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在宅勤務・テレワークを導入する場合の留意点

在宅勤務・テレワークを導入する場合の留意点

【ポイント】

  1. テレワーク導入のプロセスを理解する
  2. テレワークに伴う労務管理上のリスクを理解する
  3. テレワーク導入時の執務環境の整備を理解する
  4. テレワークに伴う情報管理上のリスクを理解する

【相談例】

感染症予防のために、当社では在宅勤務・テレワーク制度を導入しようと考えています。

もっとも、これまで当社では在宅勤務・テレワークを実施したことがないため、導入にあたっての注意点を教えてください。

【回答】

在宅勤務・テレワークを導入する場合には、大きく①労務管理上のリスク、②執務環境の整備、③情報管理上のリスクを押さえる必要があります。

在宅勤務・テレワークにはメリットもあればデメリットもありますので、良いことばかりではないことにご留意ください。

【解説】

新型コロナウイルス感染症対応や緊急事態宣言による外出自粛要請を受けて、従来のように出社しての勤務から、テレワークを導入し、在宅勤務への切り替えを進める企業が増加しています。

テレワークの導入による在宅勤務の実施は、感染症予防にとっても有効であるだけでなく、新しい働き方の実現として歓迎すべきといえます。

もっとも、テレワークの導入による在宅勤務の実施は、労務管理上のリスクや、執務環境の整備、情報管理上のリスクも伴います。

本稿では、テレワークの導入による留意点について解説します。

テレワークとは

テレワークの定義

そもそも、テレワークとは何を指しているのでしょうか。

テレワークとは、インターネットなどのICT[1]を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方で、勤務場所から離れて自宅などで仕事をする働き方をいいます。

テレワークの種類

このように、テレワークは「働き方」を指す総称であり、必ずしもテレワーク=在宅勤務、というわけではありません。

テレワークは、働く場所と働き方に応じて、以下のように分類されます。

働く場所による分類
働き方による分類

テレワークのメリット

冒頭でも整理したように、テレワークは、感染症予防や、緊急事態宣言後の外出自粛要請下における勤務の継続をするために有効ですが、その他にも以下のメリットが挙げられます。

テレワーク導入の目的

このように、テレワークの導入には様々なメリットが挙げられます。

事業運営面
雇用面

テレワークの導入手順

テレワーク導入に必要な事項

テレワークを導入する場合には、導入のプロセスを理解する必要があります。

そして、はじめから100%の制度を設計しようとするとうまく機能しませんので、まずはできるところから始めていき、少しずつ範囲(対象業務・対象者・対象頻度)を拡大していくことを目指していきましょう。

テレワークの導入は、後述する労務管理や情報管理にも影響しますので、社内全体をみることができる部門によって推進体制を構築することが望ましいといえます。

また、テレワークの 全体方針の決定、推進にあたっては、経営トップ自らがテレワーク導入の意思を明確に示す必要があります。

導入の全体プロセス

テレワーク導入の全体プロセスを図示すれば、以下のようになります。

テレワークを導入した後も、PDCAサイクルを絶えず回していき、常に効果測定・改善を繰り返していく必要があります。

テレワークのデメリット(リスク)

このように、テレワークの導入には、従来の働き方にはないメリットが多数存在します。

もっとも、テレワークの導入は、必ずしもメリットばかりではなく、デメリット(リスク)も存在します。

特に、以下の3点に留意が必要です。

  1. 労務管理上の留意点
  2. 執務環境の整備
  3. 情報管理上の留意点

テレワークにおける労務管理上の留意点

まず、テレワークにおける労務管理上の留意点からみていきましょう。

労働諸法の適用

テレワークを行う労働者にも、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されることは、通常の労働者と変わりません。

したがって、労働時間の管理や、労働安全衛生への配慮等が必要なことは、出社する労働者と変わらないことになります。

このように、テレワークを行う労働者にも、労働諸法は通常の労働者と同様に適用されることから、労働基準法の規制も遵守しなければなりません。

労働条件の明示

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりません。

特にテレワークとの関係では、「就業の場所」が重要な要素となります。  テレワークを行わせる場合、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければならないことになります。

労働者がテレワークを行うことを予定している場合、テレワークを行うことが可能である就業の場所を明示することが望ましいといえます。

モバイル勤務をする場合等で、業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合は、就業の場所についての許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能です。

なお、 テレワークの実施とあわせて、始業及び終業の時刻の変更等を行うことを可能とする場合は、就業規則に記載するとともに、その旨を明示しなければなりません。

労働時間制度の適用と留意点

使用者は、原則として労働時間を適正に把握する等、労働時間を適切に管理する責務を有していることから、テレワークを行う労働者に関しても労働時間の適正な管理を行う必要があります。

