はじめに
企業が経営難に直面した場合、倒産(破産・民事再生など)を真っ先に考える経営者が少なくありません。しかし、近年ではM&A(企業買収・合併)や事業譲渡を通じて、会社や事業そのものを他社に引き継ぐことで、債務整理と同時に事業継続を図る動きが活発化しています。たとえ債務超過であっても、事業のコア価値に魅力があれば、破産以外の選択肢が生まれるかもしれません。
本記事では、M&Aや事業譲渡と倒産手続(破産・再建型手続)との比較を行い、それぞれのメリット・デメリット、どのような企業が向いているかなどを解説します。経営者として、選択肢を広げることで、社員・取引先を守り、事業価値を残す道が開ける可能性もあります。
Q&A
Q1. M&Aや事業譲渡とはどう違うのですか?
- M&A(Merger and Acquisition)
株式譲渡や合併などにより、会社そのものの経営権を移転する行為。 - 事業譲渡
特定の事業部門や資産・負債を他社へ譲渡する行為。会社の全部を売却するわけでなく、一部事業だけを売るケースもある。
Q2. 倒産手続では事業を終えるのが基本ですが、M&Aを選ぶメリットは何ですか?
M&Aに成功すれば、事業自体は継続でき、従業員や取引先の関係を残しながら債務を整理可能です。破産や民事再生よりもスピード感を持って資金調達・債務整理が実現する場合があります。ただし、買い手企業が見つからないと成立しない点がデメリットです。
Q3. 借金が多い会社でもM&Aは可能でしょうか?
借金が多くても、事業の収益力や技術、ブランドなどに魅力があればM&A成立の可能性はあります。ただし、債務超過の程度や金融機関との協議が鍵となり、デューデリジェンス(買い手による精査)でマイナス要因が強いと交渉が破談になることも少なくありません。
Q4. M&Aと再建型倒産手続(民事再生など)はどのように使い分けるのでしょう?
- M&A・事業譲渡
買い手が存在し、事業を売却することで負債整理と事業継続を同時に実現できる場合に有力。 - 民事再生
買い手が見つからなくても、自身で再建を目指す場合の選択肢。債権者の同意と再生計画の遂行が必要。
Q5. 事業譲渡をした後も残る負債はどうなるのでしょうか?
事業譲渡は基本的に売却対象の資産・負債を選定できます。譲渡対象外となる負債は残存し、元の法人が処理しなければなりません。債権者との調整がまとまらない場合、最終的に破産や特別清算に移行するケースもあります。
解説
M&A・事業譲渡のメリット
- 事業継続と雇用維持
倒産手続(破産)では会社が消滅し、従業員が失業する可能性が高い。一方、M&Aや事業譲渡で買い手企業が事業を引き継ぐ場合、従業員の雇用や取引先とのビジネス関係が維持されやすく、社会的影響を抑えられます。 - 債務整理と資金確保
事業売却によって売却益が得られれば、負債整理の原資に充当可能です。さらに、破産ほどの社会的信用失墜を起こさずに済むため、経営者個人の再チャレンジの道が残りやすいです。 - 迅速な決着
成功すれば、手続が比較的短期で終わる場合があります。再生型倒産手続や破産に比べて債権者との調整が最小限で済む場合もあり、スピード感を持って事業を承継できます。
M&A・事業譲渡のデメリット
- 買い手の確保が必須
事業に買い手企業が興味を持たなければ成立しません。デューデリジェンスで財務状況やリスクが深刻だと判明すれば、交渉が破談になるケースも。時間と労力をかけて結局成立しないリスクがあります。 - 譲渡条件の交渉
買い手にとって不利な条件や過度な債務引き受けを押し付ければ、成立は難しいです。企業価値評価(バリュエーション)で大きな隔たりがあったり、買い手が低い価格を提示してくる可能性もあります。 - 一部の負債が残る可能性
事業譲渡の場合、譲渡対象外の負債は元の法人に残り、最終的に破産や特別清算をしなければならない場合があります。包括承継されるM&A手法(株式譲渡など)でも、連帯保証が残るなど代表者個人の問題は別に処理が必要です。
再建型倒産手続(民事再生・会社更生)との比較
- 再建型倒産手続
倒産状態でも自力で事業を継続・再生する手続。金融機関や債権者の同意を得つつ債務圧縮を図る。一方、M&Aは外部の買い手に事業を引き継ぐ点が大きく異なる。 - 相乗効果の可能性
民事再生手続中に一部事業譲渡などを活用して再生を成功させるパターンもある。たとえば、債務超過でも有望な事業部門のみ譲渡してスリム化し、本体を再建する戦略がとられることも。 - 手続の複雑さ
M&Aは買い手との交渉が難所、民事再生は債権者多数の同意形成が難所。どちらも相当の専門知識が必要であり、弁護士やM&Aコンサルタントのサポートが重要となる。
弁護士に相談するメリット
- M&A・事業譲渡の法的アドバイス
弁護士が契約書の作成・レビューや債権者対応を行い、適切なスキームを組むことで不正行為・偏頗弁済の疑いを回避しながら、事業譲渡や株式譲渡を実行できます。 - 交渉支援とデューデリジェンス対応
M&Aでは買い手側と価格や条件をめぐる交渉が不可欠。弁護士は企業価値評価の専門家(会計士など)と連携し、財務デューデリジェンスの対応に備え、法律面の論点を的確に処理します。 - 民事再生とのハイブリッド施策
民事再生手続中にも、一部事業をM&Aで売却し、得た資金で再生計画を遂行する手法が考えられます。弁護士が両手続の知識を併せ持てば、最適な戦略を立案しやすいでしょう。 - 連帯保証や個人負債にも配慮
経営者個人の連帯保証が絡む場合、M&Aで会社を売却しても個人保証が残る可能性が高いです。弁護士が個人破産や任意整理などの選択肢を示すことで、経営者個人の生活再建もサポートできます。
まとめ
M&Aや事業譲渡と倒産手続(破産・民事再生など)の比較は、会社の事業価値や利害関係者の構成によって最適な解が変わります。
- M&A・事業譲渡
事業を売却し、負債を整理。事業継続や従業員雇用維持が可能だが、買い手探しが難しい - 再建型手続(民事再生・会社更生)
自力で再建を目指すが、債権者多数の合意形成や計画遂行が課題 - 破産
法人の清算・終了。手続は比較的シンプルだが、事業は消滅し社会的信用が大きく低下
それぞれにメリット・デメリットが存在し、経営者としては自社の事業価値、負債構造、買い手候補の有無などを総合的に判断する必要があります。専門家と連携し、倒産だけではなくM&Aや事業譲渡も選択肢に含めて検討することで、最良の結論を導き出せるでしょう。
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