はじめに

会社の経営が悪化し資金繰りに行き詰まると、「もう事業の継続は不可能かもしれない」と考える場面に直面するかもしれません。そのときに思い浮かぶ選択肢の一つが「破産手続」です。しかし、実際には「いつ破産を申し立てるべきか」を迷う経営者の方が少なくありません。早すぎれば再建のチャンスを失う可能性がある一方で、遅すぎれば債権者や従業員への影響を拡大させてしまい、代表者個人の責任追及リスクなども大きくなります。

そこで本記事では、法人破産を申し立てるタイミングについて解説します。資金繰りの悪化や連鎖倒産の兆候など、具体的なサインを見逃さないためのポイントや、適切なタイミングを逃した場合に生じうるリスクを取り上げます。企業経営は一筋縄ではいかないからこそ、万が一の事態に備えて知識を蓄えておくことが重要です。経営危機に直面した際の判断材料として、お役立ていただければ幸いです。

Q&A

法人破産の申立は早いほうが良いのでしょうか?

早すぎても、改善の芽をつぶしてしまうことがあるため、絶対に「早期申立」だけが正解とは限りません。しかし、申立が遅れてしまうと、債務がさらに膨張したり、不正行為を疑われやすくなったりするリスクが高まります。会社の状況を慎重に見極めつつ、適切なタイミングで行うことが大切です。

そもそも「支払不能」や「債務超過」だと判断される基準は何ですか?

法律上、「支払不能」とは、一般的かつ継続的に弁済資金を用意できない状態をいいます。「債務超過」とは、会社の負債総額が資産総額を上回り、弁済が事実上不可能な状態です。これらの状態を明確化するためには、貸借対照表や損益計算書などの財務書類の正確な把握が必要となります。

資金が底をついてから破産申立すればいいのでしょうか?

資金が尽きる直前まで待つと、従業員の給与や取引先への支払いが滞ってしまい、損失が拡大するおそれがあります。また、破産手続開始後に調査される不正行為(偏頗弁済や資産隠しなど)に該当する疑いを受けやすくなり、代表者個人に対する責任追及リスクが高まりますので、全く資金がない状態まで放置するのは望ましくありません。

代表者個人が連帯保証している場合、どのようなタイミングがベストですか?

法人破産を検討する段階で、代表者の連帯保証債務も視野に入れなければなりません。法人破産だけでなく、個人破産を同時並行で行う必要があるケースも多いです。このような場合は、弁護士を交えて全体的な負債状況を整理したうえで申立時期を決定するのがベターです。

倒産手続には他にも民事再生や特別清算などがありますが、破産を選ぶべきタイミングとは?

会社を再建できる見込みがあるならば、民事再生を検討する選択肢もあります。特別清算は解散後の手続として有用な場合もあります。ただし、負債の規模や再建可能性、債権者構成などを総合的に見て、再建の余地がないと判断されるなら、破産によって早期に清算を図るほうが、結果的に被害の拡大を防ぎやすいといえます。

解説

「支払不能」の定義と申立タイミング

破産法上、企業が破産手続を申し立てることができるのは「支払不能」あるいは「債務超過」の状態にあるときです。特に「支払不能」の基準としては、以下のような要素が考慮されます。

  • 長期的に売上が見込めず、金融機関から追加融資を受けられない
  • 毎月の返済や主要経費をまかなうキャッシュフローが枯渇している
  • 借金を借金で返す「自転車操業」が破綻している

裁判所は申立内容や財務資料などを精査し、真に支払不能かどうかを判断します。支払不能とみなされる前に手を打つことで、民事再生など他の手段を活用できる可能性もありますが、逆に手遅れになると不正行為を疑われやすくなるため、見極めが重要です。