この点、テレワークにおける労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)[2]に詳細が規定されていますのでご参照ください。

テレワークにおける労働時間の管理については、以下のようなケースで問題となります。

「中抜け時間」について

在宅勤務等では、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすいという問題があります(いわゆる「中抜け時間」)。

中抜け時間については、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが可能と考えられます。

通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワークについて

一方、テレワークの性質上、通勤時間や出張旅行中の移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことが可能です。

これらの移動時間中のテレワークが、 使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われる場合には、 労働時間に該当すると考えられます。

勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間等について

勤務時間の一部でテレワークを行う場合の就業場所間の移動時間については、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、個別具体的に労働時間に該当するか判断されます。

①使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されている時間については、 休憩時間として取り扱うことが可能と考えられます。

一方、②使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間については、 労働時間に該当すると考えられます。

その他の労働時間管理制度の利用

テレワークにおける労働時間管理については、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制、裁量労働制の利用が考えられます。

もっとも、各制度の利用にあたっては、手続要件等があるため、利用する場合には会社の実情にかなっているかどうか、また導入が可能かどうかをよく検討するようにしましょう。

休憩時間の取扱

テレワークを導入した場合の休憩時間の扱いが問題となりますが、労使協定により、休憩時間の一斉付与の原則を適用除外とすることが可能です。

テレワーク労働者の休憩時間を一斉に付与することが実情にかなっていない場合には、適用除外も検討しましょう。

時間外・休日労働の労働時間管理

テレワーク労働者であっても、実労働時間やみなされた労働時間が法定労働時間を超える場合には、三六 協定の締結、届出及び割増賃金の支払が必要になります。

テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録 し、使用者はそれをもって当該労働者に関する労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましいといえます。

なお、テレワークにおける深夜労働や休日労働を防ぐために、事前許可制及び事後報告制を導入することが考えられます。もっとも、事前許可制や事後報告制が有効となるためには、以下の点をいずれも満たしていなければならない点にご留意ください(厚生労働省「テレワーク実施時の労務管理上の留意点」[3])。

①   労働者からの事前の申告に上限時間が設けられていたり、労働者が実どおりに申告しないよう使用者から働きかけや圧力があったりする等、当該事業場における事前許可制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと

 

②   時間外等に業務を行った実績について、当該労働者からの事後の報告に上限時間が設けられていたり、労働者が実績どおりに報告しないように使用者から働きかけや圧力があったりする等、当該事業場における事後報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと

また、テレワークにおける深夜労働や休日労働の事前許可制及び事故報告制を導入したとして、労働時間に該当しないと判断されるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります(厚生労働省「テレワーク実施時の労務管理上の留意点」)

事前申告し使用者の許可を得なければならず、かつ、その実績を事後報告しなければならなかったにもかかわらず、労働者から事前申告がなかった場合又は事前申告内容が許可されなかった上に、労働者から事後報告がなかった場合で、次の①②③の全てに該当する場合

①   時間外等に労働することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと

②   当該労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合等、時間外等に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと

③   時間外等に当該労働者からメールが送信されていたり、時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等、時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が時間外等の労働を知り得なかったこと

長時間労働対策

テレワークについては、労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため、長時 間労働を招くおそれがあることも指摘されており、使用者は、長時間労働による健康障害防止を図ることが求められます。

テレワークにおける長時間労働を抑制する手法としては、以下の4つが考えられます。

 テレワークと就業規則

就業規則の変更は必須ではない

テレワークを導入するにあたり、就業規則の変更は必須ではありません。

ただし、通信費・機器を負担する場合や手当の変更をする場合には、就業規則の変更及び所轄労働基準監督署への届出が必要になります。

また、テレワークの手続を制度化して規程を作成する場合、所轄労働基準監督署への届出が必要になります。

就業規則の変更を検討する項目

テレワークの導入にあたり、就業規則のうち変更を検討する項目は以下のとおりです。

  1. 適正基準
  2. 実施の申請と承認
  3. 業務連絡(コミュニケーション)方法
  4. 労働時間
  5. 人事評価
  6. 給与・ 手当
  7. 服務規律
  8. セキュリティ
  9. 安全衛生(作業環境・健康 診断)
  10. 教育・研修
  11. 緊急時の対応
  12. 費用負担
  13. 福利厚生

