はじめに

一つの債権を保証するために、複数の不動産に対して抵当権を設定する方法を「共同担保」と呼びます。また、別の概念として共同抵当という用語もあり、複数物件に設定された抵当権の順位関係や配当手続きが複雑に入り組むケースも珍しくありません。

本稿では、共同担保や共同抵当の具体例や、利害関係者が注意すべきポイント、登記の仕組みや配当時の優先順位などを解説し、債権者・債務者が安全かつ確実に担保を取扱うための知識を提供します。

Q&A

Q1.共同担保とは何ですか?

「共同担保」とは同じ債権を担保するために、複数の不動産に抵当権を設定する形態を指します。
例えば、A銀行がXに1億円を貸し付けるに際し、X所有の甲土地と乙建物にそれぞれ抵当権を設定するなど。これにより債権者は両不動産から優先弁済を受けることが可能です。

Q2.「共同抵当」とは何が違うのでしょうか?

法律上は「共同担保」という用語が一般的ですが、複数の不動産に同順位で抵当権を付けているケースを指す場合、俗に「共同抵当」と呼ぶこともあります。

  • 複数物件に抵当権を設定するとき、登記の「共同担保目録」に記載されるなど実務上の違いがありますが、本質的には「同じ債権に対する抵当権が複数不動産に設定されている」という点は同じです。
Q3.共同担保を設定するメリットは何でしょうか?

主なメリットは次の通りです。

  1. 担保価値の増強
    1つの不動産だけでは融資額に見合わない場合、複数の不動産を合算することで大きな担保価値を確保。
  2. 分割処分の柔軟性
    将来、債権の一部を弁済して物件1つだけ抵当権抹消するといった部分的な解消ができる場合もある。
  3. 追加融資の取りやすさ
    企業が複数不動産を一括担保に入れた方が金融機関から大口融資を受けやすいことが多い。
Q4.共同担保を設定する際の注意点やリスクは?

大きくは以下があります。

  1. 登記順位管理
    他の抵当権や差押えがある場合、登記の順位関係が複雑になり、競売・配当時に混乱が生じる。
  2. 部分的抹消の交渉
    複数物件のうち1つだけ抹消したいとき、債権者の承諾と手続きが必要。調整が難航する場合も。
  3. 二重抵当の可能性
    一部不動産だけに別の抵当権が後から設定されると、配当順位争いが激化する。
  4. 債権者間調整
    共同担保物件が複数の債権者に担保提供されるなど、利害関係者が多いと利害調整が困難。
Q5.弁護士に相談するメリットは?

共同担保や共同抵当は登記や配当計算が複雑で、複数の債権者や不動産が絡むと紛争リスクが高いです。弁護士のサポートにより、

  1. 契約書・登記計画
    共同担保設定時の契約条項や登記手続きを弁護士がチェックし、優先順位の確保を間違えない。
  2. 配当計算・利害調整
    競売・任意売却時の配当額を的確に算出し、各債権者へ分配案を示す。
  3. 二重抵当・順位争い対応
    他の抵当権者との紛争や債務者との折衝を弁護士が代理し、裁判・調停で解決を図る。

解説

共同担保の実務例

  1. 企業が複数の工場・倉庫を担保
    • A銀行からの融資3億円に対し、X社が所有する工場土地(1億円相当)と倉庫土地(2億円相当)の2件を共同担保設定。
    • 返済進捗に応じて、一部の不動産のみ抹消希望があれば別途協議。
  2. 個人が複数のアパートを担保
    • 不動産投資家がB銀行から2億円を借りる際、2棟のアパートを同時に担保提供。
    • 将来、1棟だけ売却する場合、売却金で一部返済し、B銀行が差し替え担保や抹消に応じる形を検討。

共同抵当の配当手続き

  1. 同一債権に対する複数不動産の抵当権
    • 競売・任意売却で1つの不動産が売却された資金では債務が完済できないとき、他の不動産にも抵当権実行が及ぶ。
    • 買い手が「先に売却した物件だけで債権が満たされるか」を確認できない場合があり、取引上の不安要因になることも。
  2. 共同担保物件それぞれの登記順位
    • 甲土地・乙建物ともに同日に設定登記をすれば、いずれも第1順位抵当になる形が多い。
    • 後から追加で設定する場合、順位合意や債権者同士の承諾を得なければならない場合がある。
  3. 部分弁済・一部抹消
    • 債務者が一部を完済したから、甲土地の抵当だけ抹消してほしいなどの場合、事前に契約書で「どの程度返済すればどの物件を抹消可能か」を定めることがある。

優先順位争いの具体事例

  1. 別の債権者が後から抵当権設定
    甲土地・乙建物ともにA銀行が第1順位→ その後B銀行が乙建物に抵当権を設定し、第2順位となる。競売で乙建物からの配当はAが先。Bが残余を受け取るが、甲土地にはBの抵当権は及ばない。
  2. 登記日・受付番号の先後
    同日に2つの抵当権設定を申請した場合、受付順で順位が決まる。業務上のミスで順序が逆転すれば深刻な紛争に。

弁護士に相談するメリット

  1. 適切な契約・登記指導
    複数物件を担保に設定する際の契約書条項や登記スケジュールを弁護士がチェックし、順位ミスや手続き不備を防ぐ。
  2. 紛争対応(順位争い・差押え競合)
    借金返済不能時、競売・配当で他の抵当権者や税金滞納差押えと衝突する場合に弁護士が代理人として調停・裁判を行う。
  3. 部分弁済や担保抹消交渉
    一部返済で物件1つを自由にするなどの条件を交渉し、弁護士が債権者・債務者双方の利害を調整。

まとめ

  • 共同担保
    同一の債権を複数の不動産に抵当権設定して担保する。
  • 共同抵当
    俗に複数不動産に同順位抵当権を設定する形を指す。
  • メリット
    担保価値の合算で大口融資可、分割抹消の柔軟性、追加融資にも対応しやすい。
  • リスク・注意点
    • 複雑な順位争い(他の債権者が登記すると競合)
    • 部分的抹消や差替え担保が必要なときに債権者同意を要する
    • 競売・任意売却時の配当計算が煩雑
  • 弁護士活用
    契約時のリスク管理、優先順位をめぐる紛争対応、競売配当や一部抹消交渉のサポートで安全に取引を進行

共同担保や共同抵当は、複数の不動産を活用して大きな資金調達を可能にする便利な制度ですが、それだけに登記や契約内容に精密な法的管理が求められます。弁護士を含む専門家と連携し、リスクの芽を摘みながら堅実に運用することが重要です。


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