はじめに
ネット上で誹謗中傷の被害に遭ったとき、被害者が直面するのは、先の見えない不安です。「この問題は、一体いつ、どうすれば解決するのだろうか?」「何をどの順番で進めていけばいいのか分からない」と感じるのは、当然のことです。
しかし、誹謗中傷の対策には、ある程度確立された「流れ」や「手順」が存在します。この全体像、いわば問題解決までのロードマップをあらかじめ知っておくことで、あなたは今自分がどの地点にいるのかを把握し、冷静に、そして着実に次の一歩を踏み出すことができます。
この記事では、誹謗中傷の被害が発生してから、最終的な解決である損害賠償請求に至るまでの全てのプロセスを、4つのフェーズに分けて、具体的な手順、期間、費用の目安とともに、弁護士が解説します。
Q&A
Q1. 誹謗中傷の投稿者を特定して、損害賠償を請求するまで、全てのプロセスが終わるのに、どれくらいの期間がかかりますか?
事案の複雑さや相手方の対応によって大きく異なりますが、一つの目安として、投稿者を特定する(発信者情報開示請求)までに半年~1年程度、その後、特定した相手方と示談交渉や裁判を行うのにさらに半年~1年程度かかることがあります。つまり、最初から最後まで全ての手続きを行うと、合計で1年~2年、あるいはそれ以上の期間を要する可能性があります。
Q2. 投稿者を特定し、損害賠償を勝ち取った場合、それまでにかかった弁護士費用も全額相手に請求できますか?
損害賠償請求訴訟で勝訴した場合、弁護士費用の一部を加害者に負担させるよう請求すること自体は可能です。しかし、日本の裁判実務では、実際に相手に支払いを命じられる弁護士費用は、認められた損害額(慰謝料など)の1割程度となるのが一般的です。残念ながら、かかった弁護士費用の全額を回収できるケースは少ない、というのが現実です。
Q3. 裁判の途中で、加害者と和解(示談)することはできますか?
はい、どの段階でも和解(示談)することは可能です。投稿者を特定した直後の交渉段階だけでなく、裁判の途中でも、裁判官から和解を勧められることはよくあります。和解には、「裁判の判決よりも早期に解決できる」「加害者から直接の謝罪を受けられる場合がある」といったメリットがあります。一方で、判決で得られる可能性のある金額よりは低くなる傾向があります。弁護士と相談しながら、メリット・デメリットを比較検討して判断することになります。
解説
誹謗中傷対策の全体像(ロードマップ)
ネット誹謗中傷の対策は、大きく以下の4つのフェーズに分かれています。必ずしも全てのフェーズを経る必要はなく、例えば「フェーズ2:投稿の削除」だけで満足できれば、そこで終了となります。
- 【フェーズ1】被害発生と初動対応
- 【フェーズ2】投稿の削除
- 【フェーズ3】投稿者の特定
- 【フェーズ4】加害者への責任追及
それでは、各フェーズの具体的な手順、期間、費用の目安を見ていきましょう。
【フェーズ1】被害発生と初動対応
期間の目安:1日~数日
- Step 1:証拠保全
何よりもまず、誹謗中傷の証拠を保全します。投稿内容、投稿日時、URL、投稿者名(ID)が分かるように、画面全体のスクリーンショットを撮影・保存します。これが全ての法的措置の出発点となります。 - Step 2:弁護士への法律相談
保存した証拠を持って、ネットトラブルに強い弁護士に相談します。法的措置が可能か、どのような解決方法があるか、費用はどのくらいか、といった見通しを確認し、依頼するかどうかを決定します。
【フェーズ2】投稿の削除
期間の目安:数日~3ヶ月程度
被害回復の第一歩として、問題の投稿をネット上から削除することを目指します。
- Step 3-1:任意での削除請求(送信防止措置請求)
弁護士が代理人として、サイト管理者(SNS事業者や掲示板の管理人など)に対し、プロバイダ責任制限法に基づき、投稿の削除を求める請求書を送付します。サイト側がこれに応じれば、比較的早期に削除が実現します。 - Step 3-2:裁判所を通じた削除請求
サイト管理者が任意の削除に応じない場合は、裁判所に対して「投稿記事削除の仮処分」を申し立てます。これは通常の裁判よりも迅速に進む手続きで、裁判所が権利侵害を認めれば、サイト管理者に対して削除を命じる決定が出されます。
