説明義務違反を理由とする損害賠償請求

土地に埋設物が存在することについて、土地の売買契約の際に、売主が買主に十分な説明をしていなかったとして、売主に対し損害賠償請求をするということがあります。

請求の根拠は、売買契約が成立している場合には債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項、改正民法415条1項)、契約成立前は不法行為に基づく損害賠償請求(709条)になります。

もっとも、説明義務違反を主張するためには、売主に土地に埋設物が存在することについて説明義務があるといえなければなりません。

そこで、売主に説明義務があるといえるのはどのような場合か、義務があるとしてどの程度の説明がされる必要があるのか、という点について解説したいと思います。

説明義務違反を肯定する裁判例

東京地判平成15年5月16日

土地にコンクリートガラ、ガラス陶磁器くず、廃プラスチックなどの産業廃棄物が埋設していた事案では、売主の説明義務につき、「本件売買契約成立の経過及び本件地中埋設物に関して被告が有していた地位に照らせば、被告は、原告との間において、本件免責特約を含む本件売買契約を締結するにあたり、本件土地を相当対価で購入する原告から地中埋設物の存否の可能性について問い合わせがあったときは、誠実にこれに関連する事実関係について説明すべき債務を負っていたものというべき」との基準を示しました。

そして、買主からの地中埋設物がない旨の確認の問い合わせに対し、売主は全く調査をしてないにも関わらず、問題はない旨の事実とは異なる意見表明をしたものであるから、被告に説明義務違反の債務不履行があることは明らかであるとして、説明義務違反を肯定しました。

大阪高判平成25年7月12日

宅地として売買された土地に、ゴミ、コンクリートガラ、アスファルトガラ、鉄片、ガラス片、ビニール、焼却灰、木屑等の産業廃棄物が埋設していた事案では、「被控訴人(売主)は、本件土地に自ら本件廃棄物を埋設した事実を知りながら、A(買主)に対し、本件廃棄物の存在の点を何ら告知・説明することなく、本件廃棄物の存在を前提としない代金額で本件土地を売却し、そのためAないし控訴人(Aの包括承継人)は後記の損害を被ったのであるから、被控訴人としては、控訴人に対して不法行為責任を負うものというべきである。」として、説明義務違反を肯定しました。

説明義務違反を否定する裁判例

東京地判平成16年10月28日

排水管が埋設されていた事案において、「売主が信義則上上記のような告知義務(買主に損害を与え得るような事情を告知する義務)を負うのは、瑕疵の内容からして買主に損害を与えることが明白であるにもかかわらず売主がそれを地悉しながらあえて告げなかったような極めて例外的な場合に限られるというべき」とし、認定される事実から説明義務はないとされました。

東京地判平成29年10月20日

この事案では、対象となった宅地のある地域では、地盤に石灰岩等の岩を有しており、多数の岩が埋設しているところ、岩の存在を説明しなかったことが説明義務違反だという主張がなされました。

裁判所は、売主が重要事項説明の際に、地盤に岩が存在することを説明したと認定し、さらに、「重要事項説明の際はもとより、本件売買契約の締結に至るまでの間に、原告から、杭工法や泥岩に関する質問がされたり、追加資料の提出を求めることはなかったから、本件土地の地盤、地質等について重要事項説明書に記載されたところと異なる説明をあえて被告がしたとも認められない。…被告に信義則上の説明義務違反があったとはいえない。」として、説明義務違反を認めませんでした。

売主に埋設物について説明義務が生じる場合

以上の裁判例から、売主に説明義務が生じるのは、売主が埋設物の存在を知っている場合や、買主から埋設物の存在について問い合わせがあった場合であるといえます。

説明義務の範囲

売主に説明義務が認められるとしても、埋設物の存在についてまで説明する義務があるのかという点が別途、問題になります。

宅建業法35条1項

宅建業者が土地の売主になる場合、宅建業者は買主に対し重要事項説明を行い、土地を購入する判断材料である情報提供義務を負っています(宅建業法35条1項)。説明の範囲は同項1号ないし14号に列挙されています。

土地に埋設物が存在することについては、同法35条1項に列挙される事由では無いため、この点については、宅建業者が積極的に情報を提供する義務があるとはいえないことになります。

もっとも、「隠れた瑕疵の有無は、一般に買主が売買契約を締結するか否かの動機や契約条件に影響を及ぼす事項ではあるが、取引一般に要求される通常の注意を用いても発見できない瑕疵であるから、これが契約締結前に告げるべき重要事項に該当するか否かは当該契約ごとに具体的に判断する必要がある。」

「売主業者は、媒介業者と異なり、取引物件をみずから所有していることから物質的瑕疵(雨漏り、軟弱地盤による不等沈下等)や心理的瑕疵(自殺物件、殺人現場等)の存在については認識若しくは認識しうる地位にあり、また瑕疵の存在については事前に調査することも可能である。したがって、通常の注意をもってすれば十分認識可能であった瑕疵のみならず、隠れた瑕疵についてもこれを認識若しくは認識しうるものについては説明義務を負う。また、買主等から目的物の性状について質問があれば、売主業者は、これを調査した上で説明すべき義務を負う。」「媒介業者は、媒介委託の目的に適合するように、契約目的物について必要な情報の収集、調査を行い、委託者にそれを提供する義務を負う[1]との指摘がなされており、隠れた瑕疵についても説明義務が生じる余地があるとされています。

したがって、埋設物の存在が「瑕疵」に当たる場合には、宅建業者には「瑕疵」である埋設物の存在について説明義務が生じうることになります。

宅建業法47条1号

また、宅建業者は同法47条1号では、宅地の売買契約において、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁止しています。

(業務に関する禁止事項)

第四十七条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

 イ 第三十五条第一項各号又は第二項各号に掲げる事項

 ロ 第三十五条の二各号に掲げる事項

 ハ 第三十七条第一項各号又は第二項各号(第一号を除く。)に掲げる事項

 ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

二 不当に高額の報酬を要求する行為

三 手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為

同条の趣旨については、「法35条は、契約締結に当たって買主等の判断を誤らせないように、買主等からの要求がなくとも宅建業者が積極的に取引物件等に関する情報を提供、説明することを義務づけた規定であるが、法47条1号は、宅建業者に対し故意による重要な事実の不告知、不実告知という詐欺的行為を禁止した規定である。」[2]と説明されています。

47条の説明の範囲については、「法35条1項各号が規定する説明すべき事項よりもその範囲が広い」とされています。

そうすると、宅建業者が宅地を売る際には、土地に埋設物が存在することについて積極的に説明する法的義務はないものの、埋設物の存在を知り、又は知りえた場合、買主からの問い合わせがあった場合には、埋設物の存在について説明義務が生じうると整理することができます。

おわりに

改正民法では、「瑕疵」が「契約不適合」という概念に変わり、買主には追完請求権(562条)、代金減額請求(563条)、解除及び損害賠償請求(564条)が認められるなど、買主保護の制度が充実されました。

今後の裁判例の積み重ね次第で結論が変わりうるものではありますが、宅地の取引において、売主がどこに気をつけるべきなのか、買主はどんな主張ができるのか、この記事が参考になれば幸いです。

[1] 逐条解説 宅地建物取引業法(大成出版社、2009年)450〜451頁

[2] 逐条解説 宅地建物取引業法(大成出版社、2009年)361頁