など

テレワーク管理規程と就業規則の体系

なお、テレワークの導入にあたり、テレワーク管理規程を設定する場合には、就業規則の全体的な体系を整理するとよいでしょう。

一例ですが、以下の就業規則の体系が考えられます。

テレワークにおける執務環境の整備

次に、テレワークを導入する場合の執務環境の整備について説明します。

テレワークを導入する場合には、オフィスに出社しなくてよい代わりに、自宅等で通信費や水道・光熱費等を負担することになります。

在宅勤務の場合には、これらの通信費や水道・光熱費は、生活費との区別が困難であり、労働者が負担することになります。

これらの取扱のルールや、在宅勤務であっても業務である以上、自宅内で起きた事故についてはどのような扱いになるのかを事前に把握しておく必要があります。

費用負担に関する考え方

テレワークに関わる費用は、必ずしも会社が負担しなければならないわけではありません。

もっとも、従業員によっては、これらの通信費や光熱費等を会社が負担するものと期待している場合もあります。

そこで、通信費や光熱費等の負担区分は、テレワークを導入する前に、明確なルールをつくり、従業員に対して説明することが望ましいといえます。

また、労働条件の変更にあたりますので、必要に応じて就業規則の変更も検討しましょう(労働基準法第89条第1項第5号)。

費用区分を検討する対象としては、以下の項目が考えられます。

  1. 情報通信機器の費用
  2. 通信回線費用
  3. 文具、備品、宅配便等の費用
  4. 水道光熱費

労働安全衛生法令の適用及び留意点

次に、テレワークを導入して在宅勤務を実施している場合であっても、テレワーク労働者には労働安全衛生法等の適用があります。

したがって、会社は、テレワーク労働者に対する安全配慮義務を負い、健康確保措置を講じなければなりません。

会社は、テレワーク労働者に対し、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の衛生基準と同等の作業環境となるようにすることが望ましいといえます。

労災の適用

前記のとおり、テレワーク労働者にも労働安全衛生法等が適用されることから、使用者が労働災害に対する補償責任を負うことになります。

したがって、労働契約に基づいて使用者の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります(ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません)。

実際に過去にテレワークで労災が認定されたケースとして、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたところ、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒したという事案があります。これは、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められています。 

テレワークにおける情報管理上の留意点

情報管理対策

テレワークでは、オフィス以外の場所(自宅等)で業務を行うことになるため、必然的に業務関連情報をオフィス外で扱うことになります。

情報漏えいは一旦発生すると、不可逆的かつ大規模な被害をもたらす恐れもあるため、情報管理対策を講じておくことが必須といえます。

情報管理対策としては、以下の措置が考えられます。

BYODの利用上の留意点

BYOD(Bring Your Own Device)とは、従業員個人が所有しているスマートフォンやタブレット、ノートPCといった端末を業務でも利用することをいいます。

これまでは、このような私的端末を業務上利用することは情報漏えいリスクの観点から禁止する方向でした。

ですが、スマートフォンの普及に伴い、電話だけでなくメールやスケジュール管理等にモバイル端末を利用することが増加し、私的端末も業務上利用することを認めたほうが効率的であると考えられるようになりました。

ただし、システム管理者は、テレワーク労働者が私的端末をテレワークに利用する際は、その端末に必要な情報セキュリティ対策が施されていることをテレワーク労働者に確認させた上で使用を認めることが望ましいといえます。

また、テレワーク労働者は、私物の端末をテレワークに用いる場合、端末が適切に管理されていないと、悪意のソフトウェアに感染したり、不正アクセスの入口として利用されたりすることで、その端末が企業全体の情報漏えいの原因となる恐れがあります。

近年のテレワークではパソコンのほか、スマートフォンやタブレット端末も利用されるようになっていますが、不正改造(スマートフォン等では、俗に、端末の「脱獄」や「ROOT化」とも呼ばれます。)を施した端末を、テレワーク端末として業務に使用しないようにします。

テレワークにおける私的利用が許可されている場合でも、必ずその利用に関するルールが定められていますので、遵守するようにしてください。

また、テレワークのために貸与された端末を、本来の業務と異なる用途に使用することは、企業の資産の目的外利用として不適切なばかりでなく、悪意のソフトウェアの感染等の原因になります。また、自分で留意するだけでなく、不特定多数の出入りがある環境で作業する場合には、端末を他人に利用されないようにすることも重要です。

(総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第4版)」参照)

テレワークに関する書式

テレワークの導入を検討する企業は、本サイトに掲載している書式をご参照ください。

リーガルメディア|労務管理 書式

(掲載している書式)

 

【参照】

[1] 情報通信技術=ICT(Information and Communication Technology)

[2] 厚生労働省 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

[3] Telework seminar 2017 厚生労働省 テレワーク実施時の 労務管理上の留意点(社会保険労務士法人NSR制作)

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