【フェーズ3】投稿者の特定
期間の目安:半年~1年程度
「誰が書いたのか」を突き止めるための、専門的かつ複雑な手続きです。「発信者情報開示命令」手続きが主流となっています。
- Step 4:発信者情報開示命令の申立て
- コンテンツプロバイダ(CP)への手続:裁判所に対し、サイト管理者(CP)を相手方として、投稿者のIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を求める「発信者情報開示命令」を申し立てます。
- アクセスプロバイダ(AP)への手続:CPからIPアドレスが開示されると、それを元に、投稿者が利用した回線事業者(AP)を特定。裁判所を通じてAPに対し、契約者の氏名・住所といった情報の提供を命じてもらいます。
- 投稿者情報の開示:APから、投稿者の氏名・住所が開示され、ついに加害者の正体が判明します。
【フェーズ4】加害者への責任追及
期間の目安:半年~1年半以上
特定した加害者に対し、金銭的な賠償や刑事的な処罰を求めていきます。
- Step 5:加害者との示談交渉
まずは弁護士が代理人として、加害者に対し内容証明郵便を送付し、慰謝料の支払いなどを求める交渉(示談交渉)を開始します。加害者が事実を認め、反省していれば、この段階で和解が成立し、早期解決となることも少なくありません。 - Step 6:民事訴訟(損害賠償請求訴訟)の提起
加害者が交渉に応じない、慰謝料の額で折り合わない、といった場合には、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。裁判官が双方の主張や証拠を元に、損害賠償の可否や金額について判決を下します。 - Step 7:刑事告訴(並行して検討)
民事上の責任追及とは別に、名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪などで加害者に刑事罰を与えたいと考える場合には、警察に「告訴状」を提出し、刑事告訴を行います。弁護士は、告訴状の作成や警察とのやり取りをサポートします。
弁護士に相談するメリット
この長く複雑な道のりを、被害者一人で進むのは現実的ではありません。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
- 全体像を見据えた最適な戦略
目先の削除だけでなく、投稿者特定、損害賠償という最終的なゴールまでを見据え、あなたの希望に沿った最適な戦略を立て、実行します。 - 迷路のような手続きの確実なナビゲート
被害者が道に迷いがちな複雑な法的手続きにおいて、弁護士は「今、何が行われているのか」「次に何をすべきか」を分かりやすく説明し、ゴールまで確実に導くナビゲーターの役割を果たします。 - 時間と費用のコントロール
豊富な経験に基づき、無駄な手続きを省き、最も効率的なルートを選択することで、結果として解決までの時間と費用の節約につながります。費用倒れのリスクについても事前に説明し、納得の上で手続きを進めます。 - 各プロセスを担う実行力
初動対応から、いくつもの裁判手続き、加害者とのタフな交渉まで、この複雑なフローの全てを、被害者の代理人として一貫して実行できる専門家です。
まとめ
ネット誹謗中傷の対策は、時に1年以上を要する長期戦になることもあります。しかし、そのプロセスには確立された「型」があり、全体像を理解しておくことで、見通しを持って冷静に取り組むことが可能になります。
【発生】→【証拠保全】→【削除請求】→【投稿者特定】→【損害賠償請求】→【解決】
この一連の流れは、法律と実務の専門知識がなければ乗り越えることは困難です。弁護士は、この一連の流れについて、依頼者をサポートします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、ネット誹謗中傷問題の解決プロセスを把握しており、依頼者が安心してゴールを目指せるよう、各段階で丁寧な説明とサポートを提供します。
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