はじめに
企業の労務管理において、「みなし残業」制度は頻繁に取り入れられる手法です。しかし、この制度は誤解されやすく、適切な運用が求められます。本稿では、みなし残業の基本的な仕組み、メリット・デメリット、さらに注意すべきポイントについて解説します。
Q&A
Q.「みなし残業」とは何ですか?
A.みなし残業とは、実際の残業時間に関わらず、あらかじめ設定した一定の残業時間分の残業代を支払う制度です。会社側が設定したみなし残業時間を超えた残業には、追加の残業代が支払われますが、それ未満の時間でも、設定された残業代は支払われます。
「みなし残業」とは
「みなし残業」とは、たとえ実際の残業時間が少なくても、設定された残業時間分の賃金を毎月固定で支払う制度です。例えば、会社が月10時間の「みなし残業」を設定している場合、実際の残業時間が5時間であっても、従業員には10時間分の残業代が支給されます。
この制度は、実際に残業が行われなくても、一定額の残業代を支給することから「みなし」と呼ばれますが、10時間を超える残業が発生した場合は、その超過分の残業代が追加で支給される点に注意が必要です。
「みなし残業」と「固定残業」の違いはある?
しばしば「みなし残業」は「固定残業」とも呼ばれますが、両者は同じ概念です。どちらも、一定の残業時間分を給与に含めて支払う仕組みであり、「固定的に支払われる残業代」という意味で使われます。
ただし、「みなし労働時間制」などの他の制度と混同しないよう注意が必要です。これらは労働時間の把握が難しい業務に適用される別の制度です。
みなし残業のメリット
1.給与の安定性向上
みなし残業を導入することで、従業員は安定した給与を見込むことができます。たとえ実際の残業時間が少なくても、固定された残業代が支給されるため、月々の給与が安定するのが特徴です。
2.会社側の計算・支払いの簡素化
会社にとっては、労働時間管理や残業代計算の手間を削減できるというメリットがあります。あらかじめ設定された時間内であれば、残業代の支払い計算が単純化します。
みなし残業のデメリットと注意点
1.実態と乖離した運用によるリスク
実際の残業時間がみなし時間を超えた場合、その分の残業代を適切に支払わなければ、未払い残業代請求のリスクが生じます。みなし残業の範囲内だからといって、無制限に残業させることは違法です。
2.透明性の欠如
みなし残業代が基本給に含まれている場合、どこからが通常賃金で、どこからが残業代なのかが不透明になることがあります。労働契約書や就業規則で明確に区分することが必要です。これを怠ると、法的に無効とされるリスクがあります。
3.みなし残業手当が残業代の支払いと認められない場合のリスク
みなし残業手当が適法な残業代の支払いとは認められない場合、残業代は一切支払っていないという扱いになります。また、みなし残業手当が基本給にも含まれることにもなってしまい、残業代の算定単価も高額になってしまいます。さらに残業代を一切支払っていないことになるため、付加金を請求されるリスクもあります。
みなし残業が違法とならないためのポイント
みなし残業制度自体は違法ではありませんが、適法に運用するためのポイントがあります。以下のポイントをしっかり押さえることで、トラブルを回避できます。
給与内訳の明確化
基本給と残業代が明確に区別されていなければなりません。雇用契約書や給与明細において、残業代に相当する部分が何時間分の残業をカバーしているのかを具体的に示すことが求められます。
残業時間の管理
みなし残業時間を超えた場合、その超過分の残業代をしっかりと支払うことが重要です。「みなし残業だから何時間残業しても一定額しか払わない」という運用は違法です。
みなし残業を導入する際の具体的な注意点
企業がみなし残業を導入する場合、以下の点に特に注意が必要です。
1.就業規則の整備
みなし残業制度を導入する場合、就業規則に明確に記載する必要があります。これがない場合、正式な制度として認められない可能性があります。
2.雇用契約書への記載
従業員と結ぶ雇用契約書や労働条件通知書にも明確な記載が必要です。契約時にみなし残業の詳細を確認し、トラブルを未然に防ぎましょう。
3.給与明細への反映
支給される残業代が何時間分に相当するのか、給与明細に明示することが大切です。これが曖昧な場合、法的に問題が発生するリスクがあります。
弁護士に相談するメリット
みなし残業に関する問題は、企業と従業員の間でトラブルに発展しやすい部分です。専門家である弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
1.法的リスクを回避できる
弁護士に相談することで、みなし残業に関する法的リスクを未然に防ぐことができます。正確な制度運用を行い、将来的な訴訟リスクを回避できます。
2.労働契約の適切な運用が可能に
雇用契約書や就業規則の作成・見直しにおいて、弁護士のアドバイスを受けることで、適法な形での導入・運用が可能になります。
まとめ
みなし残業は、労働時間の管理を効率化する一方で、適切な運用を行わなければ大きなリスクを伴います。労働契約や規則に関して疑問がある場合は、専門家に相談し、正確な対応を心がけることが重要です。
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