを最小化し、代表者個人の再スタートを円滑にするカギとなります。問題が複雑化しないうちに、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所のような専門家へご相談ください。


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