企業法務リーガルメディア

従業員の感染情報を会社内で共有することの可否

従業員の感染情報を会社内で共有することの可否

相談事例

当社の従業員がコロナウイルスに感染した場合、感染者が発生したことを会社内で共有することは問題ないでしょうか。

回答

従業員の感染情報を社内で共有することが、個人情報の利用目的の範囲を超えている場合には、原則として従業員本人の同意が必要となります。

もっとも、社内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要である場合には、例外的に従業員本人の同意なく共有することが可能となります。

なお、同一社内で感染情報を共有することは、「第三者提供」にはあたりませんので、改めて従業員本人の同意を得る必要はありません。

ポイント

  1. 感染情報を社内で共有する場合には、利用目的の範囲内かどうかを確認する必要がある
  2. 利用目的の範囲を超えているとしても、社内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要である場合には、従業員本人の同意なく共有することができる
  3. 同一社内で共有することは、「第三者提供」にはあたらない

解説

個人情報の利用目的による制限

「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」(個人情報保護法16条1項)と規定されています。

したがって、従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、感染情報を社内で共有するためには、原則として従業員本人の同意を得る必要があることになります。

もっとも、以下のいずれかに該当する場合には、例外的に従業員本人の同意を得ずに、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて感染情報を取り扱うことが可能です。(個人情報保護法16条3項)

一 法令に基づく場合

二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

個人情報の利用目的の確認

以上のとおり、従業員の感染情報を社内で共有することが、「特定された利用目的の達成に必要な範囲」に含まれるかどうかをまず検討することになります。

この点、会社の就業規則や個人情報取扱規程等において、「事業活動継続のため」等の利用目的が規定されている場合には、感染情報を共有することは他の従業員の健康管理ひいては事業活動継続のために必要なことであるとして、「特定された利用目的の達成に必要な範囲」に含まれると考えられます。

なお、仮に従業員の感染情報を社内で共有することが、「特定された利用目的の達成に必要な範囲」に含まれていないとしても、「当該事業者内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要がある場合には、本人の同意を得る必要はありません。」と解されます(個人情報保護委員会「(別紙)個人情報保護法相談ダイヤルに多くよせられている質問に関する回答」[1]参照)。

したがって、社内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要であれば、就業規則や個人情報取扱規程の定めがないとしても、会社が従業員の感染情報を社内で共有することは、本人の同意を得ずに実施できることになります。

社内で共有することが「第三者提供」にあたるか

なお、従業員の感染者情報を社内で共有することが「第三者提供」(個人情報保護法23条)にあたるかどうかという点ですが、同一事業者内での個人データの提供は「第三者提供」にはあたりません。したがって、社内で従業員の感染情報を共有する場合には、従業員本人の同意は必要ありません(個人情報保護委員会「(別紙)個人情報保護法相談ダイヤルに多くよせられている質問に関する回答」[2]参照)。

引用・出典

[1] [2] 個人情報保護委員会「(別紙)個人情報保護法相談ダイヤルに多くよせられている質問に関する回答

メールマガジン登録のご案内

「弁護士法人 長瀬総合法律事務所」では、定期的にメールマガジンを配信しております。

セミナーの最新情報や、所属弁護士が執筆したコラムのご紹介、実務に使用できる書式の無料ダウンロードが可能になります。メールマガジンに興味を持たれた方は、下記よりご登録下さい。

 

顧問サービスのご案内

私たち「弁護士法人 長瀬総合事務所」は、企業法務や人事労務・労務管理等でお悩みの企業様を多数サポートしてきた実績とノウハウがあります。

私たちは、ただ紛争を解決するだけではなく、紛争を予防するとともに、より企業が発展するための制度設計を構築するサポートをすることこそが弁護士と法律事務所の役割であると自負しています。

私たちは、より多くの企業のお役に立つことができるよう、複数の費用体系にわけた顧問契約サービスを提供しています。

 

リーガルメディア企業法務TVのご案内

弁護士法人 長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」では、弁護士がリーガルメディアのコラムを解説する動画を定期的に公開しております。

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了