はじめに

答弁書とは、法廷における被告の「第一声」である

裁判所から訴状が届き、被告となったあなたが、原告に対して最初に行う公式な反論。それが「答弁書」です。この答弁書は、あなたが原告の請求に対してどのような立場をとるのかを裁判所に表明する重要な書面です。それは、単なる反論書ではありません。あなたを一方的な敗訴判決(欠席判決)から守る「盾」であり、今後の防御活動すべての「土台」となるものです。

特に、第1回の口頭弁論期日にやむを得ず出頭できない場合でも、この答弁書を期限内に提出しておけば、あなたの言い分を主張したとみなされ、最悪の事態を避けることができます。この記事では、答弁書の根幹をなす2つの要素、「請求の趣旨に対する答弁」と「請求の原因に対する認否」について、その書き方の基本を解説します。 

Q&A

Q1. 反論の内容がまだ具体的にまとまっていません。とりあえず、答弁書には何を書けばよいのでしょうか?

詳細な反論が間に合わない場合でも、最低限、「請求の趣旨に対する答弁」で「原告の請求を棄却する。」と明確に記載し、争う姿勢を示すことが重要です。そして、「請求の原因に対する認否」については、「追って主張する」と記載して提出します。これを「とりあえずの答弁書」と呼び、裁判実務上も認められた対応です。これにより、欠席判決を回避し、詳細な反論を準備する時間を確保できます。

Q2. 原告の主張の一部は事実です。答弁書で正直に「認める」と書いても大丈夫でしょうか?

事実であることまで争う必要はありません。しかし、何を「認める」かは慎重な判断が必要です。一度、答弁書で「認める」と記載した事実は、法律上「裁判上の自白」となり、原則として後から「やはり間違いでした」と覆すことができなくなります。その事実を前提として裁判が進むため、安易な自白は致命傷になりかねません。どの部分が法的に重要な事実で、認めても問題ないのか、あるいは争うべきなのか、弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 答弁書に、原告に対する感情的な不満や文句をたくさん書いてもよいですか?

お勧めできません。答弁書は、裁判官に読んでもらうための公的な書面です。感情的な表現や、事件と直接関係のない人格攻撃などを書いても、法的な主張としては意味がなく、かえって裁判官に悪い心証を与えかねません。主張すべきは、あくまで法的な観点からの反論です。冷静かつ論理的に、事実に基づいて記載することが重要です。

解説

答弁書の心臓部―「請求の趣旨に対する答弁」

これは、訴状の「請求の趣旨」(原告が判決で最終的に求めている結論)に対する、あなたの応答です。ここで、あなたが原告の請求に応じるつもりがないことを宣言します。この部分は、今後の訴訟の方向性を決定づける、答弁書の心臓部と言えます。

争う場合の「お決まりのフレーズ」

原告の請求を全面的に争う場合、以下の2つの文章を書くのが定型となっています。これは、いわば「魔法の言葉」のようなもので、これさえ書いておけば、争う意思があることが裁判所に明確に伝わります。

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

「原告の請求を棄却する。」とは、「原告の言い分には法的な理由がないので、裁判所は原告の請求を退けてください」という意味です。

「訴訟費用は原告の負担とする。」とは、「この裁判にかかった費用(収入印紙代など)は、最終的に負けるであろう原告が支払うべきです」という意味の、勝訴を見越した宣言です。

この2つのフレーズは、ほぼすべての答弁書で冒頭に記載される、重要な部分です。

訴訟の戦場を画定する―「請求の原因に対する認否」

次に、訴状の「請求の原因」(原告が請求を裏付けるために主張している具体的な事実)の一つ一つの文章に対して、あなたの言い分を表明していきます。これを「認否(にんぴ)」と呼びます。認否は、原告が証拠によって証明しなければならない事実(争点)を明確にするための、重要な作業です。認否には、主に以下の3種類があります。

認める(自白)

原告の主張する事実が、その通りであると認めることです。一度「自白」した事実は、裁判所もその事実があったものとして判断し、原告はその事実を証明する必要がなくなります。この自白は、それが真実に反し、かつ事実誤認に基づいていたことを証明しない限り、原則として撤回できません。法的にどのような意味を持つかを理解せずに些細な事実を認めた結果、訴訟全体で不利になるケースもあるため、極めて慎重な判断が求められます。

否認する

原告の主張する事実が、真実と異なると否定することです。被告が「否認」した事実は、原告が証拠をもって真実であることを証明しなければなりません。なぜ否認するのか、その具体的な理由は、後の「準備書面」という書面で詳しく主張していくことになります。

知らない(不知)

原告の主張する事実について、自分は関知しておらず、本当かどうか分からないと表明することです。例えば、自分以外の第三者の行動に関する主張などがこれに当たります。法律上、「不知」と述べた事実は、「否認」したものと推定されます。つまり、これも事実を争うという明確な意思表示であり、原告に証明責任を負わせる効果があります。

【認否の具体例:貸金請求事件】
  • 【訴状の請求の原因】
    1. 原告は、令和6年4月1日、被告に対し、金100万円を貸し渡した。
    2. 上記貸金について、弁済期は令和7年3月31日と合意した。
    3. 被告は、上記弁済期を徒過したにもかかわらず、現在に至るまで何らの返済もしていない。
  • 【答弁書の認否】
    1. 請求の原因1の事実は認める
    2. 同2の事実は否認する。弁済期は令和8年3月31日と合意した。
    3. 同3の事実は否認する

このように、原告の主張を項目ごとに分解し、それぞれに対して的確に認否を行うことが、反論の土台作りとなります。

まとめ

答弁書は、被告に与えられた最初の反論の機会です。その基本は、「請求の趣旨に対する答弁」で争う姿勢を明確に示し、「請求の原因に対する認否」で原告の主張する事実を丁寧に仕分けることです。この最初のボタンを掛け違えると、その後の防御活動に大きな支障をきたす可能性があります。安易な判断で法的に不利な自白をしてしまったり、主張すべき点を見誤ったりしないためにも、答弁書の作成は、訴訟実務に精通した弁護士に相談することをお勧めします。


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