はじめに

同一労働同一賃金の実現が叫ばれる中で、「均衡待遇」「均等待遇」といった用語が使われていますが、その違いを正確に把握していないと、法令適合を誤解するリスクがあります。パートタイム・有期雇用労働法では、不合理な待遇差を設けないよう、正社員と非正規社員の職務内容や責任、転勤範囲などを踏まえながら、均衡または均等の原則を守ることが求められます。

本記事では、均衡待遇と均等待遇の定義や考え方の違い、どのように企業が対応すべきかを解説します。不合理差を放置したままだと、紛争や裁判に発展し得るため、正社員・非正規社員の業務内容と賃金体系を検証し、適切な制度設計を行うことが大切です。

Q&A

Q1. 均衡待遇と均等待遇はどう違うのでしょうか?

簡単に言うと、

  • 均衡待遇
    正社員と非正規社員の職務内容や責任が一部異なる場合でも、その差に見合った範囲で待遇を調整すること(不合理な格差は禁止)。
  • 均等待遇
    職務内容や責任、配置転換範囲が全く同じの場合は、同じ待遇を与える必要がある。
Q2. 同じ仕事ではないなら差をつけても問題ない、という理解でよいでしょうか?

一概に「全く同じでないから差をつけても許される」というわけではありません。 職務が一部異なっても差の程度が大きすぎれば不合理と認定される場合があります。差をつけるなら、差異に応じた合理的根拠が説明できることが重要です。

Q3. 均衡待遇が必要な場面の例は何でしょう?

例えば、非正規社員が正社員と類似の業務を行うが、転勤や責任範囲が正社員ほど広くないケースです。この場合、手当や賞与などをまったくゼロにするのではなく、差があるなら具体的な理由を示し、差の度合いが不合理に大きくないか検討する必要があります。

Q4. 均等待遇が求められる場面とは?

非正規社員が正社員と職務内容や責任、配置範囲が全く同じ(または非常に近い)場合です。この場合、各手当、福利厚生は正社員と同等に扱わなければ不合理差とされる可能性があります。

Q5. 企業は具体的にどのように均衡・均等待遇を設計すれば良いのでしょうか?.
  1. 職務分析(業務内容、責任度合い、転勤可能性など)
  2. 正社員と非正規社員の差異をリストアップ
  3. 差に応じて賃金や手当を検討し、合理的理由が説明できるようにする
  4. 就業規則や賃金規程に反映し、不利益がある場合は段階的に是正

外部専門家の助言やガイドライン、判例を参考に体系的に取り組むことが重要です。

解説

均衡待遇とは

  1. 不合理差の禁止
    非正規社員が正社員と職務内容・責任範囲が一部異なる場合、差をつけること自体は認められ得るが、その差の程度が職務の違いに見合わない場合は違法。
  2. 賃金や手当の比較
    基本給、賞与、各種手当、福利厚生など、それぞれ業務や成果に対応した差であるかを検討。
  3. 説明責任
    非正規社員が「なぜ正社員と手当が違うのか」質問したら、会社が根拠を明確に示さなければならない。

均等待遇とは

  1. 業務内容と責任が同じ場合
    転勤可能性や業務範囲、責任レベルを含め、実質的に正社員と同じならば、同等の待遇(賃金・手当・福利厚生)を支給する必要がある。
  2. 不完全な同一性
    違いがあれば均等待遇は必須でない。だが、差を設ける場合は正当化理由が必要となる。
  3. 判断基準
    「職務内容」「配置転換範囲」の2つで全面的に同じかどうかを総合評価。

具体的項目での見直し

  1. 基本給
    基本給の計算方法が正社員と同じなのか、職能や成果に応じた賃金体系をどう適用するのか明確に。
  2. 手当(通勤、住宅、家族、皆勤など)
    仕事の遂行に必要な経費や勤務実態に関連する手当であれば、非正規社員にも同等または比例的な支給が原則。
  3. 福利厚生(食堂、休憩施設、研修等)
    正社員だけ無料・補助あり、非正規は自己負担、利用不可などは不合理差と判定される場合が多い。

実務対応の流れ

  1. 現状把握
    賃金・手当項目を洗い出し、正社員と非正規社員の比較表を作成して差異を明確化。
  2. 業務内容と責任範囲の確認
    非正規社員の業務がどこまで正社員と同じか、違う部分は何かを定義し、差を説明できるようにする。
  3. 規程改定・社内説明
    賃金や手当の改定が必要なら段階的な是正計画を作り、労使協議を経て就業規則を変更し、説明会やQ&Aを実施。
  4. 継続的見直し
    運用後も定期的に現場の実態を確認し、判例やガイドラインの更新に合わせて制度をアップデートする。

弁護士に相談するメリット

同一労働同一賃金、特に均衡待遇・均等待遇の判断は複雑であり、企業が独自に見直しても客観性が不十分な場合があります。弁護士に相談すると以下のメリットが得られます。

  1. 不合理差の具体的検証
    企業内の各職種・雇用形態を比較し、裁判例やガイドラインに照らして問題点を提示。
  2. 就業規則・賃金規程の改定サポート
    不合理差を是正し、適正な賃金・手当構造を構築するための法的助言や文案作成を行う。
  3. 従業員への説明支援
    不利益変更や差額支給などの手続きで労使トラブルが起きないよう、労使協議や説明会の進め方をアドバイス。
  4. 紛争対応
    すでに不合理差を巡る裁判や労働審判が起きた場合、企業の代理人として主張立証し、最適な解決を図る。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、様々な労務問題に対応してきた実績があり、企業に合わせた実践的なサポートを行います。

まとめ

  • パートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)の下で、正社員と非正規社員との不合理な待遇差が禁止され、「均衡待遇」「均等待遇」の考え方が求められます。
  • 均衡待遇では、職務内容や責任が異なる場合でも、その違いに応じた合理的な賃金・手当差でなければ違法となります。一方、均等待遇は正社員と同一内容の業務責任を負う非正規社員には同等の待遇を支給しなければならないというものです。
  • 企業は就業規則や賃金規程を見直し、各手当・賞与・福利厚生の差を業務内容や責任範囲で説明できるようにし、従業員から説明を求められたときには根拠を明確化することが必要です。
  • 弁護士に相談すれば、法的観点から職務分析・差の合理性検証、就業規則改定や労使協議対応まで包括的サポートを受けられ、不当な待遇差による訴訟リスクを軽減することが期待できます。

企業としては、同一労働同一賃金の実現が社会的にも求められており、今後の法改正や判例動向を注視しつつ、不合理差是正に取り組むことが大切です。


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