はじめに
日本の企業にとって、派遣労働者を受け入れることは柔軟な人材活用策として一般化しています。しかし、労働者派遣法は度重なる改正によって規制が強化され、派遣先企業・派遣元企業の双方にさまざまな義務やルールが課されるようになりました。
とりわけ2015年改正(およびその後の追加改正)により、いわゆる「3年ルール」や「雇用安定措置義務」が導入されるなど、実務上の対応が必須となりました。さらに、同一労働同一賃金の流れを受けて派遣労働者の待遇改善が求められるなど、企業は絶えず変化する法制度に対応しなければなりません。
本記事では、派遣法の主要な改正ポイントを整理するとともに、企業が実務に落とし込む際の注意点を弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。
Q&A
3年ルールとは何ですか?
3年ルールとは、派遣労働者を同じ組織単位(課やグループなど)で3年を超えて継続して受け入れられないルールを指します(一般派遣の場合)。個人単位だけでなく、事業所単位にも上限期間が設定されています。ただし、受入れ期間を延長するには、事前に過半数労働組合等への意見聴取など特別な手続きを踏む必要があります。
派遣先が講じるべき「雇用安定措置」とはどのような内容でしょうか?
2015年の派遣法改正で義務化された措置の一つで、派遣契約終了後の派遣労働者の雇用を安定させるために、派遣元・派遣先それぞれが一定の取り組みを行う必要があります。たとえば、派遣先企業から直接雇用の申し込みを行ったり、派遣先への無期雇用契約の提案、派遣先以外の派遣先を斡旋するなどの措置が挙げられます。ただし、実際に直接雇用するかどうかは義務ではありませんが、派遣元・派遣先が協力して派遣労働者の雇用を継続できるよう配慮することが求められます。
派遣労働者への「均等・均衡待遇」とは具体的に何を指しますか?
2020年4月施行の改正派遣法により、派遣先の通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けないようにする「均等・均衡待遇」か、労使協定方式による一定の要件を満たす「労使協定待遇」のいずれかを選択する必要があります。具体的には、賃金・各種手当・福利厚生などの項目で、派遣労働者と派遣先の従業員との間に不合理な格差がないかを検証し、必要に応じて是正措置を講じなければなりません。
受け入れ期間を延長する際にどんな手続きが必要ですか?
3年を超えて同一組織単位で派遣労働者を継続して受け入れる場合は、過半数労働組合または過半数代表者からの意見聴取を行い、意見を踏まえたうえで延長の是非を判断します。意見が反対だからといって自動的に延長が禁止されるわけではありませんが、反対理由が合理的だと紛争リスクが高まるため、派遣労働者が必要な理由や雇用安定措置との整合をしっかり説明できるようにしておく必要があります。
解説
派遣法改正の主要ポイント
- 2015年改正
- せ「3年ルール」の導入:個人単位・事業所単位で受入れ期間に上限が設定された。
- 雇用安定措置義務:派遣契約終了後の労働者の雇用安定のため、派遣先企業にも協力が求められる。
- 専門26業務の廃止:従来「専門業務派遣」の名目で期間制限なしに受け入れられた職種区分が廃止され、すべての派遣が期間制限対象に。
- 同一労働同一賃金関連(2020年改正)
- 均等・均衡方式:派遣先の正社員や契約社員など通常の従業員の待遇を参考にし、不合理な格差がないよう配慮。
- 労使協定方式:一定の要件(派遣先の賃金水準等を踏まえた賃金設定など)を満たす労使協定を締結することで、待遇改善を図る方式。
- その他の注意点
- 派遣先管理責任の強化:安全衛生管理やハラスメント対策など、派遣先も指揮命令を行う以上、労働安全衛生法やパワハラ防止法制への対応義務が強まっている。
- 申請書類や雇用契約書の書式変更:派遣元・派遣先間で取り交わす契約書や就業条件明示の内容が改正に合わせて見直されている。
派遣先企業が講じるべき実務対応
- 受入れ期間の管理
- 派遣労働者ごとの受入れ開始日や組織単位の3年満了日、事業所全体としての受け入れ上限などをシステムや台帳で管理し、無許可で延長しないように注意します。
