【ポイント】
- 会社は安全配慮義務の観点から自宅待機等を命じることができる
- 自宅待機命令等を出した場合の休業補償は、場合を分けて検討する必要がある
【相談例】
当社の社員から、「最近、体調不良と微熱が続いていますが、問題なく働くことは可能です。」という申告がありました。新型コロナウイルス感染症対応のために、この社員に自宅待機や帰宅を命令しても問題ないでしょうか。
また、社員に自宅待機命令や帰宅命令を出した場合、休業補償はしなければならないでしょうか。
【回答】
会社が従業員に対して自宅待機等を命令することは可能です。
休業補償の要否については、社員が自主的に休んだ場合は不要ですが、社員が自主的に休まないために会社が休ませた場合には必要となります。
ただし、社員が自主的に休まない場合でも、不可抗力で休業せざるを得ない場合には、休業補償は不要と考えられます。
【解説】
従業員に対する自宅待機命令等を出すことは可能
会社は従業員に対する安全配慮義務を負っているところ(労働契約法5条)、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、従業員に対して自宅待機命令や帰宅命令を出すことは可能です。
ご質問のケースのように、体調不良や微熱等の症状を訴えている従業員に対しては、安全配慮義務及び感染拡大防止の観点から、自宅待機命令や帰宅命令を出すことが望ましいといえます。
休業補償の要否
もっとも、悩ましい問題として、会社が自宅待機命令等を出した場合、従業員に対する休業補償が必要となるかどうかがあります。
この点は、以下のように場合を分けて検討することになります。
社員が新型コロナウイルスに感染した場合
新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当の支払は不要となります(資料1・4—問2)。
社員が新型コロナウイルスに感染したことが疑われる場合
社員が自主的に休んだ場合
(発熱などの症状があるため)社員が自主的に休んだ場合、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することになります(資料1・4—問4)。
したがって、貴社の就業規則等において、通常の病欠の場合には休業手当の支払義務はない(無給)という扱いにしているのであれば、休業手当の支払は不要となります。
社員が自主的に休まないために、会社が自主的な判断で休ませた場合
会社(使用者)の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります(資料1・4−問4)。
なお、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するとして支払う休業手当の金額は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)とされています(労基法26条)。
社員が自主的に休まないが、不可抗力で休業せざるを得ない場合
一方、社員が休まないものの、不可抗力で休業せざるを得ない場合には、会社(使用者)に休業手当の支払義務はありません(資料1・4−問7)。
不可抗力による休業といえるためには、
- その原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たす必要があります。
1に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。
2に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。
具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、
- 自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
- 労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。
したがって、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。
ご質問のケースについて
以上からすると、今回出社を希望した社員が自主的に休まないために貴社から自宅待機を指示した場合、2(2)イに該当することから、休業手当の補償が必要となります(就業規則を確認していただき、自宅待機を指示した場合の休業手当の金額をご確認ください。通常は60%とされているかと思われます。)。
今回の新型コロナウイルスの問題として非常に悩ましい点は、自宅待機を指示すれば休業手当を支払わなければならない一方、出社を指示して感染が拡大した場合には企業としての安全配慮義務違反を問われるリスクがあるということにあります。
このバランスをどのようにとるか、を状況をみながら考え続ける必要があります。
安全配慮義務のみを考えれば自宅待機を指示することになりますが、自宅待機を指示し続ければ事業の継続が困難となります。