はじめに

破産手続において、債権者が自ら「債権を持っている」と裁判所・破産管財人へ名乗りを上げる仕組みが「債権届出」です。一方、破産管財人は届出を受け取った債権が本当に正当なものかを確認し、必要に応じて修正や異議を申し立てる「債権調査」を行います。これらのプロセスを経て、最終的に配当される債権額が確定するのです。

しかしながら、債権者からすれば「どのように届出を行うのか?」「いつまでに手続すればよいのか?」という疑問があり、法人側(破産申立側)としても「どの債権者がどれだけの請求をしているか」を把握しなければなりません。そこで本稿では、債権届出と債権調査のプロセスをわかりやすく解説し、注意すべきポイントを整理します。

Q&A

Q1. 債権届出は必ずしなければならないのですか?

債権者が破産手続に参加して配当を受けたい場合は、届出を行う必要があります。もし届出をしなければ、原則として配当を受ける権利が制限される可能性があります。ただし、優先的に弁済される税金や労働債権などは別扱いです。

Q2. 破産管財人が債権者全員を把握していれば、債権届出は省略できないのでしょうか?

破産管財人の債権者リストと、実際に債権者が主張する債権額が異なる場合もあるため、あくまで債権届出の手続は重要です。届出がない債権に関しては、配当の対象に加えられないことがあります。

Q3. 債権者はどのような書類を提出すればよいのですか?

一般的には、「債権届出書」を作成し、請求額を算出した計算資料(請求書・契約書・見積書・納品書など)を添付します。債権の種類によっては担保権設定書類や利息計算書などが必要となる場合もあります。

Q4. 破産管財人が「この債権は認められない」と判断することはあるのですか?

はい。たとえば契約書や請求書との整合性が取れない、時効が成立しているなどの事情があれば、破産管財人が異議を述べるケースもあります。最終的には裁判所での手続を通じて、債権が認められるかどうかが決まります。

Q5. 債権者が数多い場合、債権調査はどのくらい時間がかかるのでしょうか?

事案の規模や複雑さによりますが、債権者数が多ければ数か月以上かかることも珍しくありません。不明点や異議がある場合、追加書類の取り寄せなどでさらに時間が延びる可能性があります。

解説

債権届出のステップ

  1. 破産手続開始決定と届出通知
    会社が破産手続開始決定を受けると、裁判所は官報公告や書面通知を通じて、債権者に対して「一定期間内に債権届出を行ってください」と案内します。
  2. 債権届出書の提出
    債権者は指定された期限までに、破産管財人や裁判所へ債権届出書を郵送・提出します。請求額の根拠となる資料も添付が必要です。
  3. 未届の場合の扱い
    届出期限を過ぎても正当な理由があれば許可される場合もありますが、手続に大きく遅れを生じさせるため、原則として届出期限は厳守されます。

債権調査の実務

  1. 破産管財人による審査
    提出された債権届出書と契約書・請求書などを照らし合わせ、債権額が正しいか、契約関係や支払い条件に問題がないかを確認します。
  2. 異議申立・評価
    管財人が「契約の範囲外」「既に支払い済み」「時効成立」などの理由で妥当でないと判断すれば、異議を述べることができます。債権者と管財人の間で意見が食い違う場合、別途、裁判所の手続き(債権確定訴訟など)で争われることもあります。
  3. 最終的な債権確定
    調査期間が終了し、すべての異議やトラブルが解消されたら、配当対象となる債権額が確定します。最終的な配当率を算定するための基礎となる重要なステップです。

法人代表者が把握すべきこと

  1. 債権者リストの正確性
    法人破産を申し立てる際、代表者はすべての債権者を漏れなくリストアップする必要があります。もし記載漏れがあると、債権者から異議が出たり、後で追加届出があったりして手続が長引く原因にもなります。
  2. 契約書類・支払い履歴の整備
    債権者が主張している金額と会社側の認識が一致しているかを確認するため、請求書・領収書・銀行取引明細などをしっかり保管・提出します。破産申立前に混乱が起きないよう、日頃から経理処理を整理しておくことが大切です。
  3. 不正行為・偏頗弁済の確認
    もし直前期に偏頗弁済が行われていた場合、特定の債権者だけが優先的に支払いを受けたとみなされ、管財人が否認権を行使する可能性があります。結果的に債権者間の紛争が深刻化する恐れがあるため、注意が必要です。

弁護士に相談するメリット

  1. 正確な債権者リスト作成
    申立代理人弁護士が財務状況や取引先リストをチェックし、債権者の漏れや重複を防ぎます。経営者が把握していない債権者や債務がないかも検証できるでしょう。
  2. 書類準備・不正リスクの回避
    債権届出や調査の段階で、不正行為があったと指摘されないよう、過去の支払い記録や契約関係を整理し、適切に対応するためのアドバイスが得られます。
  3. 異議申立対応
    もし管財人から「この債権は認められない」と言われた場合、必要に応じて弁護士が法的根拠を整理し、債権者側との交渉や裁判所対応を行います。逆に、会社側が不当な請求だと思う場合も、弁護士を通じて異議を申し立てることが可能です。
  4. 迅速な手続進行
    債権届出と債権調査が長引くほど、破産手続全体が遅れる可能性があります。弁護士が間に入ることでスムーズなコミュニケーションが図れ、手続の遅延リスクを低減できます。

まとめ

債権届出と債権調査は、法人破産における配当の前段階として非常に重要な役割を果たします。主なポイントとしては以下のとおりです。

  1. 債権者は届出を行うことで配当に参加
    届出を怠ると配当が受けられないリスクがある。
  2. 破産管財人が正当性を審査し、異議があれば調整や裁判手続へ
    契約書や支払い履歴をもとに債権額が確定される。
  3. 代表者はリストアップと書類管理を徹底
    借入先や取引先を把握しきれていないと、手続が混乱する原因になる。
  4. 弁護士のサポートでトラブルを最小化
    異議申立や書類準備など、専門知識が必要な局面が多い。

会社が抱えている債権者の数や取引内容が膨大な場合、債権調査は想像以上に時間と手間がかかります。お早めに法律事務所へ相談し、スムーズな手続進行とリスク回避を目指しましょう。


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