ポイント
- クレーム対応の規定の作成、体制の整備を事前に構築することで現場を混乱させないことが大切です。
- クレームに関係する各当事者からヒアリングを行い事実関係の確認をします。
- 確認した事実関係をもとにリーガルリスクを検討し、企業の方針を決定します。
企業は、クレームに対してどのような体制を構築し、実際に発生したクレームに対してどのように対応すべきかで悩んでいる実情が多くみられます。
本稿では、クレーム処理の体制に言及し、実際にクレームが発生した場合の対応方法について紹介します。
クレームに対する体制の構築
担当者の役割を明確にする
厚生労働省が平成12年6月7日付けで通知した「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」が苦情処理体制の構築を考える企業の参考になります。
同通知によると、苦情解決責任者、苦情受付担当者、第三者委員という役割分担を定めています。
役割分担を明確に定めることで、クレームに対して迅速に対応することができます。
例えば、店舗で顧客から従業員に対する悪質なクレームが起きた場合、営業に支障をきたすことが懸念されます。
そのため、事前に苦情受付担当者を定め、顧客に苦情受付先を知らせれば現場での混乱をきたさずスムーズに対応できることになります。
また、顧客から「あなたでは話にならない、責任者を早急に出せ」などという要求を一度は経験した企業が多いと思われます。責任の所在が不明確であれば、現場に混乱をきたすだけではなく、顧客から企業としての責任を問われるリスクが高まることはいうまでもありません。
そのため、最終的なクレーム対応の責任者を定めることで、顧客からの悪質なクレームに迅速に対応する体制を構築する必要があります。
さらに、当事者双方に中立・公平な機関として、第三者委員会を設置し、弁護士等の専門家の協力を得て対応することも考えられます。
双方に中立な立場からの意見であれば、当事者が対応するよりも適切な解決を図れる可能性が高いからです。
なお、日本弁護士連合会では2010年12月17日作成の「「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の策定にあたって」では、外部者を交えた委員会を内部調査委員会と第三者委員会とに分別し、事案に応じた適切な対応を図るように推進しています。
各企業に顧問弁護士がいる場合の対応としては、内部調査委員会のメンバーに顧問弁護士を入れて対応している例が散見されることや費用を抑える点からも、まずは内部調査委員会による対応を検討することになるでしょう。
苦情解決のフローを確立する
同通知では、
- ① 利用者への通知
- ② 苦情の受付
- ③ 苦情受付の報告・確認
- ④ 苦情解決に向けての話合い
- ⑤ 苦情解決の記録・報告
- ⑥ 解決結果の公表
というフローを定めています。各フローを具体的な行動に落とし込むためには、さらなる詳細を定める必要があります。
例えば、①利用者への通知では、どのような内容をどのような方法で通知するのかを検討するにあたり、苦情解決の仕組みと目的、苦情解決の責任者の氏名等の内容やホームページでの公開、ポスターの作成等を各企業の実情に応じて決めていく必要があるでしょう。
企業の実情に応じて具体的な業務フロー案を作成した場合、一度、法務に精通する者のリーガルチェックを経ることが望ましいです。なぜなら、解決結果の公表を苦情解決のフローに組み込む場合、当事者のプライバシーに配慮した内容にしなければ、法的責任を問われかねないからです。
事実関係の確認
事実関係を確認する手順の一つの例として、
- ① 調査担当者を決定する
- ② 時系列表を作成し、事案の概要を把握する
- ③ 客観的証拠の調査・収拾をする
- ④ 第三者からヒアリングを行う
- ⑤ 当事者からヒアリングを行う
- ⑥ 時系列表に事実・主張・証拠との関係を整理する。
という例が考えられます。時系列表を作成しておくと、事案をすぐに把握でき、弁護士に説明する際にも非常に役立ちます。
リーガルリスクと企業方針
顧客として接するか悪質なクレーマーとして接するかの明確な判断基準の一つの指標として、法的要求を超えたものか否かという点が一つの目安になります。
悪質なクレーマーを従業員に対応させたままでは、従業員のメンタルヘルスに多大な影響を与え、うつ病などに罹患して休職し、ひいては企業の健康配慮義務違反の問題につながります。
また、悪質なクレーマーに対する企業の損失は、弁護士費用よりも少ないと考えられるのではないでしょうか。弁護士に委任せずに、長期間にわたり悪質なクレーマーに対応し続けることは、法的にリスクがある発言をしている可能性が高まること、従業員が対応し続けることによる人件費の損失、従業員自身のメンタルヘルスケアのリスク、さらに根も葉もない事実を拡散されることによるレピュテーションリスクに常にさらされ続けることになります。
したがって、悪質なクレーマーに対しては、弁護士と連携し、交渉の担当窓口を直ちに弁護士に移すべきです。
悪質なクレーマーは、従業員に対しては法的要求を超える過剰な要求をし従業員を疲弊させ続けますが、弁護士に対して法的要求を超える過剰な要求をしても、法的要求の範囲以外の要求に応じない旨を伝えられれば、沈静化する傾向にあります。
リーガルリスクの検討では、①欠陥・瑕疵の存否、②故意・過失の存否、③損害の存否、④①ないし③の間の相当因果関係⑤クレーマーの要求と損害の関連性⑥クレーマーの行為態様です。
特に⑤ないし⑥について説明します。
⑤は、例えば、社長が出てきて謝罪しろ、記者会見で謝罪しろ、謝罪広告を出せなどという要求です。名誉毀損が問題となっているならば損害と要求に関連性はありますが、商品の欠陥があったという損害と社長が出てきて謝罪しろという要求との間には関連性がありません。
法的な分析をせずに、要求されたまま社長が謝罪したならば、法的責任を認めたじゃないかと更に要求する自体に陥ることは、火を見るより明らかです。
⑥は、①ないし⑤が認められたとしても、街宣活動やインターネット掲示板での不買運動、企業としての名誉を毀損する行動などの行動を取っている場合には、別途、不法行為となりうる行為かつ、業務妨害罪という犯罪にもなりかねません。
①ないし⑤が認められたとしても、企業に責任があるのだから黙っているべきだなどという考えではなく、刑事告訴等の対応をすべきです。
以上より、クレーマーに対する体制を構築し、構築した体制に基づき事実関係を確定し、確定した事実関係をもとにリーガルリスクを検討し、リーガルリスクの検討結果をふまえた上で、経営者としてどのような方針をとるかいう最終的な意思決定をするプロセスとなります。
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