はじめに

有期労働契約が5年を超えると無期契約への転換を認める「無期転換ルール」は、労働契約法によって定められた重要な仕組みです。企業がこれを誤って運用すると、雇止めトラブル不当解雇の疑いをかけられるリスクが高まります。一方で、企業としては有期契約社員の通算期間更新回数を正確に把握し、無期転換を申し込まれた場合に迅速に対応できる体制が求められます。

また、実質的に長期雇用を続けてきた従業員の雇止めは、解雇に準じた厳格な制限が課される場合があり、不当な雇止めが認められると企業は大きな責任を負うことになります。本記事では、雇止め無期転換ルールの実務対応について、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

Q1:無期転換は自動的に行われるのですか?

いいえ、労働者側が申し込むことが条件となります。通算5年を超えた時点で自動的に無期契約になるわけではありません。ただし、一度申し込みがあれば、企業側はこれを拒否できず、次回の契約更新日から無期雇用として扱わなければならないルールになっています。

Q2:無期転換後は正社員扱いにしないといけませんか?

無期契約になったとしても、正社員と同じ待遇にする義務があるわけではありません。ただし、不当に差をつける場合は同一労働同一賃金や労働契約法20条等の規定により不合理とされる可能性があります。無期契約社員として新たに就業規則を整備し、賃金・労働条件を別枠で定めることは可能ですが、合理的理由が求められます。

Q3:雇止めを行う際の手続きを教えてください。

雇止めは、企業が契約更新をしないという意思表示をすることですが、長期にわたり契約更新を繰り返してきたケースや、更新期待が高い場合には解雇と同程度の合理性予告手続きが必要とされます。具体的には、30日前の予告協議合理的理由の説明、離職証明などを行い、書面で通知するのが適切です。

Q4:無期転換ルールのクーリング期間はどのように考えればいいでしょうか?

原則として6か月以上の間隔をあければ通算期間がリセットされます。しかし、その間だけ他の仕事に就かせるなど意図的に無期転換を回避する手段として運用すると、脱法行為とみなされる恐れがあります。実態を見れば「事実上継続雇用」と判断される場合もあるため、注意が必要です。

解説

無期転換ルールの基本

  1. 通算5年
    • 有期労働契約の契約期間を合計し、通算5年を超えた時点で労働者に無期転換の申込権が発生します。
    • 2013年4月1日以降に開始した有期契約が対象となります。
  2. 無期転換申込と転換時期
    • 通算5年を超えた後、労働者が申込みを行い、次回更新時から無期契約へ移行する仕組みです。
    • 企業側は拒否できず、無期転換後の労働条件についてあらかじめ就業規則で定めたり、個別契約で取り決めたりします。
  3. 特例・クーリング期間
    • 6か月以上の間隔が空けば通算期間はリセットされますが、実質的に契約を分断して通算回避を狙うのはリスクが高いです。
    • 一部の有期高度専門職や継続雇用制度対象者などには特例が適用され、通算期間が10年に延びる場合があります。

雇止め法理と解雇並みの厳格性

  1. 雇止め法理
    • 判例上、更新を繰り返して長期雇用の実態がある場合は「更新期待」が生じ、雇止めは実質解雇と同等の規制がかけられる。
    • 労働契約法19条では、「契約更新の期待がある場合」や「その更新回数や期間など実質的に無期雇用と類似している場合」は簡単に雇止めできないと規定されています。
  2. 合理的な理由と社会通念上の相当性
    • 解雇に準じて、雇止めにも客観的に合理的な理由社会通念上の相当性が求められます。業績悪化など経営上のやむを得ない理由がないのに一方的に雇止めすると、不当解雇として争われる可能性が高いです。
    • 文書での通知や過去の契約更新履歴、業務評価などを明確にし、従業員に対する説明責任を果たすことが重要です。
  3. 不当な雇止めのリスク
    • 不当雇止めが認定されると、地位確認訴訟(雇用関係の継続確認)や損害賠償のリスクが企業に及びます。
    • 企業イメージの毀損や人材流出など、経営面で大きな打撃となるため、雇止めを行う際は法的な手続きを慎重に踏まなければなりません。

実務上のポイント

  1. 通算期間管理
    • 有期契約社員の契約開始日や更新日、契約期間を一覧化し、誰がいつ通算5年に達するかを把握する台帳を作成します。
    • クーリング期間や特例対象者の有無なども同時に管理しておくとスムーズです。
  2. 就業規則・無期転換対応マニュアルの整備
    • 無期転換申込が出たらどの部署が担当し、どのような手続きで新契約を締結するか、具体的なフローを社内規定に定めます。
    • 無期転換後の労働条件(賃金・昇給・手当・退職金など)を別途定める「無期転換社員就業規則」を作成する企業も多いです。
  3. 雇止めを検討する際のプロセス
    • 就業規則や個別労働契約で「契約更新回数の上限」「更新しない具体的事由」を明示しておく。
    • 更新期待が高い従業員の場合は、解雇並みの厳格さが必要になるため、まずは業務評価や業績理由など合理的根拠を用意し、書面交付・面談などの丁寧な対応を行う。
  4. コミュニケーションの強化
    • 無期転換や契約更新に関する制度を従業員に周知し、申込み手続きや相談窓口を明確に伝える。
    • 労使トラブルは多くの場合、情報不足や誤解から生じるため、定期的なコミュニケーションがトラブル予防につながる。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、雇止めや無期転換ルール対応において、以下のサポートを提供しています。

  1. 台帳管理・就業規則の整備
    • 通算期間や契約更新履歴を管理するシステムの構築、就業規則・契約書における無期転換条項、更新基準の明確化などを法的視点でアドバイス。
    • 不利益変更にならないように労使協議の進め方や文面作成を補助します。
  2. 無期転換後の労働条件設定
    • 無期転換社員に適用する賃金体系や手当など、新しい就業規則作成を支援し、同一労働同一賃金の観点からのバランスを考慮した設計を行います。
    • 不合理な差別とならない範囲で、正社員とは異なる条件を設定したい場合の根拠づくりも行います。
  3. 雇止めトラブル対応
    • 長期契約社員の雇止めが想定される際のリスク査定や書面通知の検討、従業員との協議プロセスのアドバイスを実施。
    • 労働審判や訴訟に発展した場合、解雇無効を主張する従業員に対する企業の正当性を主張立証し、早期解決を目指します。
  4. 総合的な労務管理コンサルティング
    • 無期転換をはじめ、派遣法やパートタイム・有期雇用労働法との整合を図りながら、企業の人事戦略に合わせた最適な労務管理プランを提案します。
    • 企業規模や業種特性に応じたワンストップの労務法務サポートが可能です。

まとめ

  • 無期転換ルールは、有期労働契約の通算期間が5年を超えると労働者が無期契約を申込める仕組みで、企業はこれを拒否できない。
  • 雇止めは、更新期待が高い場合には解雇並みの厳格な要件が求められ、合理的理由なく行うと不当解雇として争われるリスクがある。
  • 企業は、契約更新回数の管理就業規則整備無期転換後の労働条件設計をしっかりと行い、従業員への説明責任を果たすことがトラブル防止につながる。
  • 弁護士の助言を得ながら、通算期間管理や就業規則改定、書面交付などの手続きを適切に進めることで、安全かつ柔軟な労務管理が可能となる。

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弁護士法人長瀬総合法律事務所では、無期転換ルールの具体的な運用方法や雇止めリスクの回避策を、YouTubeチャンネルにてわかりやすく解説しています。実務に役立つ事例や注意点などを紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

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