申立の遅延によるリスク

破産を検討している段階での「申立の遅れ」は、大きなリスクを伴います。

  1. 債務が増大し続ける
    追加借入れや返済リスケで乗り切ろうとしても、返済能力に限界がある場合は債務が膨れ上がり、最終的に破産時の負債総額を増やす原因となります。
  2. 従業員や取引先への迷惑拡大
    給与の未払いが発生すれば、従業員の生活に直接的な悪影響を与えます。また、取引先への支払い遅延が広がると、連鎖倒産のリスクを引き起こす可能性も高まります。
  3. 偏頗弁済など不正行為の疑い
    破産直前に特定の債権者だけに優先的に弁済するのは「偏頗弁済」として否認の対象となります。申立が遅れるほど、経営者が苦し紛れにこのような行為をするリスクが高まり、代表者個人が責任を問われる可能性が出てきます。

代表者個人破産との検討

中小企業では、代表者個人が法人の債務を連帯保証しているケースが非常に多い傾向にあります。この場合、法人破産を行っても代表者が保証債務を負い続けることになります。結果として個人破産も視野に入れる必要があるため、弁護士は「法人と個人の倒産手続を同時に進めるべきか」を判断します。もし代表者個人の資産まで含めて返済不能状態であれば、同時破産申立という方法を早期に検討したほうがよいでしょう。

実務上よくあるケース

実務の現場では、以下のようなタイミングで破産申立を行うケースが見られます。

  • 売掛金の大半が回収不能になり、資金繰りが急激に逼迫
  • 主要取引先の倒産により、入金見込額が大きく減少する
  • 金融機関が既存融資のリスケに応じず、さらに追加融資も打ち切る
  • 社長や経理担当が「もう限界」と感じるほど資金ショート寸前

このような段階に陥った場合、急遽破産申立手続に取り掛かると、書類不備や不正行為の疑惑などでスムーズに進まないケースも少なくありません。余裕をもって弁護士へ相談し、会社の財務状況を整理したうえで申立時期を決定することが重要です。

弁護士に相談するメリット

法人破産の申立タイミングを適切に見極めるうえでも、弁護士に依頼することは有効です。メリットとして、以下の点が挙げられます。

  1. 経営状態の客観的分析
    弁護士は、依頼企業の財務諸表や借入状況などを客観的に分析し、法的見地から「破産が避けられないのか」「民事再生や任意整理の余地があるのか」を判断します。経営者自身だけでは感情的になってしまいがちな判断に、冷静な視点を提供してくれます。
  2. 的確な申立時期のアドバイス
    「まだ再建の余地がある」「いや、もう申立が必要」といった状況は、素人目には判断が難しいものです。弁護士なら過去の倒産事例や知見に基づき、最適なタイミングを提案できます。
  3. 書類準備や手続の代行
    破産申立にあたっては、多数の書類(債権者一覧表、財産目録、過去の決算資料など)を整える必要があります。弁護士が代行することで不備や漏れを減らし、裁判所の審理がスムーズに進む可能性が高まります。
  4. 不正行為の予防
    偏頗弁済や資産隠しなど、破産手続で問題視されやすい行為について、事前に適法性に関するアドバイスが得られます。結果として代表者個人の責任追及を回避しやすくなります。
  5. アフターサポート
    法人破産が決定した後、代表者個人の生活設計や再起業に関するサポートを受けられるのも弁護士に相談するメリットです。場合によっては個人破産や任意整理が必要となるため、ワンストップで支援を受けられる専門家の存在は心強いでしょう。

まとめ

法人破産を申し立てるタイミングは、早すぎても遅すぎても企業や代表者にとってマイナスとなる可能性があります。裁判所が「支払不能」や「債務超過」とみなす状況に至った場合、速やかに専門家へ相談し、適切な時期を見極めることが重要です。以下のポイントを再確認しましょう。

  1. 資金繰りが破綻する前に、再建可能性を検討してみる
  2. 代表者個人の連帯保証がある場合は、法人と個人の同時破産も視野に入れる
  3. 偏頗弁済や不正行為を疑われないよう、お早めに弁護士へ相談する

企業の命運を左右する重大な決断だからこそ、情報収集と専門家のサポートが欠かせません。決して独断で進めるのではなく、早期に弁護士との連携を図りましょう。


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