はじめに

労災保険は、労働者が業務上または通勤途中に負ったケガや病気について給付を行う制度です。しかし、業務災害通勤災害をどのように区別するか、また具体的な認定基準や手続きフローを誤ると、企業は給付トラブル安全配慮義務違反として責任を問われることがあります。

本記事では、業務災害と通勤災害の定義や線引き、保険給付手続きの流れ、企業がとるべき労災発生時の初動リスク管理を、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。適切な対応を行うことで、従業員が安心して働ける環境を整え、企業の責任リスクを最小化しましょう。

Q&A

Q1:業務災害と通勤災害の違いは何ですか?
  • 業務災害
    業務遂行中に発生したケガや病気で、業務と災害との間に相当因果関係がある場合を指します。具体的には社内作業、外回り業務中の事故、荷物運搬による腰痛など。
  • 通勤災害
    通勤経路上での災害で、合理的かつ通常の経路・方法による移動中に起こった事故など。通勤途中の交通事故や公共交通機関利用中の負傷が典型例です。
    いずれも労災保険の対象ですが、業務外の用事で寄り道していた等の場合は通勤災害が否定される可能性があります。
Q2:通勤途中で買い物や飲食店に寄った場合、労災認定されないのでしょうか?

合理的な範囲の寄り道(コンビニでの弁当購入等)は、通勤経路の逸脱とはみなされず、通勤災害が認められることがあります。一方、明らかに大きく外れた場所に行ったり、帰宅目的と無関係な長時間の寄り道をしていた場合、逸脱行為として通勤とは認められず、通勤災害から除外されます。

最終的には、労働基準監督署の判断となるため、企業は事実関係を正確に把握し、必要な証拠資料を収集することが重要です。

Q3:労災が発生したら、企業はどのような手続きをすべきでしょうか?

まずは被災者の救護二次災害防止が最優先。その後、労働者死傷病報告や保険給付申請など、労働基準監督署への必要書類を期限内に提出します。また、業務災害であれば企業が災害調査を行い、原因や再発防止策をまとめ、社内の安全衛生委員会や上司への報告を行います。

通勤災害の場合は、通勤経路交通手段などをヒアリングし、適正な給付申請の協力を行うのが一般的です。

Q4:企業が安全配慮義務違反で訴えられるケースとは?

業務災害が発生した原因が企業の安全管理不足である場合(危険作業に対する保護具不備、過度な長時間労働を放置するなど)、被災労働者や遺族から損害賠償(安全配慮義務違反)を追及されるケースがあります。

また、労災保険給付だけでなく、逸失利益慰謝料を企業に請求され、数千万円規模の賠償となる事例もあり得るため、企業は事前に安全衛生教育設備投資を徹底してリスクを減らす必要があります。

解説

業務災害の認定基準

業務遂行性

  • 労働者が企業の指揮命令下にある状態で仕事をしている最中に生じた災害かどうか。就業時間内であっても、私的行為(個人的な買い物など)に起因するケガは業務災害とは認められにくい。
  • 出張中の移動中でも、業務目的の移動なら業務遂行性が認められるが、観光などの逸脱行為があればその間は対象外となる。

業務起因性

  • 仕事の内容や作業環境がケガや病気を引き起こしたと言えるか、因果関係を確認。
  • 例えば、重量物運搬による腰痛、深夜労働過度な残業が原因の脳・心臓疾患など。業務との直接的関連がない場合は認定が難しい。

通勤災害の認定基準

合理的経路・方法

  • 自宅と就業場所の往復のうち、一般的に選択される通勤路や交通手段を利用しているか。必要範囲内の寄り道(コンビニなど)は容認されるが、大幅な逸脱は不可。
  • 途中で保育園への送り迎えなど、通勤途中で不可欠な行為も認められるケースがある。

通勤以外の目的

  • 大きく迂回して友人宅を訪問したり、趣味のイベント参加のために通勤路を離脱した場合、その区間は通勤から外れるので通勤災害は認められない。
  • ただし、逸脱後に再度合理的経路に復帰したら、そこから先は通勤とみなされる場合もあり、細かな判断となる。

