はじめに

「裁判を起こすには、費用がかかる」ということは、多くの方が漠然とご存じかと思います。その費用のうち、訴訟を提起する際に必ず国に納めなければならないのが、手数料としての「収入印紙」です。この収入印紙の金額は、請求する内容によって異なり、その計算は専門的な知識を要する場合があります。

もし金額を間違えてしまうと、裁判所から補正(修正)を求められ、スムーズな訴訟の開始が妨げられてしまいます。紛争の迅速な解決を目指す上で、この最初のステップを正確にクリアすることは、意外に重要です。

この記事では、民事訴訟における手数料の根幹である「収入印紙」について、その金額がどのように決まるのか(「訴額」の考え方)、具体的な計算方法、そして購入や提出の際の注意点まで解説します。

Q&A:収入印紙に関するよくある疑問

Q1. 訴状に貼る収入印紙の金額を間違えてしまいました。どうすればよいですか?

金額が不足していた場合は、裁判所の書記官から連絡があり、不足分を追加で納めるよう「補正命令」が出ます。指示に従って追加納付すれば、訴えは受理されます。

Q2. 訴訟の途中で和解が成立したり、訴えを取り下げたりした場合、貼った収入印紙は返ってきますか?

はい、一定の条件下で一部が還付される可能性があります。具体的には、第一審の口頭弁論が終了する前に、和解が成立したり、訴えを取り下げたりした場合には、納めた印紙代の2分の1に相当する額の還付を受けることができます(民事訴訟費用等に関する法律第9条)。ただし、この場合も自動的に返還されるわけではなく、裁判所に対して「手数料還付の申立て」という手続きを行う必要があります。

Q3. 謝罪広告の掲載など、金銭に換算しにくい請求の場合、収入印紙はどう計算するのですか?

このように、請求の内容が金銭の支払いではない、または金銭に見積もることが難しい「非財産権上の請求」の場合、訴額は160万円とみなして計算することになっています(民事訴訟費用等に関する法律第4条第2項)。したがって、この場合の収入印紙額は、訴額160万円として計算した13,000円となります。

解説:訴状に貼る収入印紙のすべて

1. なぜ訴訟に収入印紙が必要なのか?-裁判所に納める「手数料」

民事訴訟は、国民が利用できる公的な紛争解決制度です。この司法サービスを利用するための手数料として、訴えを提起する原告は、国に対して法律で定められた手数料を納付する義務があります(民事訴訟費用等に関する法律第3条)。この手数料を、現金ではなく「収入印紙」という証票で訴状に貼付して納めるのが、日本の裁判実務のルールです。この印紙代は、最終的に敗訴した側が負担するのが原則です(訴訟費用の負担)。

2. 印紙代を決める「訴額」とは?

納めるべき収入印紙の額を算出するための基礎となるのが「訴額(そがく)」です。訴額とは、その訴訟で原告が主張する利益を金銭的に評価した金額を指します。

訴額の基本的な考え方

訴額は、簡単に言えば「その裁判で、いくら分の利益を求めているか」という価額です。請求する内容によって、その算定方法は異なります。

金銭請求の場合の訴額

これは最も分かりやすく、請求する金額そのものが訴額となります。

  • 貸したお金100万円の返還を求める場合
    → 訴額は100万円
  • 不法行為による損害賠償金500万円を求める場合
    → 訴額は500万円
  • 未払いの売買代金300万円と、それに対する遅延損害金50万円を併せて請求する場合
    → 原則として元本である300万円が訴額となります。利息や遅延損害金は、通常、訴額には含めません(附帯請求)。

3. 収入印紙額の計算方法と早見表

訴額が確定したら、以下の速算表に基づいて手数料(印紙額)を計算します。

訴訟手数料額 速算表
訴額 計算式
100万円まで 訴額10万円までごとに1,000円
100万円を超え500万円まで (訴額 - 100万円) ÷ 20万円 × 1,000円 + 10,000円
500万円を超え1,000万円まで (訴額 - 500万円) ÷ 50万円 × 2,000円 + 30,000円
(以下省略)  
具体的な計算シミュレーション

例:訴額250万円の損害賠償請求

  • 計算式:(250万円 - 100万円) ÷ 20万円 × 1,000円 + 10,000円
  • = 150万円 ÷ 20万円 × 1,000円 + 10,000円
  • = 7.5 × 1,000円 + 10,000円
  • = 8,000円(※端数は切り上げ) + 10,000円 = 18,000

4. 収入印紙の準備と提出における注意点

  • どこで買う?収入印紙の購入場所
    収入印紙は、郵便局の窓口、法務局内の印紙売りさばき所、または一部のコンビニエンスストア(通常は200円の印紙のみ)で購入できます。高額な印紙(1,000円を超えるものなど)は、大きな郵便局でないと在庫がない場合があるため、事前に電話で確認すると確実です。
  • どう貼る?訴状への貼付方法
    計算した金額分の収入印紙を、訴状正本(裁判所に提出する原本)の1枚目、左上の余白部分に貼り付けます。複数の印紙を貼る場合は、重ならないように並べて貼ります。

弁護士に相談するメリット

収入印紙の計算と納付は、訴訟提起における基本的な手続きですが、専門的な判断が求められる場面も少なくありません。

  1. 正確な訴額の算定
    特に不動産が絡む事件や、請求が複数ある事件では、訴額の算定が複雑になります。弁護士は、法律の規定と実務の運用に基づき、正確な訴額を算定し、適切な印紙額を算出します。
  2. 手続きの代行による負担軽減
    固定資産評価証明書の取得、印紙の購入、訴状への貼付といった一連の事務手続きをすべて代行します。依頼者は、これらの煩雑な作業から解放され、事件そのものに集中できます。
  3. 補正リスクの回避
    計算ミスや貼付方法の誤りによる裁判所からの補正命令は、時間のロスにつながります。弁護士に依頼すれば、こうした初歩的なミスを防ぎ、訴訟をスムーズにスタートさせることができます。
  4. 費用対効果の検討
    訴訟にかかる印紙代などの実費と、勝訴した場合に得られる経済的利益、そして弁護士費用を総合的に比較検討し、「そもそも訴訟を提起することが経済的に合理的なのか」という根本的な問題についても、アドバイスを受けることができます。

まとめ

収入印紙は、単なる切手のようなものではなく、司法サービスを利用するための対価として納めるべき、法的に定められた手数料です。その金額は「訴額」という専門的な基準によって決まり、正確な計算と適切な方法での納付が求められます。

特に、請求内容が複雑で訴額の算定に自信がない場合や、手続きに時間をかけたくない場合には、専門家である弁護士に相談することが最善の選択肢と言えるでしょう。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、訴訟費用の見通しを含め、紛争解決に向けた最適なアプローチをご提案いたします。お困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。


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