Case Study

顧問弁護士の活用事例

建設工事の瑕疵を巡る損害賠償請求を争い、請求額を大幅に減額して解決した事例

業種

建設工事全般を請け負う中小企業

お困りの問題

相談前の状況

X社(仮名・建設工事全般を請け負う中小企業)は、住宅や店舗などの土木工事など多岐にわたる工事を手がけていました。創業以来、地元で一定の評判と実績を積み上げ、顧客からの紹介案件も多く受注していました。しかし、とある施主(以下、「注文者」といいます)から「工事に欠陥がある」「予定していた施工内容と異なる不備が見つかった」として、約700万円にものぼる損害賠償請求を受ける事態に直面したのです。

問題となった工事は、注文者が所有する住宅の外構工事等を含むものでした。契約当初、注文者とX社との間では施工範囲や使用材料、工期などについて打ち合わせを重ね、工事請負契約を結んでいました。工事途中で注文者から追加の要望が出ることもあり、都度見積りを取り直すなど、比較的柔軟に対応してきましたが、注文者とのコミュニケーションに齟齬が生じ始めました。

完工後、注文者は施工箇所に不備がある等主張し、「自分が再修繕を行わなければならず、その費用等を合わせて700万円の請求をする」と申し入れてきたのです。X社としては、工期内にプロセス写真を残し、チェックも重ねていましたが、注文者からのクレームにどこまで正当性があるのかを十分に検証できていないまま、請求額だけが示される形となりました。

また、注文者からは「本来であれば使うはずの部材を使っていない」などの指摘もなされました。X社には注文者から一任されていたという認識があり、説明不足があったのではないかと後悔する気持ちもありました。しかし、いきなり700万円という高額の損害賠償を突き付けられ、どう対処してよいのかわからない状況に陥っていました。

注文者とX社だけで話し合いを試みたものの、感情的な対立もあり、まともな協議が成り立たなくなりつつあったため、X社は弁護士に相談することを決意しました。できれば法的なトラブルにせず円満に解決したいという思いもありましたが、高額な損害賠償請求は会社の経営を揺るがす問題です。万が一、支払わなければならなくなると、キャッシュフローの悪化や信用不安の拡大につながるおそれもありました。

相談後の対応

当事務所の弁護士は、まずX社からヒアリングを行い、契約書や見積書、施工写真、報告書などの資料を丹念に確認しました。そのうえで、注文者が主張する「工事の瑕疵」や「損害額」がどこまで正当化されるのかを検討するため、以下のポイントに注目しました。

  1. 契約書・合意内容の精査
    土木工事等について、どのような仕様と品質を約束していたのかを把握することは最重要です。X社の場合、契約時に取り交わした書類に加え、注文者からの工事依頼に伴う見積書が存在しました。これらの書類を突合し、「実際には何を、どの程度の品質で施工する義務があったか」を正確に把握しました。
  2. 施工記録・写真の検証
    施工に瑕疵があったかどうかを判断するうえでは、工事中の写真やチェックリストが重要な証拠となります。X社が保管していた写真を時系列で整理し、土木工事の工程や施工処理の様子を確認しました。
  3. 注文者側の主張する損害の内容・金額の妥当性
    注文者は「修繕工事費」等による損害額を合算して約700万円を請求していましたが、その金額算定根拠には不明瞭な点も見受けられました。たとえば、施工箇所を「全交換」する前提で算定している見積りが提出されていましたが、X社の専門家の目線からすれば、そのような大がかりな再施工は不要であり、仮に補修を行うとしてもごく一部の範囲で十分と考えられるものでした。
  4. 法的観点からの責任追及の可否
    建設工事請負契約においては、受注者(X社)に「瑕疵担保責任(旧民法上)」「契約不適合責任(現行民法上)」「債務不履行責任」などが問われる可能性があります。弁護士は、注文者がどの条文を根拠に請求をしているのかを分析し、そもそも契約上の義務違反があるのか、そして損害との因果関係があるのかを検証しました。