- 延長を行う場合は、過半数労働組合等への意見聴取手続きと記録保存が必須です。
- 雇用安定措置の検討
- 派遣期間満了が近づいたら、派遣元と連携して直接雇用の可能性や他部署への配置転換などを協議・検討します。
- 義務である「比較検討」を怠ると、行政指導や派遣労働者からのクレームに発展する恐れがあります。
- 均等・均衡待遇への対応
- 派遣先の正社員・契約社員の賃金テーブルや手当、福利厚生の内容を整理し、派遣元へ情報提供する必要があります。
- 派遣元はその情報をもとに、派遣労働者の待遇を設定するため、派遣先が情報開示を渋ると違反リスクが高まります。
- ハラスメント対策・安全衛生管理
- 指揮命令を行うのは派遣先企業のため、派遣労働者に対するハラスメントや安全衛生上のトラブルが起きた場合、派遣先にも責任が問われる場合があります。
- 就業場所のルールや安全マニュアルを明確に伝え、派遣労働者からの相談窓口を設けるなど、適切なケアを実施しましょう。
派遣元企業が講じるべき実務対応
- 派遣労働者への雇用契約・就業条件明示
- 派遣契約を締結する際、労働条件(就業先、賃金、社会保険など)を明示し、改正派遣法に基づく各種書類の整合性を保つ必要があります。
- 法定の雇用安定措置義務に則り、派遣労働者の希望を聞きながら次の派遣先を斡旋したり、無期雇用契約を提案したりすることが求められます。
- 同一労働同一賃金への対応
- 派遣先からの情報提供を受けて、【均等・均衡方式】か【労使協定方式】のいずれかを選択し、賃金規程や手当制度を整備します。
- 労使協定方式を選ぶ場合は、賃金の統計データやキャリア形成支援など、必要な条件を満たす協定を締結しなければなりません。
- キャリアアップ研修・福利厚生充実
- 法令上、派遣元には派遣労働者の能力開発やキャリア形成支援を行う義務があります。研修制度や資格取得支援、福利厚生など、正社員に近い待遇を実現する取り組みが求められます。
- これにより、派遣労働者の満足度向上と離職率の低減につながり、結果的に企業の競争力強化に寄与します。
弁護士に相談するメリット
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、派遣法改正への実務対応や紛争防止に関して、以下のようなメリットを提供します。
- 法改正に伴う規程整備・契約書レビュー
- 派遣契約書や就業条件明示書、社内規程の整合性をチェックし、最新版の派遣法に適合する形へ修正をサポートします。
- 派遣先・派遣元双方の立場での対応実績があるため、多角的なアドバイスが可能です。
- 受入れ期間管理や雇用安定措置の具体策提案
- 3年ルールの台帳管理や過半数労働組合等への意見聴取手順、受け入れ期間終了後の直接雇用オファーの進め方など、細かな実務をサポートします。
- 派遣労働者からのクレームや派遣先とのトラブルを事前に防ぐ対策を立案します。
- 均等・均衡待遇の運用支援
- 派遣先企業からの情報開示をどのように受け、派遣元としてどのように賃金水準を設定すべきか、法令・判例に基づいて具体的にコンサルティングします。
- 労使協定方式を選択する場合の協定書作成等についてもアドバイスが可能です。
- 紛争解決・労働審判・裁判対応
- 派遣労働者からの待遇差に関する訴えや不当解雇(雇止め)をめぐる争いが起きた際には、速やかに紛争解決へ向けた方針を立案し、労働審判や裁判対応を行います。
- 過去の裁判例を踏まえた交渉戦略や証拠提出を含め、スムーズな紛争収束を目指します。
まとめ
- 労働者派遣法は近年の改正で、3年ルールや雇用安定措置、均等・均衡待遇など、派遣先・派遣元ともに守るべき規制が大きく変化している。
- 派遣先企業は、受入れ期間の管理や過半数労働組合等への意見聴取、雇用安定措置への協力などを適切に行わないと、是正勧告や紛争に発展するリスクがある。
- 派遣元企業は、同一労働同一賃金対応やキャリア形成支援の義務を負い、派遣労働者の待遇改善を図らなければならない。
- トラブルを未然に防ぎ、改正派遣法を適切に遵守するためには、弁護士の助言を受けながら契約書・規程の整備、期間管理、雇用安定措置の実施などを進めることが重要といえる。
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