団体交渉の出席者
団体交渉に誰が出席するかについては、労使双方、つまり労働者(ユニオン)側、会社側それぞれが自由に決めることができます。
労働者側の出席者
労働者側の出席者について「ユニオン側にこんなに複数の人間が出席するのは気に入らない」などと注文をつけることはできません。ユニオン側は、労働者とユニオンのメンバー複数名が参加するのが通常です。
会社側の出席者
一方で、会社側は誰が出席するべきでしょうか。この点でまず重要なのは、社長、代表者は参加しないほうが良いということです。もちろん、会社の規模にもよりますが、できる限り社長は参加しないほうが良いでしょう。
社長が出席することのリスク
ユニオンが介入してくるような労働トラブルの場合、社長が暴言を吐いてしまうリスクがあることが少なくありません。ユニオン側もそれは分かっていて、団体交渉の場で、あえて社長を挑発するような発言をすることも多くあります。
通常の社長さんはユニオンとの交渉に慣れていないので、そのようなユニオンの挑発に乗ってしまい、暴言を吐く事が良くあります。そうするとユニオンの思う壺で、「不当労働行為だ」と主張されてしまいます。
我々弁護士が同席する場合には、事前に社長さんに対して「決してユニオンの挑発には乗らないようにしてください」と釘を刺しておきますが、やはり団体交渉の現場で挑発されると、慣れていないせいもあり、ついカッとなって暴言を吐いてしまう方が少なくありません。
このようなことから、社長はできる限り出席を控えるべきでしょう。初回の進め方が、事実上、その後のルールとして定着することが多いため、いったん社長が出席すると、今後も出席を要求されかねません。
出席する人数
また、出席する人数についても、可能な限り事前にユニオンと協議しておくことが良いでしょう。
いくら「誰が参加するかについては注文をつけられない」とはいっても、会場の広さもありますので、あまりにユニオン側が大人数で来られても困ります。
そこで、あらかじめ「会社、ユニオン、それぞれ◯名までとする」というような協議をしておくことも有効です。
事前準備
団体交渉の場所には、緊張を和らげる意味でも、できるだけ早めに会場に到着し、机の配置などは会社側にとって好きなように配置しておくことをおすすめします。
あまり会社とユニオンとの距離が近すぎるのも無駄に緊張するので、常識的な会議のとおりに配置しましょう。また、万が一のことを考え、退出しやすい出口側に会社側が位置することが良いでしょう。
団体交渉の進め方
初回の団体交渉は緊張することが多いと思います。団体交渉など初めてだという方や、顧問弁護士が同席していないという場合にはなおさらそうでしょう。
この意味でも、無駄に緊張してしまって、飲む必要のないユニオンの要求を飲んでしまうなどといった事態を避けるためにも、できるだけ団体交渉に慣れている弁護士を顧問弁護士として同席させることをおすすめします。
ユニオン側の要求をよく聞く
初回の団体交渉でもっとも重要なことは、ユニオン側の要求を良く聞くことに徹することです。
ほとんどの会社はユニオンとの交渉は初めてでしょうから、ユニオンの言い分が勝手なものに聞こえてしまい、冷静ではいられなくなり、反論したくなることが多いと思います。
しかし、そういうときにも「不満のガス抜きをさせてあげよう」と大きく構え、ユニオン側の言い分をひとまず聞くことに徹しましょう。たとえ挑発されても乗らずに、「あらかじめ想定内のことだ、気にしない」と受け流しましょう。
そうしていれば、ユニオン側も「この会社はこちらの言い分をちゃんと聞いている」「この会社は冷静な対応をしているので、話せば分かる会社かもしれない」と考えるようになり、ユニオンの態度が無駄に硬化することを防ぐことも期待できます。
交渉中の記録
録音
録音は明示的に行う
団体交渉中は、労使双方が各自で録音をしておくことが良いでしょう。
ユニオン側が暴言を吐いたときにも証拠となりますし、また「録音している」ということを示すことで、ある意味ユニオンを牽制することにもつながります。
隠し録音ではそのような効果を期待できませんので、「今日はお互いに録音しましょう」と最初に断り、机にICレコーダー等を置き、明示的に録音することが望ましいです。
撮影は断る
ユニオンがビデオカメラを回す要求してきたときには、断るようにしましょう。会社側だけにビデオカメラを向けられることで緊張してしまいますし、いい気はしません。後日のトラブル防止という観点では録音で足りますので、撮影の要求は断るようにしましょう。
議事録
議事録についても、労使双方が各自で議事録をメモすることが良いでしょう。
署名には注意をする
団体交渉終了後、ユニオン側から「議事録に署名してくれ」と言われても、応じる必要はありません。
なぜなら、そのようなものに署名してしまうと、合意文書として効力を発揮してしまうからです。「正式な合意ができた時点で、正式に文書にしましょう」とだけ述べて、そのような要求は拒絶して構いません。
交渉中の暴言
なかにはしつこく暴言を吐くユニオンの担当者がいるケースもあります。そのような場合には、暴言はやめるようにと、冷静に注意を求め、発言の撤回を求めましょう。
それでも暴言がやまないというようなケースはそれほど多くはないと思いますが、そのような場合には「冷静な話し合いにならないようなので、今日はここで打ち切りますよ」と指摘しましょう。そうすれば、大抵の場合には、しつこい暴言はやむでしょう。
提案の検討
持ち帰って検討する
団体交渉で重要なことは、ユニオンからの提案等について、その場で決める必要はないということです。
慣れない団体交渉の場で、冷静ではない状態で回答しても良い結果にはなりません。回答を焦ることなく、いったん持ち帰って検討する、と回答しましょう。
この点は、顧問弁護士などに同席してもらえれば心配ないのですが、顧問弁護士などがいない場合であっても、持ち帰って社内でよく話し合ってから回答するべきでしょう。
労働組合法は、確かに会社に対し、労働組合と誠実に団体交渉を行うように求めていますが、合意することまで求めているわけではありません。できないことはできないで良いのです。
まとめ
以上に述べたように「団体交渉の場で合意する必要はない」ということさえ理解しておけば、だいぶ気持ちが楽になるのではないでしょうか。
ユニオン側の話・言い分をじっくり聞くことに徹し、たとえ暴言を吐かれても反論するようなことは避けましょう。そこだけを気をつけていれば大丈夫です。
顧問弁護士に同席してもらう
咄嗟の判断も、顧問弁護士が同席していれば、対応を任せておけますし、不安なときはどうしたらよいかをその場で聞くことができますので安心です。
団体交渉は、なるべく顧問弁護士に同席してもらうことをおすすめいたします。
出典
こちらの記事は、2019年11月に発行された「NS NEWS LETTER vol.34」に掲載されたものを、内容を加筆・修正したものです。