はじめに
最初の法廷―何をすべきで、何をすべきでないか
訴状が届き、答弁書を提出すると、いよいよ最初の裁判の日、「第1回口頭弁論期日」がやってきます。法廷に立つのは初めてという方がほとんどでしょう。「裁判官から厳しい質問をされるのではないか」「何を準備すればいいのか」と、大きな不安を感じているかもしれません。
しかし、被告にとって、第1回口頭弁論期日は、実はそれほど身構える必要のない、形式的な手続きで終わることがほとんどです。テレビドラマのように、証人が呼ばれたり、当事者が激しく言い争ったりするような場面はまずありません。むしろ、この期日をどう利用するかが、その後の防御戦略のポイントになります。この記事では、被告側の視点から、第1回口頭弁論期日にどのように対応すべきか、出頭は本当に必要なのか、そして被告に認められた重要な権利について詳しく解説します。
Q&A
Q1. 第1回口頭弁論期日は、だいたいどのくらいの時間で終わりますか?
驚くほど短時間で終わることがほとんどです。実質的な審理は行われず、主に訴状と答弁書の内容を確認し、次回期日の日程調整をするだけなので、通常は5分から10分程度で終了します。
Q2. 答弁書を提出して第1回期日を欠席した場合、裁判所から期日の結果について何か連絡はありますか?
弁護士に依頼せず、本人が対応している場合、裁判所から「次回の期日は〇月〇日になりました」といった連絡が電話や書面で来ることが一般的です。弁護士に依頼している場合は、出頭した弁護士から、期日の内容と次回期日について「期日報告書」などの形で詳細な報告があります。
Q3. 第1回口頭弁論期日に、裁判官からいきなり和解を勧められることはありますか?
可能性はゼロではありませんが、一般的ではありません。第1回期日は、まだお互いの主張が出揃っていない段階です。裁判官が和解を勧めるのは、ある程度、双方の主張や証拠が出揃い、争点が明確になった段階(通常は第2回期日以降)であることが多いです。ただし、事件の内容によっては、裁判官が早期解決を促すために、初回の期日から和解の意向を尋ねてくるケースもあります。
解説
被告に与えられた権利―「擬制陳述」の活用法
被告にとってポイントは、第1回口頭弁論期日に出頭すべきか否かです。法律上の原則は出頭することですが、民事訴訟法には、被告を保護するための特別なルールがあります。
それが、「被告が、答弁書を期限内に提出していれば、第1回口頭弁論期日に限り、欠席しても答弁書に記載した事項を法廷で陳述したものとみなす」という制度です。これを「擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)」または「陳述擬制」と呼びます。
この制度は、訴訟の準備に十分な時間があった原告に対し、突然訴えられた被告が反論を準備するための時間を確保するという、手続き上の公平を保つために設けられています。被告に与えられた、正当な権利なのです。
【擬制陳述を利用するメリット】
- 時間と費用の節約:裁判所が遠方の場合、交通費や移動時間といった負担をなくすことができます。
- 精神的負担の軽減:法廷という非日常的な空間に行く精神的なストレスを回避できます。
- 準備時間の確保:擬制陳述を利用することで、第1回期日から第2回期日までの時間(通常約1ヶ月)を、本格的な反論(準備書面の作成)のための準備期間として有効に活用できます。
【擬制陳述の注意点】
- 答弁書の提出が絶対条件:答弁書を提出せずに欠席すると、原告の主張をすべて認めたものとみなされ、即日敗訴判決(欠席判決)が下されます。
- 使えるのは第1回期日だけ:この特例は最初の期日限定です。第2回期日以降に正当な理由なく欠席すると、同様に欠席判決のリスクが生じます。
第1回期日に出頭する場合の準備と心構え
擬制陳述を利用せず、出頭することを選択した場合の準備は以下の通りです。
- 持ち物:裁判所から届いた書類一式(訴状、呼出状など)、提出した答弁書の控え、印鑑(認印)、スケジュールが分かるもの(次回期日の調整のため)。
- 服装:特に決まりはありません。スーツである必要はなく、社会人として常識の範囲内の清潔感のある服装(普段着)で問題ありません。
- 心構え:前述の通り、実質的な議論はほとんどありません。裁判官から何か質問されることも稀です。主に次回期日の日程調整が中心になる、とリラックスして臨みましょう。当日の大まかな流れは、①当事者の確認、②訴状と答弁書の内容をそれぞれ「陳述します」と確認する形式的な手続き、③次回期日の調整、で終了します。
弁護士に依頼した場合のメリット
弁護士に訴訟対応を依頼した場合、あなたは裁判所に行く必要は基本的にありません。
- 代理人として弁護士が出頭
弁護士があなたの代理人として、すべての期日に出頭します。あなたは仕事や日常生活を中断することなく、訴訟を進めることができます。 - 裁判官との円滑なコミュニケーション
弁護士は、法廷で裁判官と専門用語を用いて円滑にコミュニケーションをとり、今後の審理の進め方(争点整理の方法など)について協議したり、次回期日の調整を行ったりします。 - 依頼者への報告
期日終了後、弁護士は、その日の法廷でのやり取りや決定事項、今後の見通しなどをまとめた「期日報告書」を作成し、依頼者に報告します。これにより、依頼者は裁判所に行かなくても、訴訟の進行状況を正確に把握できます。
まとめ
被告にとって、第1回口頭弁論期日は、本格的な戦いの前の「仕切り直し」のようなものです。答弁書をきちんと提出しておけば、「擬制陳述」という制度を利用して欠席することも可能であり、それは被告に認められた正当な権利です。出頭するにせよ、欠席するにせよ、重要なのは、この第1回期日まで、そしてその後の第2回期日までの期間を、いかに有効に使って反論の準備を整えるかです。この期日は、戦いが始まる場所ではなく、今後の戦い方を決めるための始まりと捉えるべきでしょう。
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