これらの検討を踏まえ、弁護士は注文者側に対して「瑕疵の不存在」「債務不履行責任の不存在」「損害額の相当性の欠如」という三点から反論しました。具体的には、「そもそも施工不良が確認されていない部分についてまで全面改修費用を請求するのは不当である」「契約書等から、X社に重大な落ち度や義務違反があったとは認めがたい」などの主張を展開しました。

最終的に、注文者とX社との間で交渉を重ねた結果、請求額を10分の1以下にまで減額する形で合意が成立しました。初めに提示されていた700万円からは大幅な減額となり、X社にとっては大きな負担を回避できた成果といえます。

担当弁護士からのコメント

建設工事の分野は、施主(注文者)と工事を請け負った業者の間で、工事の品質や施工内容の解釈をめぐってトラブルが発生しやすい領域です。特に、施主側が「ここが気に入らない」「期待どおりではない」と感じた場合、その主観的な不満が「瑕疵」や「損害賠償」に直結してしまうことが少なくありません。しかし、法律上は請負契約の内容に基づき、「約束した施工内容が守られなかったか」「施工に欠陥があったか」「その結果としてどの程度の損害が生じたか」を厳密に検証する必要があります。

本事例では、注文者が高額な賠償請求をしてきた背景に、「工事に対する漠然とした不満」をまとめて請求してしまった面がありました。施工の不備といった具体的な問題以外にも、コミュニケーションのすれ違いなどが混在し、その結果として膨らんだのが700万円という金額だったかもしれません。

しかし、法的に損害賠償を請求するためには、①工事の瑕疵または契約不適合、②債務不履行となる施工ミス等の立証、③その結果として発生した損害の立証、のすべてが必要になります。単に「納得できないから」という理由だけでは高額な賠償は認められません。また、損害額についても「全面改修」を前提とした過大な見積りと、「部分的な修繕」で事足りる場合の実費との差は大きいと言えます。

一方で、請負業者側が「全く問題ない」「一切直すつもりはない」と突っぱねてしまうと、施主との関係が険悪化し、交渉が難航することもしばしばあります。

今回のケースでは、最終的に請求額を10分の1以下まで減額することができ、X社にも大きな影響を与えない範囲で解決に至りました。工事内容をきちんと証拠化していたこと(写真、書類、報告書等)がポイントとなり、また、契約書や見積書が整っていた点も重要でした。もし施工の記録が曖昧であったり、口頭のみで契約変更を行っていたりした場合、法的紛争に巻き込まれた際の反論が難しく、裁判で不利になるリスクが高まります。

建設業界では、毎日の施工管理や顧客対応に追われ、書類の整備がおろそかになりがちですが、トラブルを防ぐためにも、日頃から「書面による契約締結」「施工の写真記録」「工事中の変更点の明確化(追加見積書・合意書などの作成)」を徹底することが大切です。万が一、施主から高額な損害賠償請求を受けた場合でも、記録が充実していれば法的に反論しやすく、実際に不足があれば補修等で柔軟に解決が図れます。

当事務所では、建設工事に関連する紛争について、受注者・発注者のどちら側からのご相談もお受けしています。請負業者が理不尽な請求を受けて困っている場合や、逆に施主として正当に不具合を訴えているにもかかわらず対応してもらえない場合など、様々なご相談が寄せられます。いずれにせよ、状況を正確に把握し、法的根拠を踏まえた交渉が不可欠です。

「損害賠償請求をされたが、どこから手を付けたらよいか分からない」「本当に支払わなければならないのか、そもそも工事が悪かったのか自信がない」といった場合は、早めに弁護士にご相談ください。必要に応じて、建築士等の専門家の意見を仰ぐことも可能です。最終的に裁判になるケースもありますが、多くの場合は示談交渉で解決できる可能性があります。今回のX社のように、一方的な高額請求を鵜呑みにせず、粘り強く交渉を進めることで大幅な減額や双方納得の補修案を得られることもあります。

 

※本事例はプライバシー保護のため、実際の案件を一部脚色の上、一般的な事例としてまとめています。記載されている金額や工事内容、経過などはあくまで一例であり、実際の事案によっては異なる結果となる場合があります。詳しい法的な見通しや手続の流れについては、個別に弁護士へご相談ください。

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WRITER

弁護士 長瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約160社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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