労災保険給付の手続き

企業の初動対応

  • 災害が発生したら、まずは救護被災者のケアを最優先。同時に職場の安全確保と他の従業員への周知。
  • 事実調査を行い、労働者死傷病報告を労働基準監督署へ提出する。死傷者が出た重大災害の場合、電話やFAXで即時報告も必要。

給付請求のフロー

  • 被災労働者は、療養補償給付休業補償給付などを申請するが、企業が証明(様式に事業主が署名押印)する部分がある。
  • 企業は労災保険の手続きに必要な情報を協力し、賃金台帳やタイムカード、就業規則などの証拠を用意。事実関係に争いがない場合はスムーズに給付が受けられる。

労基署の認定

  • 労働基準監督署が業務上か通勤中かを審査し、労災認定の可否を判断。企業が「これは業務外」と主張しても、労基署が「業務起因性あり」と認定すれば労災保険が適用される。
  • 認定結果に不服がある場合は、不服申立てや行政訴訟などの救済手続きも存在するが、実務では慎重に対応すべき。

企業の安全配慮義務と再発防止

リスクアセスメントと対策

  • 業務災害の多くは、作業現場の危険要因や長時間労働が原因となる。企業はリスクアセスメントを実施し、安全衛生管理を強化することで災害を防ぐことが可能。
  • 定期的な安全衛生委員会や災害事例の共有、職場巡視などを通じてヒヤリ・ハットを減らし、労災ゼロを目指す仕組みが求められる。

通勤経路の見直し

  • 従業員が車通勤する場合、交通ルール保険加入の状況を企業も把握し、必要に応じて駐車場利用やルート制限を行う。
  • 会社が推奨する通勤方法や支給交通費との整合を取り、従業員に「通勤経路の変更時には報告を」など周知しておく。

災害後の再発防止策

  • 災害発生後は原因を詳細に分析し、設備投資や教育研修、配置転換など改善策を実行しなければ、同様の事故が再発して安全配慮義務違反が重く認定される可能性が高い。
  • 労働者に対する責任追及(懲戒など)よりも、組織としての原因究明と改善を重視する姿勢が重要。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、業務災害・通勤災害における労務リスクや保険給付手続きについて、以下のサポートを提供しています。

  1. 事故発生時の初動対応アドバイス
    • 労災事故が起きた際の救護・報告現場保存事実調査書類作成などを迅速に行うためのマニュアルを整備します。
    • 緊急時に企業がスムーズに動けるよう、電話やメールで即時対応の助言を行います。
  2. 安全配慮義務違反の防止策提案
    • 過去の災害事例を参考に、企業がどのような安全措置やリスクアセスメントを行うべきか助言し、就業規則や安全衛生規程の作成・改定を支援。
    • 産業医や安全衛生委員会との連携を補強し、長時間労働や過重労働リスクを抑える施策を検討します。
  3. 労災認定・給付手続きのサポート
    • 労働者が労災申請し、企業が「業務外」と主張する場合や、逆に企業が「業務災害だ」と協力しても労基署が認めない場合など、紛争が起きたときの代理交渉・訴訟対応を実施。
    • 必要な証拠収集や書面作成の指導を行い、企業に有利な認定が下りるようサポートします。
  4. 損害賠償請求・安全配慮義務訴訟への対応
    • 労災発生後、被災労働者や遺族から安全配慮義務違反で多額の損害賠償を請求された場合、企業側代理人として法的主張・立証を行います。
    • 和解交渉や裁判戦略を立案し、企業の責任を最小限に抑えるための方策を提案します。

まとめ

  • 業務災害は業務起因性と業務遂行性が認められる場合、通勤災害は合理的な通勤経路・方法中の事故が対象で、いずれも労災保険で補償される。
  • 企業は災害発生時に適切な初動対応(救護・報告・調査)と、労働者死傷病報告保険給付手続きを行う義務がある。また、安全配慮義務を怠れば民事上の損害賠償を負うリスクが高い。
  • 通勤災害では寄り道があった場合の線引きが問題になる。業務災害では業務と私的行為の境界を明確にし、適正に調査する必要がある。
  • 弁護士と連携し、就業規則や安全衛生規程を整備し、リスクアセスメントと再発防止策を徹底することで、企業は労災リスクを最小限に抑え、安全な職場環境を維持できる。

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